十六話 名探偵ジン
「犯人はこの中にいる」
ズバッと言ってやった。
俺の名はジン。そして横でポカンとアホ面を晒しているのが、友達のNだ。
今日は学校帰り、皆が俺の家に遊びに来ていた。
Nと他に二人、全員クラスメイトで、コイツラの目的は珍天堂ㇲイッチだ。
このゲーム機名前が独特で、鼻から抜けるように「ㇲ」と発音するのが特徴だ。
最初は「そんな言いにくいゲーム流行るわけがねえ」などとネットで叩かれていたが、気付けばバカ売れで、品切れ続出。今では入荷待ちが、ずっと続いている。
俺は予約して発売日に入手したため、今手元にあるわけだが。
それで買う事が出来なかったノロマ共が、こうしてゾンビの群れの如く押し寄せて来たわけだ。
こんな奴らに遊ばせる義理などないが、俺の心は海よりも広いのだ、快く受け入れてやろうではないか。
それに一人でやるよりかは、皆でワイワイした方が楽しいしな。
そうしてゲームをやり始めて、しばらくした時、事件が起こったんだ。
なんと俺が便所に行っている間に机の上に置いてあった、イチゴのショートケーキが無くなっていたのだ。
部屋に戻って来た時、気付いた。確かにあったはずのショートショートが無くなっており、皿だけポツンと机に置かれていたのだ。
勿論俺は食べていない。そして今、この家には俺達四人しかいない。ゆえに犯人は俺以外のコイツらしかいない。
俺は改めて、もう一度言う。
「犯人はこの中にいる」
皆の顔を見渡す。首を横に振る者、目を逸らす者、ポカンと口を開ける者、様々だ。
「怒らないから、正直に名乗り出てこい」
皆「嘘だ、絶対怒るじゃん」と言いたげな顔をしている。
いや、本当だ、俺は怒らない。だが犯人は見つけて見せる。
そう、この名探偵ジンが絶対に犯人を見つけてやる!
まずは容疑者A、コイツが一番怪しい。何と言ってもデブだからだ。
俺はAをキッと睨む。目を逸らされた。ますます怪しい。
「お前だな」
「ぼ、ぼくじゃないよ」
しらばっくれやがった。まあいい。
次にB、口の周りに白い物が付いている。あれは生クリームか?
だとするとコイツが犯人か。
「お前か」
「絶対僕じゃない」
俺が口の周りの白い物を指差しながら言うと、Bはそれを手で拭いながら、堂々と違うと言い放った。
なるほど、あくまで白を切るつもりか。
じゃあ最後N、こいつにも同じ様に聞いてみよう。
「お前が食べたな」
「い、いや、あの、その」
何とも歯切れの悪い。Nは嘘を付けない奴なのだ。こいつもショートケーキを食べた可能性が高い。
これで一通り全員に聞いたな。最後にもう一度言ってやる。
「これが最後のチャンスだ。犯人は手を上げろ。ここで名乗り出ないと大変な事になるぞ」
誰も手を上げない。
全く、往生際の悪い。どうせすぐにバレルのだ、早めに名乗り出ればよいものを。
俺はため息を付いて三人を見回す。
それから俺は幾つもの質問を重ね、犯人を特定していく。よし、そろそろ頃合いか? と思った時、Aが手を上げた。
「ジンちゃん、俺、ちょっとトイレ」
青い顔をしたAはそう言うと部屋を出て行こうとする。
なるほど分かったぞ、俺は決め台詞を言う。
「犯人は、お前……」
「ジンちゃん」
俺の決め台詞に被せて声を出したのはN。
「僕もトイレ」
「僕も」
Nに続いてBまでもトイレに行くと言う。
彼ら三人はドタドタと足音を立てながら部屋を出ていった。
一人残された俺は腕を組んで考える。
やはり全員が犯人であったか。こうなるのは分かっていた。俺は悲しいよ。
なにせあのショートケーキ、冷蔵庫に入れるのを忘れて昨日から放置してたからな。
あんなもん食ったら腹痛くなるの当たり前だろうに。
だから早く名乗り出ろと言っただろうが。