#1 入学式と小さな俺
四月。それは出会いの月。俺は今凄くわくわくしている。それは、今日から憧れの高校生活が始まるからだ。全寮制で、学校の敷地内に寮もある。身長もあまり高くなく地味なので、中学時代は何故か『コバルト』というあだ名をつけられていた。名前から連想したのかもしれないけど。襟やボタンが珍しいジャケットをワイシャツの上に来て、長ズボンを履き、門をくぐる。そう、俺は今日から私立西ノ宮高校の生徒となるのだ。
下駄箱で履き替えると、クラス分けの紙を貰う。俺は…A組出席番号十四番、谷黒晴人。これだ。
教室についた。クラス数が少ないので、一・二年生は同じ階だ。何しろ、各学年二クラスらしいしな。
「お、おはよう。今日会わなかったな。」
俺より早く来ている奴が二人いる。一人はこいつ、椎名万作という幼馴染。前の席らしい。家が近所で、幼稚園からずっと一緒だ。まさか高校も一緒になるとは。それにしても、何で学校で漫画読んでるんだ。
「え、高校だから煩く言われないでしょ。というか好きな事やっちゃいけない理由ってある?」
「確かにそうだけどさ…」
駄目だ、完全にオタクだ。あの頃は活発に外遊びしていたのに。今じゃ暗いし眼鏡かけてるし、何より漫画とかに熱中していて他の事に目もくれない。
「はぁ…えっと、宜しく」
「あ、おはよう。席、隣なんだね」
俺の左斜め後ろに座っている生徒がもう一人…天使の羽をモチーフにしている髪飾りをした女子だ。出席番号順に四列に並んでいるので、僕は左から二番目の後ろから二番目だ。という事は彼女は出席番号二十番、渡部小鳥さんか。名前からして飛びそう。
「えっと…渡部さん、だよな?」
「呼び捨てでいいよー!私、かしこまったの苦手で…」
「じゃあ渡部、何でこんな早く来てるんだ?」
「えへへ…私鳥が好きでね、早く来たら沢山会えるなって。…どうしたの?」
「「可愛い」」
流石の万作も漫画を読む手を止めて聞いていたらしい。でも鳥に会う為に早めに…ちょっと珍しいかも。
暫くして全員が揃った。担任は誰だろう。
「おはようございます。私は担任の願寺史頼、教科は日本史です。」
ち、ちっちゃい…ざっと身長は150センチないくらいだろうか。女性にしても小柄だ。…いや、名前にツッコむべきだろうか。それにしてもこの先生、愛らしい。
「入学式お疲れ様です。先生は物を取りに行くので、その間近くの人と少し話してみて下さい。」
完全フリーか。既に朝、友達は出来た。とりあえず、近くの人に話しかけようかな。右隣は小倉翔という男子生徒。音符のヘアピンを留めているあたり、かなりの音楽好きなのだろう。ただ、声は掛けづらい雰囲気だ。
一方、後ろの席は西ノ宮銅という男子生徒。あれ、西ノ宮…?
「俺、谷黒晴人。宜しくな。」
「ぼ、僕に対し対等に話すなんて…明日は嵐だろうか」
急に何だ、この人。
「っとすまないね。僕は西ノ宮銅。自慢ではないけど、前校長の孫で副校長の次男なんだ。」
次男⁉兄弟がいるのか…。いや、それ自慢して良い事だと思うけど…
「兄弟ってのは…」
「二年に兄が、三年に姉がいるよ。二人共生徒会で、今年度もやるとか何とかと言っているんだ。入学早々だが、僕も理候補するつもりだよ。」
生徒会かぁ…俺は面倒臭そうだからやらないけど。あ、でも部活は入っておきたいなぁ。
「でもこの高校凄いな。私立だけど、制服の着崩し自由だし。」
「あぁ、うちは先祖代々自由をこよなく愛する人が多いからね。僕もこの校則は悪くないと思うよ。」
「あれ、晴人君また友達増えたの?流石だね!」
「いや、俺はクラスに馴染みたいってのが大きいけど…」
「渡部さん。遅れたけど宜しくね。」
「いいよいいよー、堅苦しくしなくて。宜しくね、銅君。」
この二人、席隣…なんだよな?
「あ、晴人君は周辺の子と話してる感じ?じゃあ右隣の人とは?」
「いや、まだなんだ。一回話してみようかな。…えっと、俺は谷黒晴人、宜しく。」
「ふーん…宜しく」
うわ、まさかの塩対応⁉
「こら、翔。愛想悪すぎ。ごめん、私は遠藤奈子。コイツは小倉翔。コイツとは中学も一緒だったんだ。こんな奴だけど根はいいからさ。宜しくね。」
遠藤と小倉…友達以上に見えるのは気のせい、かな?
「にしても、谷黒はもう周りと話してるのか。」
「いや…俺、馴染めるようにするには何がいいか考えて…結果、やっぱり声を掛けるのが一番かなと」
「成程なー、私もそういうタイプなんだ。」
「…いや、それ以外にも理由あるだろ。」
「困ってるだr…っておい、本当愛想悪いぞ。谷黒、そんな思い詰めなくていいからな…どうした?」
「…いや、何でもない。あ、そろそろ先生来るぞ。」
先生が戻ってきて、配布物を配る。量が多かったようだ。
「明日は全校朝礼があるので、服装を正しておくように。また、自己紹介をするので内容を考えてきてください。タブレットも使います。ホームルームを終わります。」
「ありがとうごさいました、さようなら。」
「さようなら。」
やっと部屋に戻れる…!俺は少し急ぎめに教室を出た。
「晴人君、ちょっと話…」