プロローグ『主人公「勧善懲悪? いいえ、勧悪懲善です」』
ある青年は目覚めると毒虫になっていた。
ある青年は目覚めると英雄になっていた。
またある青年は目覚めると魔王になっていた。
しかし、自分の場合は序盤のボスだった。
になってしまった。
……うん。なってしまった。
唐突に何を言っているのか分からなかったと思う。自分でも分からない。けど、これから語る自分の異世界人生はそれから始まった。そう。当時――多分だけど、今も――流行であった“御約束の展開”に巻き込まれ、どう言う訳か魔王のはずが序盤のボスに転生させられ、英雄やら勇者やら――と言う名のキ○ガイとチート共々――を仲間と共に倒し続けた自分達の物語。つまり、生き残るためなら、ありとあらゆる術を使い、正義は必ず勝つと言う神話に対して中指を突き立てた物語でもある。
ちょっと瞼を閉じて振り返れば、昨日の出来事のように思い出す。
何? 経験値を置いてけ?
自分、ボスとは名ばかりの雑魚ですよ。
なら、訳ありの武器や防具を置いてけ?
無いならレアアイテムを置いてけ?
それなら有るには有るのだけど、ね。
そんな優位な物、自分が使いたいよ。
……もしあったら、あの数々な困難。どんだけ楽が出来たのやら。
兎に角、悪役がしそうなことを色々とした。周辺の村や町に大量の貢物や生贄の要求は勿論、従わなければ慈悲もない略奪、立ち向かうならば皆殺し、従うならば更に要求を乞う。時には我が身が一番と思う貴族様と手を組み、慈愛に満ち溢れた善良な貴族共を蹴り落とす。そして、訪れる勇者や英雄、転生者や転移者を、罠と仲間で、お出迎え。合言葉は正義なんて糞食らえ。悪辣非道な方法で完膚無きまで叩き潰した。
前世の平々凡々な生活をしてきた自分では考えられない悪行である。
え? そんな悪いことしたのだから自業自得だ? 因果応報だ?
いや、だって、人間達が言っている正義、正義って、ね。
自分がドン引きするぐらい酷いことですよ?
そりゃ、あのキチ○イとチート共々が、音頭を取っているのですから。
そんな訳で、この物語は悪人がうじゃうじゃいるけど、善人は丸っきり登場しない。だからとは言わないけど、人間が、魔物が、自分のことを、自分たちのことを、そして英雄や勇者のことを、なんと後世に伝えているのか、伝えようとしているのか。それを知りたいと思わないし、もし知る術があったとしても、使うつもりも無い。
そんな勧善懲悪ならぬ勧悪懲善な物語でよろしければ、最後まで聞いて欲しい。
きっと、ろくでもないことを後世に伝える、自分の話を。