十九話 並行世界のジン
俺の名はジン。だが今は別の名前がついている。
十八歳になったあの日、俺は交通事故にあって死んでしまった。
そして生まれ変わって、今、丁度八歳になったとこだ。
この世界は、俗にいう中世ヨーロッパのような世界、まあつまりアレだ。異世界転生って奴だ。
最近は色んなパターンがあるが、俺の場合オーソドックスに神様が出てきた。
で、チートを貰ったわけだ。色んな役に立つスキルって奴だな。
これでこちらの世界で自由に生きてやる! なんて思っていたんだが、一つ問題があった。
こちらの世界にも神様がいて、そいつが神託を下したんだ。
その神様が言うには俺は勇者なんだと。そして邪神を倒す宿命を背負っているときたもんだ。
全くやってらんねーよな。なんで邪神なんて危なそうな奴と戦わなけりゃならんのだ。そんなもんは現地の奴らで頑張れよ。
俺は神様にそう言ってやったんだ。
するとな、邪神、そいつも転生者だって言うんだ。
お前の世界の者の不始末は、お前がつけろだとよ。
チクショウ、誰だよつまんねー事する奴は。そもそも邪神て何だよ。世界を破壊でもすんのか。
チート貰ったからって調子乗ってんじゃねーぞ。
まあいい。どうせ戦うのはまだ先だ。俺はまだ八歳だからな。
もう少し大きくなったら冒険者かなんかになって華々しくデビューするんだ。規格外の新人なんて言われちゃってな。そこで同じく新人の少女なんかを助けて……ぐふふふ。
「お兄ちゃん、なんで笑ってるの?」
はっ! しまった。ついつい自分の世界に入り込んでしまっていた。
今俺に話しかけてきたのは妹のエヌーサ。二コ下の六歳だ。コイツがまた可愛いんだ。
クリックリした目で「兄ちゃん、兄ちゃん」て付いてくるんだ。たまんねーよ、俺母性をくすぐられっぱなしだよ。
「ははは、エヌーサが可愛いからさ。お前を見てるとつい笑顔になってしまうんだ」
「えへへ、ありがと。お兄ちゃん大好き」
ふははは、ちょろいぜ。何たって俺は転生者だからな。こんな事は朝飯前だ。そのうちNAISEIなんてしちまおうかなー。
「ねえねえ、兄ちゃん。チョウチョさん書いてー」
「んー、こないだ描き方教えてあげたじゃないか。忘れちゃったのかなー」
「うん、忘れちゃった。もっかい教えて~」
「しょうがないなー。よく見とけよー」
俺は地面に木の棒を使って蝶を描く。
「まずは8書いてー、横から見まーす」
8が∞になる。
「次に二本の棒、触覚さんを描いて出来上がり―」
かなり強引だが、これでいいだろう。なんせ六歳だからな。
エヌーサが俺の声を聞きながら、まねをして地面に蝶を描く。
「まずは蜂を書いてー、横から見まーす」
ん? ちょっと待て。8がおかしいぞ。エヌーサが地面に書いた8を見る。
……漢字の蜂を書いてる。
「お前が邪神か!」
「お前が勇者か!」
――――――
邪神と勇者は仲睦まじく暮らし、世界は平和が続きましたとさ。おしまい。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
この短編集はここで終わりとさせて頂きます。
また別の形で短編集を書くかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願いします。