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7、アーシャ=イル=ダルカナ

天界、対人界用の暗殺部隊

その1人目Aことアーシャ=イル=ダルカナ

アンバーの瞳は、これまでどんな景色を見てきたのだろうか?

 天界の暗殺部隊26人。

主な任務は、天界にとって都合の悪くなった人間を闇に葬る事。


 Aのアーシャ=イル=ダルカナ。

 Jのジェシカ。

 アルファベットのR、ラングス=テルモア。その教官だったレンゲ。


 美人で、それぞれ個性的。

 地上のいかなる男子でも、言い寄られたら瞬殺だろうが、命に関わるところで瞬殺されかねない。非常に怖い。もちろん、俺はそんな事もおくびにも出さない。小心者とか思われそうだし。ジェシカ級の強者が、敵側に23人もいるとは正直ビビるぜ。

とにかくアスラの警護で、みんなの足を引っ張らないように修行あるのみ!


「えっと、7,8,9!」


 俺の正面に座る永遠の8歳児アーシャは、すごいスピードでカードを置いていく。見た目は高校生だが、精神年齢は小学校の低学年。


「JQK!」


 迎え撃つ俺も、今回ばかりは負けられない。俺にだって意地がある。


「いっせいの!」


 掛け声と共に、互いのカードが一枚めくられる。トランプゲームのスピードで真剣勝負だ!目下の所、俺の17連敗中。今度こそ勝つ。俺は最後のカードを場に置き、2枚のカードを残したままのアーシャに勝利宣言する。


「やった!初勝利!」


 アーシャに勝利宣言すると、俺はガッツポーズする。実に大人気ない。


「う、うっ・・・」


 アーシャのアンバーの瞳に涙が溢れる。よほど負けたのが悔しいのか、頬には大粒の涙がこぼれ落ちていく。本気で泣き出しやがった。

正面からアーシャの顔を見ていると、このまま成長すれば相当の美人になるなと改めて思う。セミロングの黒髪は、ほんの少し茶色がかったサラサラヘア、目尻の切れた目、整った鼻、口角の上がった口、ピンクの愛くるしい唇。

 普通、人間の顔は左右対称ではないが、アーシャの場合ほぼ左右対称で、ほくろ一つない顔の肌は、誰よりも透明感がある。


「いや、アーシャ悪かった!実は俺が間違えて勝っちゃったんだ。さっき出し間違えしたような」


「ジン、ズルしたの?」


 泣きながらアーシャは、顔をあげる。断じてズルなどしていないが、精神年齢が幼女を相手にムキになる事もない。


「いや、わざとじゃないんだ」


「ズルしたんだね!」


 なだめようとする俺を無視して、アーシャは真顔になる。気のせいか、アーシャの瞳が青く光った気がした。俺の直感がヤバイと言う。神具は手元にないが、どっから円盤が飛んでくるかわからないので、出来る限り防御の姿勢を取る。オリハルコンの円盤は木々をなぎ倒し、人なら真っ二つにするそうだ。


「アーシャ落ち着け!ここで神具はまずい」


 やたらと攻撃で神具の力を解放しては、修羅界をぶっ壊し兼ねない。

突然、頭に声が響き始める。何人もの人間に、耳元で怒鳴られている感じだ。俺はその場で頭を抱えて、うずくまる。あらゆる言語で罵声を浴び、思わず叫びたくなる。


「アーシャ!ジン!何をやってるの!」


 異変に気がついたラングスが、助けに来てくれた。頭の中の声も止む。


「ジンを相手に霊力を使うとは、何ごとですかアーシャ!?ジンを殺す気ですか!」


 ラングスがキレている。初めて見た。


「だってジンが悪いんだもん」


 アーシャは半泣きでむくれている。

 異常事態に備えて、俺たち5人の霊力は普段から繋がっている。その身に大きな危険が迫れば、みんなに霊力が伝わるという。


「ラングス、カードで遊んでいただけなんだ。アーシャもそんなつもりじゃなかったし」


 なんとか立ち上げると、俺はアーシャをかばう。まだフラついている。

ラングスは怒らせると怖い。今も木簡のお札を構えている。


「何を呑気な事を言っているのです。あと少し私の到着が遅れたら、あなたは狂い死にしていましたよ!」


 そうなのか?アーシャの術はそんなにすごいのか?


