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職業遊び人


あれから、あっという間に一年が過ぎ去った。

修行は一年間欠かさず続けていて、不思議な踊りもだいぶ様になってきた。

しかし魔力を吸い取るようなイメージで踊ったら、道行く人がふらふらしだしたのでそれ以降やっていない。

でもその後ハッスルダンスを踊ったら、急にシャキシャキ動き出したから大丈夫だと思う。

多分。


遊び人として、やっていく覚悟はできている。その手ごたえもある。

後は、お母さんを説得するだけだ。


切るのが面倒でいつのまにか伸びた髪を革ひもでさっと結び、私は簡素な外出着に着替えると寝室を出た。


「おはよう、お母さん」

「おはようレティ……旅立つの?」

「う、うん……なんでわかったの?」


びっくりして問い返すと、お母さんは苦笑した。


「見てればわかるわよ。決意は変わりないの?」


私の言葉を遮ったお母さんの言葉は、覚悟を問うように重かった。

お母さんの目をじっと見つめると、私は決意を込めて頷いた。


「私、立派な遊び人になる!」

「あ、ああ、そう……まあ、頑張りなさい」


何故か脱力したようなお母さんの様子を不思議に思いつつ、私は首を傾げた。


「いいの? 前は反対していたのに……」

「はあ、もういいわ。あなたが真剣に修行? をしていたのはわかったから。やれるだけやってみなさい」

「ありがとう、お母さん!」


感動に打ち震えていると、お母さんにしっし、と追い払われた。


「旅に出る前に、教会でジョブを選んでいきなさい。その方が道中安心でしょう」

「え、でも、お金は……」

「お母さんが用意しておいたわ。さあ、行きなさい」


手渡された革袋には、銅貨や銀貨が入っていた。

パッと見ただけだけれど、教会でジョブを変えてもらえるだけのお金が入ってみるみたいだった。

成人した後も修行に明け暮れていたので、私は恥ずかしながらお金を持っていない。

近くの街に着くまでに、適当に魔物を倒して稼ごうと思っていたのに。


「あ、ありがとう! 立派な遊び人になって、いっぱい仕送りするから!」

「はいはい、いってらっしゃい」


お母さんに手を振ると、私は意気揚々と教会へとむかった。

教会の神父さんにお布施を払って、ジョブを変えてもらうのだ。


「レティ! なにニヤニヤしてるのよ、気持ち悪いわよ!」


掛けられた声に首を巡らせると、腰に手を当ててふんぞり返った少女がいた。

そばかすの散った顔に赤茶色の髪の、生意気そうな女の子の名前はアイシャ。

村長さんの娘で、なかなかの美少女だ。

頭の高い位置でツインテールにくくっているのが、アニメキャラのようで何とも言えない。

でもまあ、日本人フェイスじゃない白人顔がデフォのこの世界だと、そんなに違和感がないんだけど。

アイシャの家は村の奥のほうにあるとはいえ、所詮は狭い村の中。

うちからそんなに離れていない。

家の近くの空き地で、立派な遊び人になるべく修行していた私に何度もちょっかいをかけてきていたんだよね。

アイシャも遊び人になりたいのかな?

