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一話 ドライブ

世の中には色んな趣味を持った方がおられます。

時には人を巻き込んでしまう迷惑な趣味もあったりするようです。

今回ご紹介する方の趣味はどうなのでしょうか。

 ギコギコと倉庫に響くノコギリの音。


 食事が出来たと呼ぶ妻の声で手を止める。

 もう少しで終わるんだが……

 仕方がない作業は後回しにしよう、彼女を怒らせると怖いからな。

 それにしてもこうやってノコギリを使っているとあの時の事を思い出す。

 あれは一年ほど前だったか。



「足なし地蔵って知ってるか?」


 俺にそう尋ねてくるのは友人のN、また始まったか。この男はこの手の怖い話が好きで、どこからか情報を仕入れてきては俺に一緒にいこうと誘うのだ。

 案の定、明日行ってみないかと誘ってくるのだがあまり気乗りはしない。今まで何度も心霊スポットなるものへNと一緒に行ってみたが、幽霊など出てこなかった。

 どうやって断ろうかなどと考えていると、近くで聞き耳を立てていたのか女が話しかけてきた。


「あんた達また、くだらないオカルト話してるの?」


 そう言って話に割り込んでくるのはNの友人のA子。

 くだらないと思うなら割り込んでくるなよなどと俺が考えているのを他所よそに、NとAの話は盛り上がっていた。


「じゃあ明日の七時集合な」


 いつの間にやら行く事が決定していた様だ。コイツら二人は何時もそうだ、勝手に話を決めてしまい気付いた時には巻き込まれているのだ。

 そんなに行きたきゃ二人で行けばいいのに。


「それならB子も誘っとくわね」


 何ですとB子が来るのか、ならば話は別だ。車の中を掃除しておこう。



 次の日待ち合わせ場所に車で向かう。季節は晩夏、梅雨の差し迫った時期という事もあり、ジメジメし暑さにエアコンのスイッチを入れると、なんともかび臭い嫌な臭いが鼻を突く。

 慌てて助手席と後部座席の窓を開け空気の入れ替えをしていると、次第にエアコンから出てくる臭気も収まってきた。


 約束の場所に到着すると既に三人は来ており、胸元のシャツを上下にパタパタと動かし、空気を送り込みながらこちらを指差すNと目が合う。

 

