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5、戦闘訓練

 今日は城内の中庭で、ジェシカ師範と剣術の特訓だ。


 俺は三節棍に霊力を入れず、ジェシカは大剣を鞘に収めたままでの模擬戦。大剣は、長身のジェシカが背負っても大きく見える。


 鞘に収めてあるとはいえ、あんなでかい大剣で殴られたら痛い。ケガする。俺だけゴテゴテの防具を装備させてもらう。


(間合いをつめて、三節棍でジェシカの死角から狙うと)


 勝負は、三節棍がジェシカの肩当てに少しでも触れれば俺の勝ち。という超ハンデ戦だ。かっこ悪いが、本職相手にこっちは素人だ。


(まずは、懐に入り込んで)


 連日の特訓の成果か、地上にいる時よりは動きが軽い。神具のお陰もあるが、バイトで鍛えたフットワークは伊達じゃない。とか俺は思っていた。

 左右へと動きながら、ジェシカへ急接近する。大剣を構えもしないで、ジェシカはまっすぐ前を見ている。


 その時だ。俺の身体がゾワッとした。

 ジェシカの目は、動き回る俺を追うどころか微動だにしない。ヤバイ!

三節棍を三角に組み直し、おもむろに霊力を入れ防御の姿勢を取る。なんとか衝撃を吸収する。例えて言うなら、電信柱の重量と太さの棍棒で、横から薙ぎ払われた感じだ。

 霊力を入れてなかったら、ふっとばされている。


 一瞬見えたのは、ジェシカが鞘ごと大剣を振った後の姿勢だが、初動はまったく見えなかった。身体のウエストより横幅のある剣を、片手で扱う赤毛女子。

 これが天界の剣士の力か。それでも手を抜いてくれていたと思う。


「おいおいジェシカ殺気が丸見えだぜ!」


 なんて軽口を叩きながら、俺は距離をとってドキドキしている心臓が収まるのを待つ。


「さすがは勘がいいねジン。アタイの剣をかわした男はアンタが初めてだ」


 コイツはとびきりいい女だぜ!とか思いながら、なんとか勝てないかと作戦を考える。

 本来は殺し合いの戦闘を、俺は少し楽しんでいた。


 ほんの一瞬。

 まばたきする暇もなく、ジェシカが目の前にいた。間合いは十分と思っていたが、至近距離から大剣の突きが俺を狙う。


「くっ!」


 再び、防御の姿勢で霊力オン。

 0コンマ何秒か反応が遅れていたら、間違いなく喉元を突いていた。


「懐に飛び込めば、なんとかなるとジンは考えていただろう?」


 剣を肩に担いで、ジェシカは訓練終了を告げる。ほんの数分の立合いだったが、いい勉強になった。


「甘かった。速さだけじゃ勝てない・・・」


 フィアンセにコテンパンにやられる男の気持ちがわかるだろうか?俺は心底くやしがった。


「初撃をかわした男は、本当にジンが初めてだ。さすがはアタイの旦那だぜ」


 おいおい、本気の剣だったのか?慰められて、ますます惨めな気持ちになる。


「ジェシカの本気の剣を、しのいだ女はいるのか?」


「あそこにいるレンゲがそうさ」


 神具の手入れしているレンゲを、ジェシカは指差す。二人の間に何があったのだろう。


「昔の話だけどね。レンゲは天界に謀反を起こす異端者だと思い込んで、一人でやっちまおうと襲ったんだ」


 さすがは純粋な暗殺者。考え方が明瞭だ。


「あいつの武器は、ジンも見たことあるレイピアだけじゃない。使いこなす神具の数も、もちろん霊力も桁外れだ」


「本当に百戦錬磨だな。六界の女チャンピオンか?」


 レンゲは、3センチくらいのミニチュアレイピアを磨いている。これが原型のようだ。

 戦闘時に霊力を込めると、牛頭とやり合った時のように光を纏った長さ1メートル位の剣になる。


 今日は、戦闘訓練だというのにフリフリレースのメイド服のレンゲ。アスラの趣味は、行き着く所まで行ってしまったようだ。


 ふと、俺と目が合うとレンゲはすごくかわいく微笑む。まるで久しぶりに会った恋人を、待ち合わせ場所で笑顔で迎える彼女みたいな。レンゲの本性を知らない男ならイチコロだな。


