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SO-013「展示会とお嬢様・前」


 ほぼ毎日、夜は宝物庫で活動しているお嬢様。そんなお嬢様が昼間にその役目を背負う日がある。数年に一度開かれる催しだ。夜会を行う大きなホールを丸々使い、国内外の装飾品なんかを集めて語り合う場……展覧会みたいなもんだな。


『まったく、このうちどれだけが本当にお宝を見に来てるのやら』


「トライ、中には魔法に長けた方もいるやもしれません。少し抑えなさい」


 俺にだけ聞こえるようなささやきが届き、ピタッと口を閉じる。確かにこれだけの物が集まる場所なのだ。貴族の従者にもそう言った奴がいたっておかしくない。専用のケースに収められ、その魔力自体はほとんど抑えられていると言っても見ただけでそうとわかる守護の道具なんかも展示されてるからな。


『あっちは国外用の場所か……確かに文化が違うのかな? 見た目も結構違うんだな』


「手持ちのところだけ揺れるとか、合図を無駄遣いしてどうするんですの? さて、何事もないと良いのですけれど」


 お嬢様は口ではそう言いながらも何も起きないとは全く思っていない。なにせ、この場所もそうだけど展示されている物が物だ。国内外と言うだけなら簡単だけど、一か所に集まるとなればそれだけ金も人もかかる。国外からの輸送となれば言うまでもない。


 人、金。どちらも無理に使えば無くなってしまう物だがこれに参加しないという選択肢は実際のところ、無いに等しい。特に他国の参加は、欠席ということは自分のところが衰えたか、思うところがありますと宣言して回るような物だ。これまで毎回参加してたのに今回だけ不参加となれば何かあったに違いないってね。


 対して国内側、貴族たちの立場もなかなか苦しい。ちゃんと統治をして、無理なく吸い上げたお金が国を豊かにしていますよ、とわかりやすく示す場でもあるのだ。そこで貴族たちは贅を凝らし、宝物を作り上げる。上手く王の目に止まれば、宝物庫に収めるよう打診が来る。そうなれば名前も売れてかかった金も帰ってくるような物だ。最近はただ豪華にするのではなく、時には細工を立派な物にしたり、魔法を込めた一品として仕上げてくる奴もいるようだ。


 どちらにせよ、これだけのことが出来る力がありますよ。だけど隠さずに見せます!と宣言する形になるので忠誠を示す一石二鳥となるわけだ。……というのは表向きの理由。今でも十分裏と言えば裏だけど……実際には数年に1回のこの場のために貴族たちは余裕を多く持つことはできない。物にもお金がかかるし、かといって無理に税を取ればそれは嫌な噂となって中央に届く。そしてここに運ぶための護衛にだって金がかかる。国外ともなればさらにだ。


 結果として、貴族たちの力を計りつつそぎつつ、という中央の独り勝ちなのだ。それだけこの国が強国である証でもある。美味い手だな、と俺的には思うけど実際に10代以上続いてるのだから美味い手なのだろう。毎回いくつかの物が宝物庫に収められる。あの扉の向こうに自分の手の中にあったかもしれない財産が……そんな勝手な恨みもお嬢様という守り手に向けられるのは理不尽なことである。


 さて、そんなきらびやかな会場で我がお嬢様はと言えば……怒っていた。


「まったく、あんな隙だらけの警備で守れると思っていますの?」


『そりゃ、ここを襲うような奴がまずいないと油断してるんでしょうよー』


 実際問題、俺が知る限りここにいるのは事前に招待された貴族や他国の代表者、そして目利きのための商人等関係者ばかりだ。盗難等があればすぐに疑われる。かといって万が一が無いとも言えない、そういう視点からの苛立ちだ。現に、貴族たちの家族であろう若い婦女子たちは黄色い声を上げながらケースに群がりあれやこれやと語っている。周囲をこれまた若い男達が囲み、ナンパめいたものも各所で始まっている。


