12、異界戦争〜修羅の蜂起〜
いよいよ地獄界との全面戦争が始まる、
ただ、敵は守りを固めていれば良いが、こっちは攻め込まなければならない。
数の上では圧倒的に不利な侵攻部隊。
アスラには秘策があるようだ。
レンゲ達が、乙女の会話を楽しんでいる中、まだ部屋の中には馬頭がいた。
「あら、馬頭まだいたの?」
置き去り状態の地獄の使者に、レンゲが声をかける。
「地獄へゲートを開いてくれると、非常に助かるのですが」
馬頭は居心地悪そうだ。エバが気の毒そうに言う。
「あら、貴方は木簡をお持ちでないの?」
ほとんど裸に近いし、そりゃ無理だろう。
「人界へのゲートは、十王が開いてくれたのですが、帰りの事まで考えていませんで」
天界と修羅界の会談は、術式の札も持ち込み禁止だったので、やむを得まい。
「しょうがないな」
レンゲが何やら唱えると、人一人分のゲートが開いた。門の向こう側は、地獄の火の海だ。木簡のお札無しで、術が使えるのは王のクラスだけだそうだ。
「それで、牛頭の件なんですが」
おずおずと、馬頭がアスラを見る。
「心配はご無用です。修羅界に戻りましたら、直ぐに開放し審判の間に送り届けます」
王クラスの他界への開門は、片道のみの一方通行も可能だそうだ。修羅から地獄界や、修羅界の下界にあたる畜生道へのゲートは、アスラやレンゲクラスでないと開けない。
「ありがとうございます。阿修羅王と修羅界の方へのご恩は、必ずお返しします。それでは、敵同士になる身ではありますが、またお会いしましょう」
意外と、礼儀正しい馬頭。ゲートを潜り、地獄界へと戻って行った。
今日は地獄の使者から普段感じる、禍々しいオーラも控えめだった。地上の空気が、異界の者に変化をもたらすのかもしれない。
「それで、これからどうするんだ?」
隣の部屋で、着替え終わったジェシカがアスラに聞く。
「取り急ぎ、修羅城へ戻りましょう」
天界が、修羅と地獄界の件から手を引いた件は、馬頭が戻れば直ぐに発覚する。地上での戦闘行為は禁止と言っても、危険な事に変わりはない。
「ええ!もう帰るの?ディナーの予約しといたのに!」
珍しくレンゲが、状況判断の出来ない困ったちゃん、みたいな事を言い出す。
この前の、米軍基地からの帰りのヘリでもレンゲや女性陣は、何かおかしかった。
やはり、人界は異界の者の精神状態に、何らかの影響を与えるのだろうか?
「蓮華王、まずはお着替えを。エバートンがお手伝い致しますので」
エバがレンゲをなだめて、隣の部屋で着替え始めた。俺やアスラも洋服へ着替える。
気になった俺は、人界での異界者への影響について、アスラに聞いてみた。
「良いところに気付きましたねジン。その通りです。他の世界と違って、人界に存在するもの。時間の経過と、もう一つ」
「もう一つ?」
「欲です。食欲、性欲、睡眠欲。特にマンナが身体に吸収されない人界に在っては、食欲が旺盛になります」
なるほど。だからレンゲと最初に会った時も、フードファイターみたいに食べていたのか。
「特に、女性が地上の影響を受けやすいですね。本来なら子を宿す身体は、異界で暮らすのは酷なのです」
アスラの言いたい事も解る。異界では受胎しないし、マンナの吸収は欲がなくなり食欲も性欲も減退する。
「人は、人の世界で生きるべきということですね」
アスラはそう言うと、修羅界へゲートを開く。
審判の間での戦闘行為により、俺たちは十王が異界戦争を始める口実を与えた。もう話し合いでは済まされない。
修羅界へ戻ると、アーシャとラングスが出迎えた。
「お帰りぃ、ジン、ジェシカ」
アーシャは、人間界土産のチョコレートが目当てだ。ニコニコしている。可愛い。
「お帰りなさいませ。阿修羅王、蓮華王、エバートン様、、、エ、エバートン様?!」
金髪ラングスは、よほど驚いた様だ。丁寧にお辞儀した身体が、仰け反るように後方へ傾く。
「おおおっ!エバ姉おひさー!」
アーシャは、エバとハイタッチしている。
「お元気そうですわねアーシャ。また会えて嬉しいですよ」
絶世の美女が、将来有望な美少女と笑顔で会話している。そのまま絵画にでもなりそうな美しさだ。
レンゲとアスラは、早速、牛頭の解放と、地獄界攻略の準備を始めるため王宮へと向かう。
目を丸くしているラングスに、ジェシカが事情を説明する。
「そうでしたか、エバートン様がわたくし達のスパイ。驚きましたわ」
ラングスはエバに歩み寄る。
「長い間の諜報活動、誠にご苦労様でした。ご無事で何よりでしたわ」
金髪、青い瞳の女子同士、手を取り合って再会を喜んでる。と、エバの両手がラングスの胸に伸びたと思ったら、互いの両手を組んで力比べを始めた。
「どこを触ろうとしているのです?」
「また成長したかと、確認を!」
「大きなお世話です!相変わらずですね貴女は!」
なんだかよく分からないが、ラングスのバストの件で揉めてるのか?
