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十七話 身から出た錆

掲載するの悩みました。

 私は耳を疑った。どういう事だ? 聞き違えたのか、もう一度ゆっくり言って欲しい。

 人は思いこむ事によって在りもしない言葉を、勝手に補完して理解してしまう場合がある。


 戸惑う私にNは言う。


「お前なんか、おちんちんだ」


 今度はしっかり聞こえた。やはり聞き違いでは無かった。

 彼は確かにおちんちんと言っていた。一体全体どういう意味だろう?

 無論言葉の意味は分かっている、しかし意図が分からない。

 私はひょっとして怒られているのか? それとも馬鹿にされているのだろうか。

 はたまた、私が理解出来ないだけで別のもっともな理由があるのかも知れない。


 私が返す言葉が見つからず、黙っていると彼が苛立つようにもう一度言った。


「お前はおちんちんだ」


 ふむ、どうやら冗談の類ではないようだ。

 彼はどうも感情的になっているように見受けられる。

 恐らく私を罵倒しているのだろうが、それにしても言葉のチョイスに疑問を感じる。


 もしや私の見た目の話をしているのだろうか。

 確かに私は天パーだ。だからと言ってイコールおちんちんというのは、いささか考えが飛躍し過ぎてないだろうか。

 罵倒の言葉など、それこそ腐るほどあるだろう。

 彼は何故、今、その言葉を選んだのであろうか。


「何を怒って……」

「シャーラップ」


 どうやら反論すらも許されないらしい、口を開いた瞬間に黙れときたもんだ。

 おちんちん以外の言葉が聞けた、その事に喜ぶべきなのだろうか? 

 だが、質問すらも出来ないとなると、彼の真意を理解する事は永劫叶わぬではないか。


 彼は何かに怒っている。これは間違いないであろう。

 問題は何に怒り、何故その言葉を発したかだ。


「ちょっと、聞いてるの?」


 聞いてる、聞いてるさ。

 私は今凄く集中している、それこそ針が落ちる音すら聞き逃さない程に。

 だが、その集中を妨げる言葉が、正に今、君の口から出て来たんだ。


 怒っているがゆえなのかわからないが、何故彼は女言葉になったのであろうか。

 それとも隠していただけで、元々そちらの要素が強かったのだろうか。

 こういうのを世間では何と言ったかな、そうだオネエだ。


 何と彼は私の知らぬ間にオネエになっていたのか。

 だとすると、おちんちんにこだわる理由も頷ける。もしや後悔しているのか?

 すでに無くしてしまった物に望郷の念を抱いているのか。

 これは嫉妬? だとすると、とんだお門違いというものだ。

 確かに私はそれを有している。だが君がそれを無くしたこととは私は無関係のはずだ。

 いや、待てよ、本当に無関係なのだろうか。知らぬ間に彼が決断する要因を私が作っていたとしたら……

 まさか彼は私の事を……


「ごめん、君の気持には答えられない」


 私は断腸の思いで、その言葉を口に出した。

 気持ちは有難い。だが、私は男性を愛する事は出来ないのだ。許されるなら恋人ではなく、このまま良き友人として付き合っていけぬものだろうか。


「はあ?」と眉を顰める彼。

 駄目か、やはり彼は友情ではなく、恋愛を取るのか。

 所詮男女の友情など存在しないのだ。友達といいつつ何処か下心があるのだ。


 ちょっと待て、混乱してきた。彼は男だ。友情は存在しうる。

 いやいやいやいや、彼はオネエだった、体は男でも心は女。この場合どうなるのだ。


 私は思考の渦に巻き込まれ、深く深く沈んでいく。

 彼は何か言っていたが、もはや私の耳には入らなかった。

 気付いた時には彼の姿は無く、残されたのは疑問だけであった。


 しかし、おちんちんとは何だったのであろう。

 いくら考えても結論は出ない。


 そんな折、私はたまたま友人のTにあった。

 そうだ、もしかしたら彼なら分かるかも知れない。聞いてみるとしよう。

 ……しかし何処まで話したもんか。Nがオネエだった事まで話す訳にはいかない。

 要点だけを上手く伝えねばならない。

 しかし私は口下手だ。Nのプライバシーを守りつつ上手く喋れるだろうか。

 

 色んな思考が頭の中をグルグル回り、最終的に口から出たのは


「お前なんか、おちんちんだ」


 だった。




――――――


 

 後日Tは、ノートを見ながら考え込んでいた。

 そのノートとは研究ノートで、『人は思いがけない言葉を投げかけられたらどう反応するか』というテーマだった。

 結果、協力者のNは何故か告白して振られる。そして振った彼は俺をチンコ呼ばわりする。

 一体何がどうなったら、この様な結果に導かれるのであろうか。

 もしかして、おちんちんと言う言葉には俺の知らない意味が隠されているのだろうか。




俺は面白いんだけどなあ。

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