「アーシャの霊力の1つ、その瞳で相手に強力な精神崩壊を引き起こします」


 風呂あがりらしいジェシカもやってきた。事の次第をラングスが話している。どうやら大事になりそうだ。


「ここは、穏便に済ませられないかな?俺も悪かったし」


 レンゲに知られると、アーシャは怒られるどころでは無さそうだ。修羅界の独居房で数日反省とかありそうだし。


「仮にも神具を預かる者が、味方に自身の霊力を使うとは何事ですか。アーシャ、これが天界なら極刑ですよ!」


 ラングスは、まだ怒っている。


「ここはアタイに任せてくれないかラングス?良く言い聞かせるからさ」


 ジェシカが、助け舟を出してくれる。

 俺の緊急信号を受けて、一番焦ったのはジェシカのようだ、タオルを巻きつけた体から湯気が上がっている。ほとんどスッポンポンだ、目のやり場に困る。


「ジェシカまでそんな。本当に2人ともアーシャに甘いですね」


 天界では、兵器としてして育てられた、最初の暗殺者。学校があるわけでもなし、人との接し方もレンゲは教えるべきだったな。アーシャが可哀想に思えて来た。


「わかりました蓮華王には、私からうまく言っておきます」


 ラングスは構えを解いて、お札を懐にしまった。本気でアーシャ相手に、捕縛の術式を使うつもりだったようだ。捕縛術は例えるなら、図太い有刺鉄線で、身体をグルグル巻きにされる感じだそうだ。超辛そう。


「ジン、ちょっと行ってくる。もう泣くなよアーシャ」


 よほど、ラングスの捕縛術が怖かったのか、アーシャはジェシカにしがみついている。アーシャを連れて、半裸のジェシカが歩いて行く。見送るラングスと俺。


「ジン、私達には私達の流儀があります」

 

 青い瞳を俺に向ける。


「わかっているよラングス。俺も修羅界の住人だからな」


「けれど、そういったものを貴方が壊してくれると、私は期待しています」


 金髪をたなびかせ、俺にすごくキュートな笑顔で微笑む。はっきり言ってドキッとしました。


「それでは、ご機嫌よう」


 ラングスに、駆けつけてくれた礼も言えなかったが、女子にそう言われると嬉しい。是非、期待に応えたいものだ。色んな意味で。殺されかけた俺は、ばら撒かれたカードを片付ける。修羅界では地上の遊び道具は貴重品だ。


「ジンも着た切り雀だな。たまには洋服でも仕入れたらどうだ?」


 着た切り雀とは、随分と古い表現を覚えたもんだ。いつも同じ服の俺に、ジェシカが言っていた。

人間界にゲートを開けるのは、ラングス級の札使い。人界で授かった肉体で、霊力をある程度は使えないと、門を潜る事も出来ない。修羅界の俺たちがいる街では、俺たち4人とアスラ夫婦。他に数名しか、地上には行けないと言う。

