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八話 予知夢

短編で同名の作品があります。

夏のホラー2017に提出の為であり短編の方はいずれ削除します。

内容は同じです。

俺は今ちょっとした問題を抱えている。

 夢は皆見ると思う、俺もそうだ。だが殆どの夢は覚えていない。

 明け方に見た夢は覚えている場合が多いが、それもすぐ忘れてしまう。


 別に気にするような物でもない、普通はそれでいいだろう、だが俺はそうはいかない。なぜなら夢で見た事が現実にも起こってしまうからだ。いわゆる予知夢って奴だろう。


 それで先日こんな夢をみた。



――――――――



 ボーン、ボーンと古びた時計が鳴った。薄気味悪い笑い声、女の叫び声が聞こえる。

 俺はどうやら迷路を彷徨っているようだ。

 この景色は見覚えがある、これは裏野ドリームランドにあるドリームキャッスルのアトラクションだ。

 なんでも城主の伯爵が狂っており、人々を拷問にかけては殺していたため千年たった今でも怨霊が渦巻き、新たな仲間を増やすべく城に立ち入った者を殺そうとする場所であるという設定だ。


 薄暗い通路を歩いていると、関係者以外立ち入り禁止のドアを見つけた。

 俺は躊躇せずにドアを開け、中に入っていく。

 しばらく進むと小部屋があり、ドアが少し開いていた。

 隙間からこっそり覗いてみると、職員らしき二人が雑談していた。

 一人はSTAFFと書かれた制服を着て帽子を被っていた男で、もう一人はピエロの衣装を着た男。

 帽子を被った男は会話をしながらも携帯電話をいじっている。

 ピエロは大きな身振り手振りで話をしているが、相手は携帯をいじっているため反応はうすい。

 特に気にした様子には見えないピエロだったが、なんとなく嫌な感じがした。何だろう? そうだ、目が笑っていないのだ。


 やがてピエロは横にあったオモチャの大きなハンマーに手を伸ばすと頭上に振り上げた。

 本当にオモチャなのか? やけに重そうに持ち上げていたが……

 その間もピエロは喋り続けている。

 帽子の男は携帯を見ているため、相槌は打っていてもピエロの挙動に気づいていないようだ。


 そして……ハンマーが振り下ろされた。


「ゴン」


 鈍い音が響くと帽子の男の頭は一瞬、肩までめり込み何かが飛び出した。

 あれは目だ。振り下ろされたハンマーの衝撃で、ドロリと糸を引き片目が飛び出したのだ。

 ゆっくりと崩れ落ちる帽子の男。


「ゴン、ゴン、ゴン」


 何度も振り下ろされるハンマー、返り血を浴びながらもピエロはハンマーを叩きつけている。

 ピエロの動きが止まった時には帽子の男の頭部は原型を留めておらず、血の海に佇むピエロのやけに落ち着いた仕草が余計に恐怖を感じさせた。


 ゴクリと生唾を飲む。それはほんの小さな音にも関わらず、ピエロに聞こえたのではないかと考えてしまう。

 ピエロは大きく息をつくと、辺りを見回す。一瞬目が合った気がした。

 こちらは暗くなっており、向こうからは見えないはずだが確かに目が合った。

 俺は居ても立っても居られなくなり、その場から逃げ出した。


 足が重い。薄明りの中を出口目指してヨロヨロと走る。だが気持ちとは裏腹に体は前に進まない。

 後ろを振り返る。一瞬ヒヤリとして呼吸が止まる、しかしすぐ息を吐いた。アトラクションの人形がピエロに見えたのだ。


「ゴン、ゴン、ゴン」


 遠くでハンマーを振り下ろす音が聞こえる気がする。頭を潰された帽子の男を思い出す。

 あれは……知っている、Aだ。高校の時同じクラスだったAに違いない。


 光が見えた、あれは出口だ。

 水中を歩くように中々進まない体を必死に動かしてなんとか出口に辿り着くと、沢山の遊園地を楽しむ人の姿が見られた。

 後ろを振り返り誰もいない事を確認すると、安堵の息をついた。



 そのまま人混みの中を進んでいると、人だかりが見えた。

 一人を中心に円を描いて人が集まっており、恐らくテーマパークのキャストがパフォーマンスをしているのであろう。


 俺は吸い寄せられるように人だかりに入っていった。


 見るとやはりパフォーマンスが行われており、客の一人を座らせて、その頭の上にリンゴを乗せている。

 そして、そのリンゴをハンマーで割ろうとするのだが、「ピコッ」っと可愛らしい音がしてリンゴが割れる事はない。

 その度に客からは笑い声が起こる。