 おいでおいでするレンゲに呼ばれて、ほいほい近づいてみれば、精神的にボロボロ状態の俺に、間伐入れずに次の特訓内容が告げられる。今度はレンゲの放った飛び交うレイピアを、神具で叩き落とす訓練だ。


「ジン。霊力には大きく分けて2つの種類があるの。1つは神具の発動とそれを補助する霊力。牛頭と闘ってわかったでしょう?」


 確かに、あの時は神具のおかげで、信じられないくらい早く動けた。ショートカットのメイドが、よくお聞きなさい!的に続けて言う。


「もう1つが、自分から放たれる霊力。今のジェシカとの模擬戦で、ジンは野生の勘を使って攻撃を事前に察知した。これも霊力の1つよ」


 つまり霊力を自分自身から引き出して、戦闘時に使いこなせ。という事か。


「やってみるが、いまいち感覚がわからないな」


 なんとなく、ジェシカとの模擬戦でわかったのは、自信の霊力を使いこなせれば、神具に頼る事なく、スピードも肉体的な限界も超えられるとういう事だ。そうでなければ、人間と体力的には変わらないジェシカが、大剣を片手で振り回せる筈もない。


「でも自信を持っていいわよ。あなたの潜在能力は素晴らしいものがある」


 メイドレンゲに褒めらたが、実感がわかない。


「例えばジンの持っているラムーの神具。ジンは軽く感じるでしょうけど、ちょっとアーシャに渡してみて」


 ヌエのダイキチと戯れていたアーシャに、神具を手渡す。


「お、重い!」


 アーシャは片手では支えきれないと言う。


「そうなの。本来はジンの三節棍も重量はかなりのものなのよ」


 俺はあまりにも軽いので、スチール製かと思っていた。


「わかって来たよ。意識的に自分の霊力をコントロールして、身体能力を上げたり相手の動きを察知出来るってわけだ」


 俺は砕かれた自信を少し取り戻した。


「アーシャお願い」


 レンゲがアーシャ声をかける。

 ダイキチの背中に乗せてあったトランクから、フリスビーくらいの銀色の円盤が、一斉に空を舞う。


「これがアーシャの神具か」


 太陽光反射で円盤はキラキラと輝く。数は30枚くらいか。やがて円盤は、空中で停止し浮かんでいる。


「アーシャの円盤は攻撃して来ない。空中へ移動する時の足場がわりよ」


 ジェシカが見守る中、今度は怪物女のレンゲと模擬戦だ。ルールは簡単。威力は落ちるが、スピードは実戦と同じ、レンゲの放つレイピアを叩き落としながら、相手にタッチできたら俺の勝ち。


「準備はいい?」


 三節棍を両手で持ち、10メートルくらい離れたレンゲを見る。


「オーケーだ」


 途端にレンゲのレイピアが襲って来た。剣を放ったレンゲの姿は、すでにそこにはない。


(早い!)


 何本かは、俺の体にあたって地に落ちる。

 結構痛いが、レンゲが本気なら今頃串刺しだ。


「目でみようとしない!自分の霊力を信じる!」


 レンゲは空中の円盤を次から次へと乗り移っては、目にも止まらぬ速さでレンピアを放ってくる。


「動いてジン!本当に串刺しにしちゃうわよ!」


 こいつならやりかねない。

 そう思った俺は必死に三節棍で防戦しながら、前へ進む。しかし、数十のレイピアのうち、叩き落としたのはわずか数本。


 5分も持たず、ギブアップ。


「なんであんなに早く動けるんだ?」


 息の上がった俺は、しばらく立ち上がれないほどだった。1時間にも満たない模擬戦闘訓練は、だらしないぞジン君!って感じで終わった。


 休憩時間になり、会話に困るのは共通の話題が少ない事。天界で一緒だった天女達は、いつも井戸端会議で楽しそうだが、新参者の俺は会話に入れない。気を使ったジェシカが、話題を俺に振る。

 大体は地上の歴史とか、俺の過去話になってしまう。


 レンゲもそうだが、金髪ラングスやJKアーシャも昔話をしたがらない。思い出したくもない、ということだろうか。

 二人きりの時にジェシカにそう言うと、皆、過去は信じられない非道な事を、人間相手にやってきたという。


 あまり聞かれたくない過去なのだろう。


 ところが、ひょんな事からアーシャとラングスの人間界時代を知る事になった。


「久しぶりに、ジンも仲間に入れてあれやろうよ!」


 少し切れめのかわゆい瞳で、アーシャが言い出した。


(あれとか、まさかアレか?!)


