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生まれ変わって

前世の記憶とともに生まれ落ちた私は、すくすくと成長した。

今の私の名前は、レティ。

今年で無事に十四歳になって、成人を迎えた。

私が産まれたのは、イーフリート帝国の片田舎の農村、マルク村。

イーフリート帝国といえば、なんと勇者だったころの私が生まれた国だ。

とりあえず馴染みの国でよかったわ。

女子高生の記憶しかなかった頃は、生活習慣の違いとか、前世との違いにだいぶ苦労したけれど、もう慣れてるもん。

でも、以前は帝国ではなく王国だったはず。


問題は、あれから何年が経っているか。

言葉が話せるようになってから、周りの大人に聞いたところ、魔王討伐は、おおよそ三十年くらい前みたい。

そして魔王を倒した勇者のいたイーフリート王国が力を持つようになって、周りの小さな国々を吸収し、大きな帝国が築かれたって事らしい。


前世では、魔王の存在によって活性化された魔物たちがそこかしこに溢れ出し、人類は危機に瀕していた。

魔王討伐後、疲弊した国々を助けて併呑していったっていうんだから、帝国もなかなかやるよね。

頑張ったかいがあるってものだよ。


魔物たちも活性化がおさまって、前世の時みたいに積極的に攻めてくるようなことはなくなったらしい。

でも通常程度にはいるって話だけど。

私は活性化してるときしか知らないからよくわからない。

野生動物みたいな感じなのかな?


「でもそれも、旅に出ればわかるよね!」


私は今日、生まれ育った村から旅立つ。

行き先を決めているわけじゃないし、明確な目的があるわけでもない。

平和な世界が見てみたい、というのが大きいかな。

前世では戦闘に明け暮れていたから、観光とか出来なかったし!