 ハンマー振り下ろすのはピエロだ。そう、Aの頭に何度もハンマーを振り下ろしたあのピエロに間違いなかった。


「ピコッ」と可愛い音がしてリンゴを割るのを失敗する度に、肩を竦めたり、ハンマーを何度も見たりコミカルな動きを見せるピエロ。それに釣られて笑いが起こる。


 ピエロは諦めて客を解放する。そして今まで持っていたハンマーを置き、地面に置いてあった別のハンマーを手に取った。

 ヨロヨロとよろめく仕草を見せるピエロ。ここでまた笑いが起こる。

 皆は、本当は軽いけど重いふりをしてるのだ、と思って笑っているのだろう。

 だが俺は知っている。あの血の付いたハンマーはAの頭を砕いたハンマーだ。乗せたリンゴどころか、下の頭まで砕いてしまう代物だ。


 ピエロは悩む素振りを見せながら客達を眺めた後、大きく頷く。

 そして彼は手招きする……俺に向かって。


 俺の右隣の奴は一歩右へ、左隣の奴は一歩左へ。気が付けば俺の周りに誰もいない空間が出来ていた。

 前へと押し出される無言の圧力を感じる。さあどうぞと腕を広げるピエロがいる。

 マズイ……このままでは殺されてしまう。

 戸惑う俺にヤジが飛んできた。


「何してんだ、早く前にいけよ」

「空気読めよ~」

「ダッサ」


 俺に向けられる悪意を感じる。これは昔体験した事がある、高校の時だ。

 最初は仲間外れにする程度だった。それが次第にエスカレートし、暴力こそ無かったものの、物を隠されたり、陰口を叩かれたりした。

 クラスの皆は何となく俺を蔑む雰囲気を発しており、なかでもAとBの二人は直接嫌がらせをしてきていた。

 俺はそれが苦で、学校を休みがちになり、ついには不登校となってしまった。

 そう俺は逃げたのだ、そして今も逃げている。


 手招きするピエロに背を向けて、周りの客を押しのけて逃げていく。


 どれだけ走っただろうか、息を切らす俺の前には観覧車がみえた。



 ゴトン、ゴトンと音を立て、ゴンドラが上に上がっていく。

 俺は何故、悠長に観覧車になど乗っているのだろうか? 逃げ出した先が逃げ場の無いゴンドラというのも俺の深層心理が働いているのだろうか。

 不登校になった俺は学校を中退した。しばらくは家に引きこもっていたが、将来が不安になり職を探しだした。

 だが中卒で割のいい仕事など無く、選り好みしている内に月日は流れていった。そして最近短期のバイトでもしてみようかと思っていたのだが。


 考え事をしていると、いつの間にやらゴンドラは頂上まで到達しており、外を覗くと下を歩く人々が蟻んこみたいに見えてくる。

 やがてゴンドラは下り始め、登ってくるゴンドラが目に映る。


「ヒッ」


 思わず声が出た。俺の三台後ろのゴンドラに乗って、窓に張り付いてニヤニヤ笑うピエロと目があったのだ。


 逃げなきゃ、狼狽して右往左往するも狭いゴンドラから外に出るわけにもいかず、気持ちだけが空回りする。

 焦る気持ちとは関係無く一定の速度で進むゴンドラ。

 やっとの事で下に到着すると、誘導する係員を押しのけ走り出す。

 行き先は決まっていない、とにかく人混みに紛れながらジグザグに逃げるんだ。


 はあ、はあと肩で息をする。さすがに巻いたであろうと後ろを振り返ってみる。

 人混みの中でこちらに向かって足早に近づいてくるピエロが見えた。

 人でごった返している中で、何で俺の居場所が分かるんだ。下唇を噛みしめる。


 奴は雑踏をスルスルとすり抜けて徐々に差を縮めてくる。その手には血の付いたハンマーが握られており、恐らくそれを俺の頭に振り下ろすつもりなのだろう。

 俺は道を塞ぐ邪魔な者達を押しのけながら、小走りでピエロから逃げていく。

 駄目だ、逃げきれない。尽きていく体力に絶望しそうになるが、死んでたまるか。殺されるぐらいなら逆に殺してやると気持ちを奮い立たせる。

 腹をくくった俺は、最後の気力を振り絞ってミラーハウスに向かって走り始めた。



 出口からミラーハウスに飛び込む。頭上には点検中の文字。

 今はメンテナンスのため一時的に閉鎖中のアトラクションだ。

 目指すはあの場所。誰も知らない秘密の通路だ。点検用に作られたのであろう、グルっと正規の通路を迂回して、後ろに出る事が出来る。

 あそこに誘い込めば……。

 後ろを振り返る。ピエロの姿は見えない。だが、あいつは絶対ついてきてるはずだ。

 俺は確信にも似た気持ちで例の場所へと突き進む。