まあつまるところ、一緒に修行をして遊んだりもした幼馴染だ。


「アイシャ、おはよー」

「おはようじゃないわよ! もうそろそろ昼だってのに、相変わらずぼけっとしてるわね。どこ行くの?」

「教会だよ。ジョブを変えようと思って」

「えっ! ま、まさかこの村を出ていくの?!」


アイシャはびっくりして目を見開いた。

そんなに驚くようなことかな、と思ったけれど、マルク村の村人はほとんど村から出て行かないんだった。


「うん。世界を見て回るんだ!」

「へ、へえ。なんのジョブにするの?」

「遊び人だよ!」

「あ、遊び人~~?!」

「うん。あ、ついた。じゃあ行ってくるね!」

「ま、待ちなさいよ! わ、私もジョブを変えるんだから!」

「アイシャも?」

「そ、そうよ! お小遣いは持っているもの!」

「ふうん、じゃあ行こ!」



「これより、ジョブ選択の儀を始めます」


神像の前の祭壇に立っていた神父さんが穏やかな声音で話し出し、私とアイシャは緊張した面持ちで居住まいを正した。


「お二人もご存知でしょうが、勇者様が魔王を倒して以来、世界に平和が訪れました。しかし、あの暗黒時代よりも減ったとはいえ、魔物の被害は少なくありません」


神父さんの言葉に、私はうむうむ、と頷いた。

魔王に先導されて人里を襲う魔族は大人しくなったが、魔物は自然の生き物ともいえる。

魔力を糧のひとつとしているため、魔王の存在が魔物たちを活性化し、前世の私も苦労した。

現在でもそれなりに魔物は存在し、被害もあるということだろう。


「皆が勇者様のように魔物と戦う必要はありません。村を守ること、助け合い生活していくことも、私たちの大切な役割です。貴方たちがおのおのにあった職業を選び取ることができるよう祈っています」


神父さんは、アイシャに優しく語りかけた。


「貴方は、何者になることを望みますか」


緊張にカチコチになったアイシャは、たどたどしく言葉を発した。


「私は、私は……ま、魔法使いになりたいわ!」

「立派な職業です。神よ、アイシャに祝福を」

「ひっ?!」


神父の言葉とともに、神像から光があふれ、慌てるアイシャを包み込む。

やがて光がおさまったとき、神父が優しく告げた。


「おめでとうございます。神は貴女を魔法使い(見習い)と認めました。これからも精進するのですよ」

「は、はい!」


振り返ったアイシャの表情は、先ほどの緊張が嘘のように誇らしげになっていた。

心なしか魔力があがっているような気がする。

やっぱり、魔法使いのジョブを選んだから、ステータスに補正がかかったとかかな?

そんなことを考えていると、アイシャに話しかけられた。

神父さんはアイシャの身分証明のプレートを作っている。

村を出るときには身分証明のプレートをもっていかないと、次の街にはいれないからね。

村人がジョブを変えるときは大体村から出ていく時だから、カードを新しく作ってくれてるんだ。

っていうか、アイシャは村の外に出るのかな?


「ねえ、本当に遊び人になるの? そんなに遊びたいの?」

「遊びたい? 職業遊び人は、遊んでいる人じゃないよ」

「そ、そうなの? 遊び人ってなんなの?」

「遊び人は、支援、回復を得意とする、パーティの後衛だよ。独自のスキルを駆使し、魔法とは違う援護を行うことができるの!」

「す、すごいわね、遊び人……!」


驚愕に目を見開くアイシャに気をよくして、私の口は饒舌に回りだす。


「でしょでしょ! 魔法を使えない結界空間でも、遊び人のスキルなら活躍できるんだよ!」

「おおお! すごい!」

「……レティ、貴方の番ですよ」


神父さんに呼ばれて、私は神像の前に立った。


「貴方は、何者になることを望みますか?」


先ほどと同じ質問に、私は胸を高鳴らせながら答えた。

やっと遊び人になれる!


「私は、遊び人になる」

「は……?」

「私は、遊び人になる!」


聞こえなかったのだろうか……神父さんは一瞬呆気にとられたような顔をした。


「レティ、本当にそれでよろしいのですか?」

「うん」

「………………立派な職業です……神よ、レティに祝福を……っ?!」


神父さんのその言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、私は恐ろしいほどまばゆい光に包まれた。

強く神々しい光がおさまったとき、私は自らの体の中に以前とは違う力が芽生えているのを感じた。


「な、何事ですか、この光は……」

「神父さん、私は遊び人になれたの?」


目を見開いて呆けているところに悪いとは思いつつ、私は神父さんを急かした。


「あ、ああ、すみません。神は貴女を遊び人(真)と認めました。これからも精進……え、真ってなに?」

「よし!」


やっと遊び人になれた!



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