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十四話 おしどり夫婦

オチを予想しながら読んでみて下さい。

「この後、彼に起こった衝撃の展開とは!?」


 『ビッ』


「ツーアウト、ランナー一塁。バッターボックスには四番……」


「ちょっと~、変えないでよ。見てるんだから」


 妻の声だ。どうやらテレビのチャンネルを変えてしまった事にご立腹らしい。

 別に野球が見たかったという訳ではないのだが、なんとなくチャンネルを変えてしまうのだ。

 妻の抗議に従って、元の番組にチャンネルを戻す。

 何でも昔起こった未解決事件を特集しているようだ。殺人、強盗などの凶悪犯罪を、再現したVTRと共に面白おかしく映し出すのだ。


 今やっているのは、三億円の銀行強盗事件のようだが。


「当初A、Bの二人で犯行を計画していたが、ここにCが加わる事となった。彼にはギャンブルで作った多額の借金があり……」


 どうせこのCが足を引っ張るのであろう、いつものパターンだ。何で仲間に入れるかね?


「Cは酔った勢いで妻に話してしまい……」


 ほらな、思った通りだ。だがまあ未解決というからには銀行強盗は成功するのであろう。

 そして分け前でもめると。Cが欲を出すんだろ。


「ねえ、ブツブツ五月蠅いんだけど。聞こえないじゃない」


 へいへい、すいませんね。


「こうして三億円を奪った彼らはアジトに帰り、金を分配する事になった。だが、ここで問題が発生。Cがもっと分け前をよこせと言ったのだ」


 あ~あ、馬鹿だな。ただでさえお荷物なのに。コイツ殺されるだろ。口も軽そうだし。


「警察はCの死体を発見。だが金とA,Bの行方はようとして知れなかった」


 さて、この後どうなるかだが、多分一人は死ぬんだろうな。それでもう一人と金は見つからないと。


「スーツケースに詰められたBの死体が見つかった。恐らく殺害して、川に投げ捨てたと思われる。

 だが、Aは未だ見つかっていない。今もこの街の何処かに何食わぬ顔で潜んでいるのかも知れない……」


 ここで番組は終了。未解決なだけあって中途半端な終わり方だ。


 本当、思った通りになったな。その時の状況が目に浮かぶわ。

 で、Aは金をどっかに埋めてだな……


 その時、頭に思い浮かんだ映像に見覚えがあった。

 それは家のすぐ裏にある山林に、金を埋める場面。

 想像でしかない映像が、やけに鮮明に脳裏に映る。

 ……



 晩飯を食べる時も俺は一言も喋らなかった。一つの考えがグルグルと頭の中を駆け巡る。


「どうしたの? やけに深刻な顔して。もしかして何か昔の事思い出したの?」


 そうなんだ。俺は記憶喪失だ。五年より前の事を覚えてないんだ。

 全部じゃない。中学生……いや高校生までの記憶はある。それ以後の記憶が無いんだ。大学に行ったかどうかも覚えていない。

 十年ほどポッカリと記憶が抜けているのだ。

 四年ほど前、妻と知り合い結婚して、今は普通に暮らしているのだが。もしかしたらさっきの思い浮かんだ映像は、忘れていた記憶?


 この後妻が色々話し掛けてきていたようだが、全く耳に入らなかった。

 確かめなければ……



――――――



 懐中電灯の明かりを頼りに裏の山林へ向かう。

 片手にはスコップ。

 時刻は深夜二時。妻はもう寝ている。


 確かここのはずだ。山林の中を歩くにつれ、記憶が鮮明になってくる。

 間違いない、あの時のままだ。目印の大きな石に付けた印も記憶の通りだ。


 ザッ、ザッと土を掘り返す。

 なかなか重労働だ。

 三十分ほど掘り進めると、ガンとスコップの先に堅い物が当たった。


 出て来たのはスーツケース。

 震える手で開けてみると、中には札束がギッシリと詰まっていた。





「あなた、見つけたの?」


 背後で聞こえた声にビクリと体が跳ね上がる。

 懐中電灯で照らす。暗闇に浮かび上がる妻の顔。


「何でここに居るんだ」

「だって急に家を抜け出すんだもん。夕飯の時も何か様子がおかしかったし……」


 そうか、確かに不審だったな。心配するのも当然であろう。

 俺は妻の質問には答えず、逆に聞き返した。


「なあ、お前海外旅行、行きたいって言ってたよな。あと車も欲しいって」


 妻はどう答えるだろうか? 札束は確実に見られているだろう。

 勘のいい妻の事だ、何の金かもう分かっているだろう。

 彼女は警察に届けろと言うだろうか?

 今まで俺の稼ぎが悪く、贅沢なんてさせてやれなかった。それでも妻は文句一つ言わなかった。

 知り合いからは、おしどり夫婦なんて言葉も聞こえてきた。

 この金さえあれば……


「ねえ、あなた。私、イタリアに行きたいわ。車はそうね……軽でいいわ。その方が近くに居られるじゃない」


 驚いて妻の顔を見る。その顔は笑顔だ。つられて俺も笑顔になる。


「フフフ」

「ハハハ」


 二人で仲良くスーツケースを持って帰った。





 俺は考える。妻を殺さなくて良かったと。

 内緒でかけた多額の保険金。もう保険金殺人なんて考えなくていい。

 そんな事せずとも、金が手に入ったのだ。

 妻も警察に行こうなんて馬鹿な考えを起こさなかったしな。

 これから妻と楽しい日々が待っているのだ。それを考えるとスーツケースも随分軽く感じられる。





 私は考える。夫を殺さなくて良かったと。

 手に持っていた折り畳みナイフを懐に隠す。

 夫が金を独り占めしようなんて馬鹿な考えを起こさなくて良かった。

 なにせ四年も我慢したのだ。

 夫には内緒だが、私は再婚だ。前の夫は死んだ。名前はC。

 多分今の夫に殺されたのだろうが、恨みなど全くない。あんなギャンブル狂いの屑の生死など知った事ではない。

 今の夫はやさしい。金さえあれば、わざわざ人殺しのリスクを背負う必要などあるわけが無いのだ。


 夫を見詰める。彼も見つめ返してくれる。


「フフフ」

「ハハハ」


 お互い、自然と笑みがこぼれるのであった。



似た者同士の彼ら。正におしどり夫婦でしょうか。

彼らは仲良く暮らすでしょう。お金が尽きるまでは……








 

予想は当たりましたか?

もし当たったならご一報ください。

ウツロスレイヤーの称号を与えます。


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