「ガララララ」と何かを引きずる音が響く。反響して何処から聞こえてくるのか分からないが、近づいている気がする。

 非常灯の僅かな明かりに照らされる通路は、鏡に映り幾重にも重なり合い、さながら迷宮の装いを呈する。

 今、何かが通路を横切った。前か? もしかしたら後ろかも知れない。

 息をひそめて辺りを伺う。


「ガララララ」


 居た。ピエロだ。

 巨大なハンマーをガラララと音を立てて引きずりながら、こちらに近づいてくる。

 暗くて表情までは分からないが、見つけた獲物に喜んでいるのか口笛を吹きながら俺を指差す。


 走り出すピエロ。

 慌てて逃げ出すも通路を映し出す鏡にぶつかりそうになる。

 両手を前に突き出して鏡でない事を確認しながら走る。


「ははははは」


 振り返ると笑いながら走り寄るピエロの姿。それが幾つもの鏡に映り、何人ものピエロが俺に迫りくるように見えた。


「ヒッ」っと小さな悲鳴が漏れるも、足を止める事なく逃げ続ける。

 もう少しだ、次を右に回れば……。


 猛スピードで角を曲がってしばらく進むと行き止まりに出た。

 よしここだ。ここに点検用の通路が隠されていて、ぐるっと回り込む事ができるはずだ。

 後ろを見る。ピエロの姿は見えない。引き離したようだ。


 ポケットをまさぐる。手に触れる堅い感触、護身用のナイフだ。

 俺はそれを握りしめて鏡の一部を押す。

 すると鏡はくるっと回転して通路が姿を現す。

 素早く体を滑り込ませると鏡を元に戻し安堵の息をつく。


 中は真っ暗だ。だがじきに目が慣れてぼんやり通路が見えてくるであろう。たしか右に通路は続いていたはず、呼吸を整えて右手に目を凝らした瞬間、耳元で声がした。


「満員で~す」


 全身の毛が逆立った気がした。

 俺は咄嗟に声のした方にナイフを突き刺すと通路が続くであろう方向に走り出した。


 クソッ、何でだ。何でこの通路を知ってやがるんだ。

 悪態をつきながらもう少しで点検用通路が終わりに差し掛かろうとした時、何かに足を取られて転びかけた。

 とっさに手をついた先は通路の終点の回転する鏡で、それを押し回すと支えを失い激しく転倒。

 ゴロゴロと転がり元いた鏡の通路の壁に衝突した。


 もしかしたら一瞬気絶していたかもしれない。ギーと回転する鏡の音で我に返った。

 先ほど俺が出て来たであろう回転扉の前に佇むピエロがいた。


 脳震盪だろうか、足に力が入らない。もう駄目かと諦めかけた時、ピエロの異変に気付いた。

 腹を抑えたままドスンと下に座り込み、その衝撃で鼻につけていた扮装用の赤い鼻が転がり落ちた。


 ナイフだ、俺が闇雲に振り回したナイフがピエロの腹に刺さっていたのだ。


 死んだのか? ピエロはピクリとも動かない。

 しかし何だったんだ、コイツ。


 改めてピエロの顔をじっくり見てみる。

 もじゃもじゃの赤いカツラをかぶり、顔を白く塗り、赤い口紅、鼻はとれて普通の鼻が覗かせているが……ん? コイツの顔どこかで見た気がする。


 ポケットをまさぐりライターを取り出すと火をつけ、ピエロの顔に近づける。


「あっ!!」


 見覚えがあるはずだ。毎朝鏡で見る俺の顔がそこにあった……



 じゃあ俺は誰なんだ? ピエロが俺だとするとここにいる俺は誰なんだ。その疑問に答えるべく自分の顔をライターの炎で照らし、鏡を覗き込む。


 そこに映っていたのは……Bだ。俺をずっといじめていたB。Aと一緒になって学校を中退する事になった原因のいじめをしていたB。


 つまり逃げていたのはB、追っていたのはピエロの俺。


 呆然とピエロを見下ろす。ピクッと腕が動いた気がした。

 ここで目が覚めた。



――――――――



 俺はこれから仕事に行く。短期バイトの初出勤だ。

 場所は裏野ドリームランド。そこのキャストとしてピエロの扮装をする事になっている。

 鏡の前で最後の身だしなみのチェックを行う。服装よし、髪型よし、そして顔は……

 ――鏡は満面の笑みを映し出していた。




 

夢の登場人物が自分以外の時ってありますよね。

それが予知夢だったらどうなるのでしょうか?

ピエロが先回りできたのは行き先を知っていたからなんですよね。

これから先の主人公の行動はどうなるのでしょう。予知夢を変える事は出来るんでしょうか。

鏡に映った笑顔を考えると、彼はやはり復讐に走るのでしょうか。

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