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五話 ここ空いてまーす

 今日は金曜日、明日から二連休だ。そう思うとついつい飲み過ぎてしまう。

 仕事帰り後輩を二人連れて飲みに行ったのであるが、いつの間にやら終電になってしまった。

 深夜の電車は空いているものだが、終電だけは別だ。座席など当然空いてるはずもなく、つり革を持って立つ人の姿も少なくない。


 俺は電車に乗り込み辺りを見回すが、どの席も埋まっており仕方なくつり革に掴まり、ぼんやりと窓の外を眺める。

 ほろ酔い気分で電車に揺られていると、急に睡魔に襲われてきた。

 膝がカックンカックンなりながらも、閉じようとする目蓋まぶたと戦っていると、ふと近くの席が空いてる事に気付いた。

 何人か立ってる人はいるものの、誰も座ろうとはしていない。

 これ幸いとその席に座り、目を閉じていると何時しか眠っていた。


「次はA駅、A駅~」


 遠くで車内アナウンスが聞こえる。

 ハッと目を覚まし辺りを見回す。しまった寝過ごしたか? 体がじんわり熱くなる。


「A駅~、A駅~、お出口は左側です」


 良かった、降りる駅はまだだ。なにせ終電なのだ、寝過ごしたらシャレにならん。頑張って起きていよう。


 ドアが開き、数人が乗り降りする。乗客の数は減ってきたが、座席は全て埋まり立っている人の姿もまだまだいる。

 すると先程乗って来たであろう女性が歩いてきて、目の前の満席の椅子の前に立つと、くるっと反転しオジサンの膝の上に座ったのだ。

 俺は自分の目を疑った。知り合いか? いやそれにしても横に座っている人が何の反応も示してないのも不自然だ。

 そしてなにより、膝の上に座ったはずだが、いつの間にやら普通に座席に腰掛けている女性。

 確かにそこに座っていたはずのオジサンの姿がなくなっていた。

 見間違い? いや確かに座席は一杯だった。


 俺の目はその女性に釘付けになった。年齢は三十ぐらいか、白にグレーのストライプのワンピースを着て……いやそんな事はどうでもいい。とにかくオジサンは何処へ行ったのだ。

 俺の不審がる気持ちをよそに、ワンピースの女性は何事も無かったようにスマホをいじっている。


 やがて電車は幾つかの駅を通過し、B駅に着いたときワンピースの女性は席を立った。この駅で降りるのだろう。

 彼女の姿を自然と目で追う。


「ヒッ」


 思わず小さな悲鳴が俺の口から洩れる。

 俺は見てしまった、降りようとする女性の背中にペラペラのオジサンが張り付いているのを。

 オジサンと目が合う。嫌らしい笑みを浮かべ、舌なめずりするその姿に全身の筋肉が硬直するのを感じる。


 ドアは閉まり女性の姿は見えなくなったが、しばらくは放心状態となり身動き一つ出来なかった。


「次はC駅~、C駅~お出口は左側です」


 車内アナウンスにハッと我に返る。俺が降りる駅だ、金縛りが解けたのかフラフラした足取りで電車を降りる。

 この時ふと気になって後ろを振り返ってみた。

 俺の隣に座っていた男がこちらを凝視している。目が合った、彼は何か言いかけたがドアは閉まり電車は発車してしまった。


 嫌な予感を胸に俺は家路を急ぐ。飲み過ぎただけだ、自分にそう言い聞かせて不安を打ち消す。


 それから俺の身には何も起こっていない。

 でも、俺は混雑した電車で席がポツンと一つ空いていようとも決して座る事はなくなった。




 席が空いているのに誰も座らないなんて場面に遭遇した事はないだろうか? 果たしてその席は本当に空いているのだろうか?

 なんとなく座りづらいなんて感じた時は、その席はもしかしたら……






この物語の主人公、彼の背中はどうなっていたのでしょうか?

隣に座っていた男性は何を見たのでしょうか?

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