 前回のドロレスの時は、結局半ばヤケになったレンゲとアーシャも参戦した。女子3VS男子俺一人の、夢のようなタッグマッチは、異界の良き思い出の一コマだ。

 帰りは獣神鵺のダイキチが、背に乗せるのを嫌がったくらいに全員ドロドロだった。


 修羅界に海はないが、地下水脈はある。飲水には適さないが、温泉として利用されている。やたらと深い水脈からお湯を汲み出し、水場や大衆浴場を作ったのもアスラの功績だ。


 根欲の欲情。いや混浴の浴場では、女性陣はタオルで前を隠して歩いているが、胸は隠せても下までは届かない。まさに「胸を隠してヘアーを隠さず」だ。

 レンゲ達と共に浴場で泥を洗い落とし、欲情しまくった俺を誰が責められよう?


 地面まで届く赤髪を、止め紐で結わき直しているジェシカ。彼女の引き締まったおしりには、刀傷が左に一つ。どうしても当人の裸体が目に浮かぶ。

 いかん!すべては混浴のせいである。


「夢渡りか、アタイもジンが何を普段考えてるか知りたいし、いいねやろうぜ」


 どうやら、ドロレス修行ではないらしい。少し残念だ。


「夢渡りって?」


 俺たち5人のムードメーカーであるアーシャの提案だ、きっと楽しい事に違いない。期待に胸を膨らませた俺は、平常心を装い聞いてみる。


「霊力を繋いで参加者が眠る。するとお互いの夢の中を行き来出来るってわけだ」


 髪をアップしているジェシカも美しい。

 女性のうなじってそそられる。とか考えている俺の本性がバレてしまわないか心配だ。


「いいんじゃない?夢渡りは、みんなで天界にいた頃よくやったわね」


 黒髪ショートが古き良き時代を懐かしみ、いつもの遠い目をする。


 たぶん、六界の真実を知らされなければ、天界での身分を保証されていたレンゲ。戦争はおぞましいが、隷属はもっとおぞましいと近代人は言った。

 命がけで世界を変えようとする熱意は、素直に俺も敬服する。


「後でラングスも来るって、お札作るのに大変みたいよ」


 毎日のようにジェシカとアーシャ、レンゲと4人で行動を共にしている。ラングスは単独行動が多い。青い瞳の少しお嬢様っぽいラングスが、夢の中で弾ける所を見てみたい。


「すいません。髪の手入れをしていたもので」


 多分、本人はご自慢の長い金髪をかき上げて、皆さまご機嫌よう的な挨拶と共に、ラングス=テルモアはやってきた。文句なしの美人だが、元は錬金術師をしていたというラングス。

 錬金術自体も怪しいが、そもそも錬金術師って職業が過去にあったのかも疑問だ。


 夢渡りには、お互いの波長のマッチングが重要だそうだ。レンゲ以外の3人娘は問題ないとして、レンゲの個性的な霊力と、人間界特有の波長の俺。

 夢渡りの成功は、半々といった所のようだ。


「それでは、みんなでお昼寝よ♩いい夢見ようね」


 アーシャがコロンと寝転がる。

 JK世代と思っていたが、実は現世ではもっと年下だったのかも知れない。


 大地に咲く花の様に、花びら状に寝転がる美女4人と俺。

 敷物はザラザラして寝心地はイマイチだが、ジェシカと手を繋いで夢の旅に出発する。


 疲れ切った俺は、いつの間にか眠りについていた。

なんとなく読者の指摘で書き方がわかって来ました。少し読みやすくなったと思います。

ありがとう!あっちゃん!!

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