表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
sing for…  作者: まぐろ
1/1

1章

僕は恋をした。

顔も名前も知らない。

ただ声だけの彼女に。


私は恋をした。

性格も、住んでる場所すら知らない彼に。


『僕(私)達は恋をした。』



ケータイのアラーム。

この音が嫌いだ。

静かだった世界はこの音と一緒に終わる。

朝日はカーテンの隙間をぬって僕の顔に降り注ぎ、望まなくても無理矢理にその始まりを押し付ける。


『うるさ…』


朝が嫌いだ。

誰しもが自分のするべき事に向かって活動を始める。

耳を塞いでても聞こえてくる日常の喧騒。

黙っていても勝手に回る世界。

この全の中の1になる感覚が、僕は嫌いだ。


『だからって何にも出来ないし、やろうとしないんですけどね』

自虐めいた独り言も、朝の騒がしさに溶けて消える。


『あ、そだそだ。昨日のアレ、コメント帰って来てるかな』

布団から出ることも無く、枕元の携帯を取る。指が場所を覚えているように、迷い無くそのアプリを開く。


『来てる来てる!』

今若者の間で密かなブームとなりつつあるカラオケアプリ

『Sing』

他人の歌った音源に自分の歌を重ねて曲を完成させたり、台本に沿って声劇を作ったり。

中には音源自体をBGMにしてラジオを作ったり。

遊び方は様々。

僕はそんなアプリで『謎のシンガー』として巷を騒がせている。


(は!?声高っ!!メッチャ上手いです✨)

(歌い方ご本人さんそっくりですね!!)

(え、声優さんか何かですか?)


来てる来てる。

はぁ…このチヤホヤされる感覚!

たまらんよなぁ、うん!


このアプリにはフォロー機能がある。

まぁ昨今どんなSNSでもフォロワー数が物を言う時代だ。

金持ちじゃなくても、アイドルじゃなくてもとにかくフォロワーの数こそが現代社会のヒエラルキーを確立してると言っても過言じゃない。

現に、このアプリで人気を博したシンガーは大手のレコード会社にスカウトされたり、人気YouTuberとコラボして新たな道を開いたりしている。


僕もそうなりたい、訳じゃない…

ただ…僕は……


『うわやばっ!時間!!』

見ると時計は8時半にさしかかろうとしていた。


『行ってきます!』

返事が返ってくる事はなく、玄関の扉が閉まる音と一緒に、僕の声は誰もいない部屋に吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