今は緊急時、いつゲートの霊脈の通った人間界から、天界の刺客が現れるかわからない。平常時でも、年に数回の買い出しがいいところだそうだ。


 しばらくすると、ジェシカと一緒にアーシャが戻って来た。半裸を期待したが、我がフィアンセは、地上にいた時のスウェット姿だ。残念。


「あの、ジン。ごめんなさい」


 アーシャが近寄って来る。たっぷり泣いたのか、頬に涙の跡がある。


「いいよ。俺もアーシャを子供扱いしてごめんね」


 もし、無事に地上に帰れたら、ジェシカと俺でアーシャを引き取って、学校に通わせてやりたいと思った。俺も大人になったもんだ。


「アーシャね。大人になったら、ジンのお嫁さんになったげるからね」


 幼い娘に、将来はパパと結婚する、とか言われる心境だろうか。俺も笑顔でこたえる。


「それは嬉しいな。これからも仲良くしようね」


 なんとか、この場は収まったようだ。ジェシカにも礼を言う。


 空がオレンジ色になり、もうすぐ日が暮れる。異界でも1日は、地上の時間単位で24時間だ。朝は日が昇り、夜は満天の星空が広がる。ただ、月日の流れが存在しない異界では、季節の移り変わりを感じる事はない。時の止まった異空間で、朽ちる事のない人々。

 確かに、マンナが永久的に手に入るなら、何も困らないと天界人が考えるのもわかる気がする。


「ジン。いるかな?」


 そろそろ休もうかと部屋でくつろいでいると、レンゲがやって来た。昼間のアーシャの件か?


「おう、お疲れ様。どうしたレンゲ?」


 レンゲの勘は鋭い。俺が発した霊力の緊急信号を、ラングスが誤魔化せたとも思えない。


「アーシャの事なんだけどね」


 部屋に入ってきたレンゲは、椅子に腰掛けて切り出した。


「昼間の件なら、もういいだろう?アーシャも反省してるし」


「ううん、そうじゃなくて。私もジンに謝らなきゃと思ってね」


 珍しく、しおらしいレンゲ。俺も正面の椅子へ腰掛ける。


「天界の暗殺部隊でね、アーシャは最初のメンバーだったじゃない。周りはその霊力を恐れていたのよ」


 青く光るアーシャの目を、俺は思い出していた。神具なしで、あれだけの効果なら充分だ。

通常、霊力は身体能力を上げる事が出来る、完全に大人の身体まで育つ前に、アーシャは霊力を開花させた。そのため、肉体的には劣る自分の能力を補うため、特異能力が身についたのだろう。


「それでね、アーシャを世話をする女神、と言っても元は人間だけど、彼女たちはアーシャが天界にいる間、ご機嫌取りしかしなかった」


「やっぱり力を怖がったんだな」


「最初の指令から、アーシャは平然とこなした。まるで砂場の山を壊すかの様に」


 子供は残酷だ。俺もアーシャの力については、レンゲに質問があった。


「どちらかと言えば、レンゲの技は神具を使った直接的戦闘。アーシャの瞳の術はどうやって開花させたんだ?」


「実は偶然なの、ゲームでアーシャに勝ってしまった付き人がいてね」


「あの力で?」


「そう、むくれたアーシャが術を使ってね。叫び声を挙げたと思ったら、自分の指で両目の眼球をえぐり出そうと、のたうち回り死んだ」


(エグっ!)


 昼間の一件を思い出していた。俺も実はヤバかったようだ。


「そんな事もあって、誰もアーシャを叱ったりできなくなった」


 甘やかされた結果が、ああなったという訳だ。


「私が指導したのは神具の使い方。ただ、瞳の力を持っていたのと、オリハルコン製の神具はアーシャには重すぎた。結局、瞳の力だけで任務を果たすようになった」


「よくわかったよ。今後はアーシャへの情操教育も必要だな。それで、レンゲが謝りたい事とは?」


 アーシャに関して、肝心な事を言うのをレンゲは忘れていたらしい


「ああ、そうだ。アーシャの術は3秒よ」


「?」


「アーシャが霊力を発動して、3秒以内に目をそらせば術にはまらない」


 なるほど、仲間の霊力も知っていて損はない。


「わかった。もうないと思うが、他の人間への事故も考えられる。充分気をつけるよ」


 アーシャ=イル=ダルカナ。元、天界の暗殺集団アルファベットのA

1人で寝るのが怖いと、修羅界ではジェシカと同室だ。もう寝たかな?いい夢を見ろよ。


 今日も、修羅界での平和?な1日が過ぎる。



次回からは天界暗殺部隊!


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