六話 セロリ
俺はセロリが嫌いだ。給食で出てきても絶対食べない。
好き嫌いしないでちゃんと食べなさいなんて大人は言うが、そんな問題ではない。
そして今、目の前にそのセロリがある。俺は腕を組んでそいつを睨みつける。
「ねえ、ジンちゃんそれ食べないの? 好き嫌いは駄目だよ」
ジンとは俺の事だ。で、このお節介野郎は友達のN。
やれやれ馬鹿な野郎だ。いいかよく聞け、何で俺がセロリが嫌いなのかを。
あれは俺が一人で留守番をしていた時の事だ。
ガサ、ゴソという音が台所から聞こえたんだ。今、家には俺一人しかいない。
泥棒? もしそうなら下手に顔を合わせてしまったら、殺されてしまうかも知れない。隠れておこう、そう思った。
だが、母ちゃんは俺に言った「お留守番しっかりお願いね」と。
そうだ、今この家を守る事が出来るのは俺だけなのだ。俺がやらねば誰がやる。
俺は野球のバットを手にドアの隙間から台所を覗いたのだ。
すると冷蔵庫が少し開いており、何か緑色の物体が蠢いていた。
そいつは直径十センチ程の物体で、葉っぱが茂った木のような形をしており、なんとそこから手足が生えて冷蔵庫から降りようとしていた。
奴はロッククライマーのようにスルスルと冷蔵庫を降りると、今度はテーブルをよじ登り始めた。
テーブルを見る。
そこにはモコモコした緑の頭に、手にはナイフとフォークを持ち、武装した緑色の小さい集団が隊列を組んで手にした武器を振るい、訓練を行っていた。
そこに先程の緑の奴がテーブルを登り終え、合流する。
「貴様-、遅いぞ、たるんどる。端から端までダッシュ三本だ」
「すいませんサー、了解であります」
などと言いテーブルの上をちょこまか走り出す。
偉そうに命令した奴は司令官なのだろうか、一人だけ白色でモコモコした頭は同じであるが、他の奴より一回り体が大きい。
俺は呆気にとられ、手にしたバットを落としてしまった。
「カララン」
乾いた音を立てバットが床に落ちる。
その音と同時に緑の物体たちは動きを止め、パタッとテーブルに倒れる。
恐る恐る近づいてみると、手足は既に無く単なる食材として転がる緑の野菜たち。
周りにはナイフとフォークか落ちている。
そんな、さっきまで動いていたのに……
俺は緑の物体を指でつついたり、引っ張ったりしてみたが二度と動く事は無かった。
俺はNに言う、いいかセロリってのはな、宇宙人なんだ。隙をついて地球を侵略しようとしているんだ。
Nはゴクリと唾を飲み込みこう答えた。
「でもジンちゃん、それブロッコリーだよ」
「……」
俺はブロッコリーが嫌いだ。給食で出てきても絶対食べない。
えっと、なんかすいません。
こんなホラーがあってもいいよね。 まさよし