十八話 日記
「7月10日 ジンちゃんは食べるのが速い。いつもそうだが、今日は何時にも増して、食べるのが速い。
目の前に置かれた給食を、いただきますの合図と共に食べ始める。
魚のフライをガツガツと食べ、スープを……飲まない。器を持ってすぐ置いただけだ。
多分熱かったのだろう。
次にご飯を流し込み、 ……流し込む? 出来んの?
あ! むせた。汚ねえ。今なんか鼻から出たよ。
慌ててスープを飲んだ。あれ、固まった。熱かった? だよね。そんなすぐ冷めないし。
牛乳をグビグビっと飲んで、きんぴらゴボウを二口で平らげる。
そして再びご飯を食べながら、スープをスプーンでグルグルとかき混ぜている。
やがて冷めたのか、ゴキュゴキュとスープを飲みほした。あれ? 具入ってたよね。噛んでないの? 丸呑み?
大きな声でごちそうさまと言い、手を合わせる。
速いよ、まだ五分たってないよ。
ジンちゃんは席を立つとツカツカと僕の方に歩いてくる。
「N、グランドに遊びに行こうぜ」
ちょっと待ってよ、まだ僕、きんぴらゴボウしか食べてないよ。
「はやく、はやく、ちんたらしてたらジジイになっちゃうぞ」
ジンちゃんが急かすもんだから、喉に詰まっちゃたよ。
おじいちゃんになるのは嫌だけど、ここで死んだら意味ないよ。
胸をドンドンと叩く僕に、スッと牛乳を差し出してくれるジンちゃん。
僕はゴキュゴキュとそれを飲む。
「むにょ~ん」
顔を両手の平で引っ張って変顔をするジンちゃん。
「ブボッ」
何て事するんだ、思わず吹き出しちゃったじゃないか。
「あ」
「……」
噴き出した牛乳が目の前にいたジンちゃんに、思いっきりかかった。
オロオロする僕にジンちゃんは言う。
「いいから、早くグランドにいくぞ。いい場所とられちまう」
見ると、いつの間にやらサッカーボールを脇に抱えていた。そして窓の外をジャンプして覗いている。
牛乳はどうでもいいみたいだ。何だか男らしいな。
給食を慌てて掻っ込む僕の服を引っ張っていくジンちゃん。
そのまま食器を片付けずに遊びに行った僕達は、後で担任の先生に怒られた。
それから二人仲良く廊下に立たされたんだ。
「ブハハ、あいつチャック空いてたぜ」
そう言うジンちゃんは雑巾の匂いがした。
こうして何時も僕はジンちゃんに振り回されてばっかりだ。
でも、僕の大切な親友です」
「何だよ。恥ずかしいじゃねえか」
「チョット、勝手に日記読まないでよ。恥ずかしいのは僕だよ」
僕はジンちゃんから日記をひったくって、引き出しの中にしまった。
「おいN、公園いくぞ」
「うん分かった」
二人は公園に向かって走っていく。一度も振り返らず、前だけを見て……