(お見合いパーティーでも始める気か? まったく、お嬢様じゃないけど気が緩みすぎだろうよ)


 目の前のケースの中身が親の年収どれぐらいか、わかってる奴は一体どれだけいるだろうか? っと、大人しく感動のまなざしで見てるような奴はその例外かもしれないな。ケースから顔1つ分は離して観察してる奴もなかなかいいじゃないか。


 こちらは城の物をと命じられているからにはそこから離れることは許されていない。お嬢様としても貴族側の物まで守れと言われても手が届かないのが現実である。その間にもこちらに視線が時折やってくるのがわかる。まあ、間違いなく俺がさすまたなのが悪い。今日は実のところ、いつもほどではないのだが……。


「あー、アレスト様だ」


 お嬢様と俺の周囲にある若干ぴりりとした警戒の空気を切り裂くのはザイヤ。今日も周囲に男を侍らせている。半分具体は前と顔が違うな。アクセサリーじゃあるまいし、日ごとに変えているのか?

 これでも男受けはいいらしく、噂じゃ上の王子も彼女にお熱なのだとか。男ってやつは……等と思えるのも俺が他さすまただからであり、当事者だったら騙されてるかもな。


「ごきげんよう、ザイヤ。あまりそのような肌の出る服装は感心しませんわよ?」


「若いうちにしかできないのってありますよねー。そんなことより、一緒に見て回りましょうよー」


 空気が読めない、あるいはわざと読んでいないのか。そこだけは未だにわからないけれどお嬢様が普通の女の子であれば、ここまで言われたらと思いそうな誘い文句を続けるザイヤ。しかしそこはさすがのお嬢様である。きっぱり一言、お断りしますわ、と来たもんだ。


「ええー、これだけ警備の人もいるんですから、大丈夫ですよ」


「そうもいきませんわ。それに、貴女はわかっていらっしゃらないのね」


 きょとんとした表情のザイヤ。こういった部分も演技ではなくというのなら大したものだけどさて? お嬢様はと言えば哀れな子供を見る目で数歩近づき、ザイヤに囁くような声でつぶやいた。


「ふふふ、気が付きませんの? 貴女を含め、会場を歩く女性たちは会場を巡って花の見た目と蜜の香りを届けるただの引き立て役ですのよ。それらが添えられれば仮に前回と同じ宝物も多少は見目麗しく感じる物、精々主役である宝物たちを盛り上げてくださいな」


「なっ!」


 この時ばかりはぶりっ子の皮が剥げたのか、険しい顔を一瞬浮かべてしまうザイヤ。そのあたりはお嬢様の方が何枚か上手だ。この会話は器用にも囁くような高笑いというよくわからないものをしながらだ。たぶん、お嬢様的には助言なんだろうけど相手の煽りにしかなっていない。


 そばにいる男達にも聞こえたのだろう。鋭い視線がお嬢様に集まるがまったく気にしていない。ザイヤの視線は……揺れる縦ロールと……お嬢様の豊満な胸に刺さっていた。何もしないと足元が見えないとかこの前言ってたもんな、相当な差だ。ザイヤも別に貧相という訳じゃないけど比較する相手が悪かった。


「それではお楽しみくださいな」


 営業スマイル的な笑顔を浮かべ、話を斬るお嬢様。ぐぬぬと言い出しそうな顔のザイヤだったが周囲の視線が集まりかけたのを感じたのか、いつものような顔を浮かべ、人ごみに消えていく。彼女を慰めるべく語り掛ける男達を引き連れて。


「まったく、この場所を何だと思ってますの? 伴侶探しではないんですのよ?」


『たぶん、半分はそう言う感じですよ。ほら、あっちじゃもうカップル出来上がってますもん』


 言っても伝わらないわけだけど、会場のあちこちで親同伴の男女の組み合わせという明らかな出来レースだとか、抜け出してきたのか影に隠れての2人だとか、羨ましい光景が広がっている。


 お嬢様にとって、長い1日はまだ始まったばかりだった。



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