勢いをつけてベッドから飛び降りると、旅のために用意した服に着替える。

なんてことない生成りの地味な布のチュニックに、なんてことない布のズボン。

前世で使ってた伝説級の装備なんてないけど、勇者じゃない私にはこれで十分。

マルク村みたいなド田舎に、武器屋や防具屋なんてないからね。

鍛冶屋はあるけど、壊れた鍋の修理専門みたいなもんだし。

だからろくな武器もないけど、何故かステータスはそのままみたいだし、魔法もそのまま使えたから、大抵のことは何とかなると思う。

なんでステータスがそのままなのかはわからないけど、レベル一から再スタート! とかじゃなくて良かったよ。

まあ、明確なレベルがあるわけじゃないから、



「あら、レティ!起きたのね、おはよう!」


部屋を出ると、台所……かまどでは、お母さんが朝食を作っていた。

マルク村では平均……よりも少し貧乏な我が家は、お母さんと共同で使っている寝室から出たら、そこはもう台所兼食堂兼居間。

強いて言えば玄関も兼ねているけど。


青灰色の髪の私とはあまり似ていない、豊かな赤毛を持つ母は、粗末な木のテーブルに簡単な朝食を置いた。


「おはよう!手伝う」

「ありがと。せっかくのレティの旅立ちの朝だっていうのに、こんな食事でごめんね」

「なにいってるの! 十分ごちそうだよ!」

「レティったら……」


出来上がった料理をテーブルに並べ、スプーンを置いていく。

木皿の中には、たっぷりのスープ注がれていて美味しそうな湯気が食欲をそそる。

パンもあまり柔らかくはないけれど、かっちかちの黒パンじゃない。

前世では、多くの農民たちは底が見えるほど薄く具のないスープに、硬い黒パンで細々と暮らしていた。

勇者として戦場を駆けずり回っていた私が食べていたのも、味もそっけもない携帯食ばっかりだったんだ。

それに比べれば、こんなあったかい朝食が食べられるなんて、本当に幸せだよ。


二つの食器を並べると、母と私は席につき日課の祈りを捧げる。

今日の糧を与えてくれる、神様と勇者様に感謝するの。

……勇者様ってところがなんともむずがゆくって恥ずかしい。

ちなみに我が家には父親はいない。

母と私の二人暮らしだ。


「レティ、そういえばジョブは決めたの?」

「うん? 決めたよー」


ジョブというのは、自分の戦いのタイプの様なものだ。

前世の私のジョブは、当り前だけれど『勇者』だった。

『勇者』は天啓によって勝手に決まるもので、選ぶことも拒否することも出来なかった。


この国では十四歳で成人になったら、教会で自分のジョブを選べるようになるんだ。

私、自分のジョブを選べるのを楽しみにしてたんだよね。

ちなみにお母さんのジョブは『村人』で、これは全員が最初から持っている。

街だったら街人とかになるんだけど。

ジョブをかえるのはお金がかかるから、ほとんどの村人がジョブをかえないで一生を過ごす。

でも私みたいに旅に出るには、ほかのジョブのほうが戦いに有利なんだよね。


「もう決めてたのね。レティはどのジョブにするの?」

「遊び人!」

「は……?」

「だから、遊び人!」


女子高生だったころにプレイしたゲームであった職業だ。

確かこの世界でもあったはず。

実際になった人は見たことないけど。

職業『遊び人』!

観光で世界を回る私にはぴったりだよ!

うきうきとそう告げると、お母さんは目をむいて怒り出した。


「な、何を言ってるの!そんな職業、お母さんは許さないわよ!」

「なっ!」

「女の子なのに遊び人って!そんな不良に育てた覚えはないわ!」

「ち、ちが……誤解っ……不良じゃなくて、遊び人だから! 立派な職業だよ!」


烈火のごとく怒り狂った母に体が反応し、瞳には勝手に涙が盛り上がってくる。

魔王と相対しても眉ひとつ動かさなかったこの私が……!

母の尋常じゃない圧力に耐えながら、私は必死に言葉をつなぐ。


「あそっ、遊び人になりたいのには、理由っ理由があっ」

「なんだっていうの!お母さんが納得できる理由があるなら言ってみなさい!」

「くっ!」


『勇者』とはほとんど対極にあるっていってもいいジョブ『遊び人』に憧れてたから。

だって、職業『遊び人』だよ?

めっちゃカッコいいじゃん!


しかし、それを説明するには私の前世のことから説明しなければならない。

だが、自分の前世が勇者であるなどと、誰が言えようか。

自分で言うのもなんだけど、勇者っていうのは英雄なのだ。

そこで突然、私の前世、勇者なの!きゃぴ!とか言えば、かなり痛々しいことは私にもわかる。


ゆえに私は、母に対して沈黙を貫く事以外、なにも出来なかったのだ。

……決して、不純な理由だったからではない。


「ゆ・る・し・ま・せ・んっっっ!」

「な、な……!」

「旅立ちも許しません!」

「ええーーーー! お、横暴! だって私、もう成人したんだよ! 一人前だよ!」

「いけません! どうしても遊び人になりたかったら、私を納得させてからにしなさい!」

「なにーー!」


かくして、母の無情な宣告により、私の旅立ちは阻止されたのであった……ガクリ。


その日から私は、遊び人の修行に明け暮れた。

具体的には、ダンスだ。

脇を締め、直角に曲げた肘を体の脇で構えてから、勢いよく両手を天に向かって振り上げる。

前世の力を受け継いでいるため、その振り上げ振り下ろしのスピードは目にも止まらぬほどの速さである。


ブンッ!!


「ハッスル!」


ブンッ!!


「ハッスル!!」


これを一日に一万回。

勇者のステータスを受け継いでいる私にはへでもない

これが終わったら、足さばきの練習だ。

確か、『不思議な踊り』とかそんな感じのイメージだ。

正しいステップはさっぱりわからないけど、どんな動きにも対応できるよう、練習しておく事が大切だよね。


「魔力を吸い取るようなイメージで、不思議な踊り、不思議な踊り……」


ユラユラと体を動かしながらステップを踏む。

これもまた、常人には視認できないほどのスピードが出ているため、恐らくただ揺れているようにしか見えないだろう。


真剣に鍛錬する私に圧倒されたのか、遠くで村のおばちゃん達がしばらく眺めては、早足に通り過ぎて行くのだった。



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