「エバートン様。天界の中央で楽を覚えて、少しお太りになったのではありません事?」
「あら、ラングス=テルモアさん。あなたこそ、ご自慢の髪が傷んでいらっしゃるわ。修羅界にも鏡はあるでしょうにぃ!」
そんな2人を俺たちは見守っている。止めた方が良いのでは?
「エバ様。あなたと一緒だと、わたくしキャラが被るのですよ。グググッ」
「ッツ。それは、こっちのセリフですわヨォ。ラングス!」
「では、本性を出したらどうですか!」
「いいでしょう。ラングスがいたら、隠しようがない!」
力比べはイーブンだった様だ。互いの手を離すと、2人とも力を出し切ってゼイゼイ言っている。
「何やってんだ?あの2人」
俺は、女子の肉弾戦でも見れるかと思っていた。ジェシカもアーシャも不思議そうだ。
「旧友との再会って事かな。ラングスのあんな顔初めて見た」
「確かに。アーシャも、エバ姉の事よく知らないんだよね」
ゼイゼイ言ってたエバが、いきなりカミングアウトした。
「皆様お聞き下さい。阿修羅王と、ここにいるラングスしか知らない事ですが、私、天界のEことエバートンは」
「エバートンは?」
俺たち3人は声を揃える。なんか雰囲気違うぞエバ。
「女性好きの、女である事を皆さんにご報告します!」
いきなりの告白で、全員がえええーって感じだ。絶世の美女が男に興味無し!そんな殺生なぁ。
「僕は。本当は、男に生まれたかったんだ。ラングスは元恋人で、、」
「違うでしょ!貴方が一方的に言い寄ってたのです!」
ラングスは本気で否定している。女性同士の組んず解れつ。それもまた一幸!
「って事で。僕をこれから男として扱ってくれよ、ジンもジェシカもね。アーシャも頼むよ」
気さくなお兄さんみたいなエバートン。
まぁ、人それぞれか。異界の女性陣は、誰もが個性的過ぎると思う。
夜になり、俺たちは王の間に呼び出された。いよいよ地獄界との異界戦争が始まる。まずは戦略を練る所からだが、アスラの事だから、侵攻手順はもう組んでいるだろう。
修羅界王の間の大広間。
大勢の会合参加者の中、見知った顔を見つけた。
「初江王、変成王なぜここに?」
地獄の十王の内、2人が部屋にいた。
身体のサイズは普通の人間並みだが、中華衣装と独特の特徴は、見間違えようがない。初江王は、相変わらずのぶっきらぼうな口調で挨拶してきた。
「おう!ジンか。元気か?これから世話になっから、よろしくな!」
「左様、我々は最初から阿修羅王の計画に賛成じゃ。馬頭の解放と同時に、修羅界へ来たのじゃ」
地獄界の十王が、2人も味方だったとは驚きだ。俺は人間サイズの身体を指差す、
「2人ともその身体は?」
「ああ、地獄の審判部屋のは人造の身体だ。俺たちは生まれ持った身体を保管しててよ」
「左様。よく腐らなかったもんじゃ」
なるほど。地上から生きながら異界に移住すれば、時の流れが存在しない地獄界なら、身体を交換しても元の身体はそのまま保存出来る。もちろん、異界でも普通に身体の新陳代謝は行われるので、霊力で魂の抜けた身体を守っていたのだろう。
「初江王、変成王。後ろの人たちは?」
ジェシカが、奇妙な3人組に視線を送る。
「地獄界から連れてきた兵じゃ。少しは役に立つじゃろ」
「ジーパンTシャツがサブナック。ピーターパンみたいな格好はバルバトス。全身鎧はエリゴールだ。まぁ、よろしくな」
初江王のザックバランな紹介。雰囲気からして地獄界の鬼と呼ばれる連中だ。
王の間に集まった面々は、修羅界の各地から集まった王のクラスや戦士、真っ白な法衣を着た数名の男女もいる。天界から修羅界に参加した戦士だ。
総勢200人といったところか。
「戦士たちよ、その時は来た!」
王座からアスラが声を上げる。
「人の身でありながら、創造主の造られた地を支配し、人の魂をなぐさみものにする悪鬼。地獄界の閻魔に天罰を下す時が来たのだ!」
「オオオオォー!」
異界の戦士達が一斉に声を上げる。
「人の世は人に。人の身は人として生き。我らは創造主と共に、真の世界を取り戻す!そして、諸君達と共に約束の地にて、永遠の安息を手に入れよう。」
一息入れると、一同を見回すアスラ。
「兄弟達よ!人として生きる事も、人として死ぬことも許されなかった我等は、魂を地獄へ囚われているのも同じ」
戦士達は沈黙の中、王の次の言葉を待つ。
「ここにいる諸君と、その配下の者、わずか666名が戦力の全てだ。地獄界の鬼は8万の軍勢、だが恐れる事はない!」
めちゃくちゃ不利なような気がするが。
修羅界にいる住人は、ほとんどがホムンクルスの肉体なのだ。人造の身体では、異界への門を通る事は出来ない。
「人界より我らが勝利のため、ウルカヌス。そうだ!バルカンが舞い降りた!」
戦士達はどよめき、口々に喋り始めた。
「バルカンが!」
「本当なのか阿修羅王!」
なんの事だか俺には解らないが、なんかすごい事なのだろう。
「皆に紹介しよう!我らが戦士バルカン。人間名をジン=ムトウ!」
ええっつー!俺ですか?
更新遅くなりました




