第1話
真っ暗闇の中、声が聞こえてくる。
『・・・せ』
『またか・・・』
『・・・ころせ』
『うるさい・・・』
『殺せ!!』
「うるさい!!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
最近『殺せ殺せ』と言ってくる嫌な夢をよく見る。ハンターになって1年目、Eランクに昇格した日を境にこの夢を見るようになった。声は聞き覚えのない声で、過去にこのようなことを言われた記憶もない。昔の記憶も幼少期からのものをちゃんともっている。なのになぜあのような夢を頻繁に見るのか・・・寝覚めが悪いからほんとにやめてほしい・・・。
『朝食でも食べにいくか』
夢のことも忘れたかったので俺は泊まっている宿の食堂へ行くことにした。
まだ早かったらしく、食堂内に客は誰もおらず、宿の主人が厨房で作業をしているだけだった。
「すいませーん 軽く朝食をとりたいんですが」
厨房に呼びかけると、エプロンをした筋肉質で長身の40代前後だと思われる男性が厨房から姿をあらわした。
「おはようさん! はやいね〜 今だとサンドイッチぐらいしか作れんが、それでいいか?」
「おはようございます。それで大丈夫です お願いします」
「はいよー!」
注文を済ませ、カウンター席へと座った。
『サンドイッチだけじゃ腹はふくれなさそうだし、ゴブリン狩りのついでに野うさぎでも狩って腹の足しにするかなぁ。』
などと考えているうちにサンドイッチが運ばれてきた。
「はいよ、サンドイッチおまたせ」
「いただきます」
運ばれてきてすぐにサンドイッチにかぶりついた。一般的な卵サンドと肉が1枚挟まったサンドイッチが2つ、肉が良いのかかなりうまい。
「お客さん、今から出立ですかい?」
「はい、でも町の移動はしないのでしばらくこの宿でお世話になると思います」
「それはありがたいねー おっと、自己紹介がまだだったな、俺はベルンハルド=ストークマン、この宿の主人だ。長いし覚えにくいだろうから、皆からは『おやじ』とか『おやっさん』とかって呼ばれてっからそう呼んでくれや」
「ハンターのグレン=ファースです。よろしくお願いします、おやじさん」
「あぁ!よろしくな!」
その後も少し話し、他のハンター達が食堂に集まってきた頃合いで宿を出ることにした。
『腹も少しふくれたし依頼をこなしにいきますか!』
宿を出て、少し歩いた所の門を出てしばらく歩き、今日の依頼をこなす山へと向かった。
小1時間歩くと山の入り口へと到着した。
『さて、周辺の魔物調査をしつつゴブリンを探しますか』
山は非常に大きく、どこかの洞窟にゴブリンやコボルトたちの巣があるらしく、山中で頻繁にゴブリンやコボルトと遭遇する。現在滞在中の町がこの山に1番近い町であるため、異変をすぐに察知できるように定期的に山の生態系の調査がクエストとして上げられている。
『さっそく獲物発見』
山へ入って数分歩くと、数匹のゴブリンの群れを発見することができた。ゴブリンはまだこちらに気づいていないようだった。
『こっちにはまだ気づいてないな・・・数は5匹、武器は・・・こん棒持ち3匹に投石ゴブリンが2匹か、余裕だな』
そう思いながら息を潜め、自身の大剣の攻撃範囲内まで接近していく。
接近するに従い、ゴブリンの様子が少しおかしいことに気づいた。
『何かを取り囲んで見ている?他の魔物の死骸でも見つけたか?』
再びゴブリンに接近し、ゴブリン同士の隙間からゴブリン達が覗き込んでいるものが見えた。
『人間!?』
そこには横たわる人間の足が見えた。はっきりと確認できたわけではないため、生きているかどうかまでは確認できなかった。
『ゆっくり近寄ってる時間はないかもしれない・・・いくか!』
生死が確認できない以上最悪の展開を避けるためグレンはすぐに行動に移った。背から大剣を抜き、可能な限り音を消し、それでもできるだけ早くゴブリンに接近していった。
幸いにもゴブリン達はグレンの間合いに入るまでグレンの存在に気づくことはなかった。
「どけえぇぇぇぇぇ!!」
