#16 幼馴染の絆
「やってまいりましたぁっ、研修合宿二日目ぇっ!」
そう叫んでいるのは、コミュニケーション英語担当でありこの学年の学年主任、鳴門秀英先生だ。面白いし授業も分かりやすいんだけど、正直五月蝿すぎて疲れる。
「予定表にもある通り、今日は班対抗バトル大会だ。他の学年でもあるらしく、生徒同士でやった後先生通しでも行う。先生達は個別だ。トーナメント形式で、1班対2班…というように一回戦は組まれる。まずは1班対2班だ。五分後に始めるから、リーダーを決めたりして待機してくれ。リーダーには五つ当たり判定装置を装着してもらい、相手のリーダーの装置を全て反応させたら勝ちだ。」
そういう組み方か。
「リーダーは谷黒でいいな?」
「「「さんせーい!」」」
「え、俺⁉」
「ここまででも一番落ち着いているじゃないですか。それに、強そうですし。」
「まぁ、良いけど…。」
「じゃあ決まりだね。」
えぇ、こんなあっさり決まっていいのか?
「ねぇ、私達の相手って5班だよね?」
「5班…A組は万作と木葉とキャドバリー、B組は…」
「途村彩人君と鶴岡千尋さん。それぞれスキルは『パレット』と『プリズム』よ。二人共美術部員なの。A組の人は…」
「あ、椎名君なら知ってますよ。共に漫画研究会所属なんです。他の人も含めスキルは知りませんが…。」
「万作君は晴人君の幼馴染で、スキルは『創造』。小柄だけど、あの班では一番警戒すべきだね。キャドバリーさんは血ぃ吸うと厄介で、木葉君に関しては温度攻撃はあまり効かないんだ。」
「うーわ、6班強いじゃん。」
本当にそう思う。
「はい、じゃあリーダーは集合!」
俺はすぐに向かった。集まった俺含め八人には、すぐに装置が着けられた。触れて当たり判定が出ると、黄色から赤に変わるとのこと。立花蜜柑という女子以外のリーダーは知り合いだ。彼女以外の面子は、雨宮、家迫、岡本、万作、堀内、夜月、そして俺だ。万作と目が合った気がするけど…気のせいか。雨宮や家迫がやりたがるのは何となく分かるけど、夜月や堀内ってあまりイメージが湧かない。万作もそんな奴じゃなく、どちらかというと陰キャに含まれる。夜月リーダーって、ちょっと怖いな。四人班ってあたり分からないけど。
場所を移動して、軽く準備体操をする。前の試合は2班が勝った。B組の梅山という男子が班員のスキルを強化し、家迫中心に攻撃をしていた。強いんだな、彼奴。
「千尋、お互い頑張ろうね!」
「友といえど、手加減は出来ませんからね。」
「あ、うん。華火ちゃんも愛課ちゃんも、頑張ってね!」
女子達は楽しそうに話している。中曽や途村は集中力を高めている、流石だな。
「おー、谷黒とか西ノ宮が相手かー。」
「そっち、中々強い人が揃っているのね。楽しみだわ。」
「そっちこそ、強者揃いだと思うけどね…。」
お互いに少し話しておき、緊張を和らげる。これも一つの手だな。
「…晴人」
「何だ、万作?」
「そっちのリーダー、君なんだね。まぁ、予想通りだけど。」
「あぁ。さっき、万作もいたよな?」
「うん。…あ、やっぱりって思ったでしょ!」
その通り。幼馴染って怖い。
「まぁ…手加減なしだから、本気でね。」
「分かってるさ。そっちこそ、宜しく。」
「うん。」
『この試合、3班の勝利ー!次は、5班対6班だー!』
いつの間にか俺達の番になっていたので、移動する。うわぁ、緊張するな…。
「では…始めっっ!」
試合が始まった。…え、いきなりチャンバラかよ、木葉⁉
「リーダーからいかないとなー…」
「任せて!」
「西ノ宮かぁ…相手するぜ!」
「宜しく頼むよ。」
「ごめんなさいっ!」
B組の女子生徒…鶴岡が、太陽光を屈折させてきた。うわ眩しっ。『プリズム』って、光の事だと思ってたけど違うのか。
「こっちも攻撃仕掛けるぞ!」
「電気…流しまーす!」
西ノ宮!今、5班は皆痺れているらしい。ありがとう!
「…はぁぁぁぁあっっ!」
そうして俺は、“気”を溜めて衝撃波を放った。相手チームは勿論、味方もダメージを受けているように見えた。おかげで万作のはもう赤三つだ。あと二つ。
「ちょ、俺らも食らってるんだけど。」
「ごめん…。」
「でも格好良かったですよ。…あ、避けて!」
途村がスキルを使った。『パレット』って、カラフルな色に爆発するスキルなのか。予想出来ないわ!
「サンキュ!」
でも油断は禁物。今度はキャドバリーがソードを使って襲いかかる。しかも吸血しようとしている、マズい!
「おりゃっ!」
「痛っ…あら、邪魔されちゃったわね。」
中曽がスキルを発動して護ったみたいだ。しかもスキルを発動したらしく、キャドバリーは歯を痛めている。ナイスプレー!
「おし、このまま攻めに行くぞ!」
「了解!」
万作のはあと二つ、俺のは五つ。このままいける気がする。…とその時!
「おい、一つ赤付いてるぞ!」
まさかと思い、確認する。…え、いつの間に!目の前には、右手が見えなくなっている万作。透明マント的な布でもかけているのだろうか。
「…そう簡単にいかせないよ。」
「流石、椎名リーダー!」
「そういう使い方ですか…!」
「ちょ、このままじゃやべぇって!どうする、谷黒!」
「中曽、攻めは任せた!」
「はぁぁっ⁉」
ひとまずこうしよう。彼ならスキルを使えば防御面が強くなる上、最悪体当たりでもダメージを与えられる。あとは俺が囮になれば…。そうこうしている間にも、木葉を中心に追手が迫る。というか彼奴脚早いな。やばっ、追いつかれる…!
『試合終了ー!この試合、6班の勝利ー!』
…勝った。はぁ、助かったぁ…。
「中曽お疲れー!」
「はー、一時はどうなるかと…谷黒ー、お前危なっかしいぞー?」
「はは、すまん。でもお疲れ様!」
俺達は、中曽を四人で囲む形で喜びを噛みしめる。一方5班はただただ疲れている。万作に関しては地面に寝ている。
「お疲れ、万作。…満身創痍だな。」
「何だよー、こっちだって惜しかったんだから。そっちの面子強くない?」
「そっちこそ。お前のスキル、本当強いと思うぞ。」
「ありがとう。…その、頑張ってね。応援してるから。」
「ありがとう。」
『5班、6班。次の試合があるから、早く戻れー。』
「「「「「「「「「「すみません!」」」」」」」」」」
その後は7班と8班の試合を見た。勝ったのは、人数が一人少ない8班。夜月強いな、名前通りの“策士”じゃん。漢字違うけど。…あれ、次の相手8班!?…策を練り直すか。