全力の一撃を入れるため叫びながら大剣で横に斬りつけた。ゴブリン達は倒れた人を見ることに気がいっていたため、グレンの接近に叫び声が聞こえるまで気づかず、近かった2匹のゴブリンの首血しぶきを上げて飛んだ。
「ギギェアァァ!!」「ギュアァ!!」
「うるせぇぇぇぇ!!」
残り3匹のゴブリン達がグレンに気づき、グレンの方を向き、威嚇しながら臨戦態勢へ入った。だが、グレンは既に次の攻撃を繰り出しており、もう1匹のゴブリンはなす術無く首をはねられた。
「残り2匹」
そう言いながら生き残ったゴブリン2匹を見た。ゴブリン達は既にグレンの大剣の攻撃範囲内から離れており、すぐに攻撃できる状態ではなくなっていた。
ゴブリン達が離れたことにより、倒れていた人の状態を確認することが出来た。
『生きているようだし怪我もたいしたことなさそうだな』
状態を軽く確認したところで、ゴブリン達に再び目を向ける。残ったゴブリンはこん棒を持った者が1匹と投石ゴブリンが1匹、それぞれ前衛と後衛で距離をあけ、グレンと対峙している。
仲間が一瞬で3匹やられたことで怯えているのか身構えたまますぐには攻撃してこなかった。
「どうした!びびってんのか!!」
「ギュアァ!!」
グレンの挑発に乗るかの用にこん棒を持ったゴブリンがこん棒を振りかざしながらグレンに攻撃をしかけてきた。後ろの投石ゴブリンも石を構え、投げる準備を整えていた。グレンは接近してくるゴブリンを自分の大剣の間合いまで接近させた後、こん棒を大剣で薙ぎ払った。武器をはじかれた勢いで体勢を崩したゴブリンを、左肩から斜めに大剣で叩き切った。ゴブリンは叫ぶ間もなく絶命した。
「ギ・・・ギギュギャギャギャ!」
残った投石ゴブリンは仲間のゴブリンがやられたのを見た瞬間、奇声を発しながら山の方へ走り、逃げ去ろうとした。
「逃がすか!!」
グレンはすぐさま投石ゴブリンを追った。ゴブリンの足は遅いわけではないが、グレンの足の方が数段早かったため、数秒のうちに追い着き、逃げるゴブリンの背を切り、逃がすことなくゴブリンを仕留めることができた。
グレンは依頼達成のための討伐証明として、ゴブリンの耳を切り取った後、助けた女性の下へと歩いていった。
『軽い怪我あるが、命に関わるような傷はなさそうだな』
すぐに怪我の具合を確認し、命に関わるような怪我を負っていないことを確認した。確認中に女性の顔を確認し、あることが分かった。
『天人か・・・さて、この女どうしようか・・・連れて帰ると面倒事に巻き込まれそうな気がするしなぁ・・・でもつれて帰らない訳にもいかなし・・・』
助けた女性は天界人だった。
この世界は3種類の世界に分かれており、それぞれ天界、地上界、魔界である。また、そこに住む人々のことを天人、地人、魔人と区別され呼ばれている。
それぞれの種族は見た目、能力共に特徴が大きく分かれており、別々の文化で生活している。
地人は、身体能力に優れており、他の種族より筋力が高く接近戦を得意とする。鉄の鎧を身にまとい、重装備であることが多い種族である。
天人は、並の筋力であるが、頭がよく、地上界よりも発達した技術により、銃などの近代兵器を主要な武器として使用している。見た目は、顔が整っており、美男美女が多く、男女ともに高身長である。服装は革の装備を主体とした軽量の装備を身にまとっていることが特徴的な種族である。
魔人は、他種族では微量しかない魔力を多量に保持しているため、その魔力を駆使し、魔界人しか使えないといわれている魔法を使った戦闘を行う。見た目は、他種族より低身長であり、耳が長く尖っていることが特徴的な種族である。
今はまだこの3種類の世界を自由に行き来することは出来ず、何かに巻き込まれることにより偶然的に他世界へ転移してしまうことがある。
その「巻き込まれること」が人為的事故などであったりするため、グレンは面倒ごとに巻き込まれる不安を抱くのだった。
『悩んでもしかたないか・・・とりあえず今日は引き上げて宿に戻るか』
あれこれ悩むことを嫌うグレンは目覚めた後の問題はその時に解決すればいいだろうという軽い考えで、天人の女性を背負い、山を降りるのだった。