「遅せーぞ、十分以上待ったぞ」


 助手席の窓から不満気な顔を覗かせてNが言う。

 はてと、時計を見ると約束の時間まであと五分ある。

 なるほど待ち合わせ十五分前に来たのか、それで十分待ったと。知らんがな。


 三人を乗せ車を走らせる。バックミラーはB子の姿を映し出している。

 B子は美しい顔立ちをしており、張り出した胸から引きしまった腰への柔らかな曲線、そしてスカートから覗く白い足。


「バレリーナを目指していた女がいたんだ。けどある日、交通事故で右足を無くしてしまって……」


 Nの長い話が続いている。要は事故を苦に自殺した女が夜な夜な無くした足を探し回るって話らしい。

 その供養の為に建てられた地蔵が足なし地蔵であると。

 実に胡散臭い。第一女の欲しいのは足であって地蔵ではなかろう。


 車はやがて市内を抜け、国道から県道へと入り、とある峠道へと差し掛かる。


「ここだ、ここ」


 道は緩やかなカーブを描いており、それらしき像を通り過ぎると道路脇に車を停め歩いて近づいてみる。

 そこには地蔵が立っており、脇には供えてから日にちがたったのであろう枯れた花が置かれている。

 そして右足、確かに地蔵の右足は無かった。最初から無かったというよりは誰かが壊して無くなってしまったように荒い切断面が見受けられる。


「おう、ほんとに足ねえな」


 Nは地蔵の以前はあったであろう足を覗き込みながら、ピッタンピッタン頭を叩いている。


「ちょっと、やめなさいよ。罰が当たるわよ」


 A子の忠告を大丈夫大丈夫といいながら、これでも供えるかと言ってNは食べかけのパンを地蔵の足元に置くのだ。


 俺は面白かったが、A子B子は引き気味でもう帰ろうと言い出した。

 車に戻った俺達だったが、Nのもう少し怖がらせようとの意見で峠を越えて市内へと戻る迂回ルートで帰ることになったのだ。


「N、ちょっとやりすぎよ、B子が怖がってるじゃない」

「ごめん、ごめん。もう帰るから」


「帰るって言って何で山越えするのよ」

「山頂の景色スゲー綺麗なんだよ。せっかくだから一緒に見たくなったんだよ」


 Nは俺がB子を好きなのに気付いているのだろうか? 気をきかせてくれたのかも知れないな。


 B子は終始うつむき加減で二人の話に加わろうとはしていなかった。

 そんなB子をバックミラー越しにみるのだが、スカートから覗くスラっとした足についつい目がいってしまうのだ。


「おい! 前!!」


 気付いた時には遅かった、目の前に迫りくる人影を避ける暇なく車ではねてしまった。


 やっちまった。慌てて車から降りて周りを見渡すも薄暗く、はねたであろう人影を見つける事は出来なかった。

 A子とB子は慌てて警察に電話と言っているが、Nがそれを制止する。


「今のは幽霊だった。誰もはねてなんかいない。警察なんかに電話しても無駄だ」


 何を言ってるんだコイツと思ったが、確かに警察を呼ばれるのは困るな。

 なおもまくし立てるようにNは言う。


「俺、見たんだ。さっきの女、片足が無かった。しかもはねた音も衝撃も無かった」


 女だったか。確かに音しなかったな。しかしそれで幽霊と言うのも……


 しばらく懐中電灯や携帯電話のバックライトを頼りに辺りを探してみたが、なにも見つける事は出来なかった。


 結局幽霊だった事になり、皆青ざめた顔で車に乗り込むとそれぞれの家まで車で送っていく事にした。

 俺は正直幽霊だとは思っていなかったが、都合がよいので黙っていた。



 その日の晩はやけに寝苦しかった。喉の渇きを覚え、蛇口を捻り水を一杯のむ。

 そしてもう一度ベッドに入り寝ようとするのだが、音が気になって眠れない。


「ポタッ、ポタッ、ポタッ」


 水が垂れる音だ。この家もだいぶ古い。蛇口のしまりも悪くなっているのだろう。


「ポタッ、ポタッ、コツ」


 ん?何の音だ。


「コツ、コツ、コツ」


 窓の方から聞こえる。風で何かが当たっているのだろうか。

 コツ、コツと叩く音が響いている。

 近づいてゆっくりとカーテンを開けてみる。

 ……誰もいない。音も聞こえなくなっている。

 少し神経質になっていたのかも知れない。

 カーテンを閉めようとして違和感をを感じた。

 ガラスに何か映っている……。部屋が暗くてよく見えないが、俺の後ろに何か立っている。

 女だ、髪の長い女が俺の耳元でささやきかける。


「足、返して……」


 慌てて振り向く。誰もいない……

 だが耳元に当たった吐息の感触がいつまでも残っていた。


 その日から毎晩夢を見るようになった。あの女だ。片足の無い女が囁くのだ、足を返せと。

 俺は毎晩夢の中で……その女の首を絞めて殺すのだ。

 首を絞められた女は俺の腕をきむしり、血走った目で俺を見詰める。

 そして俺は女の死体を山に捨てに行くのだ。


 鏡を見る度に目の下のクマが深くなっている。あまり寝れていないのか。

 腕を見る。日に日に傷が増えている。このままではあの女に……



 あれから一週間がたった。女の夢は見なくなった。

 テレビをつけるとニュース番組が流れ、興奮したキャスターの中継を映し出す。

 

「バラバラ死体です。切断された頭部が見つかりました。他にも腕や足などが別々に袋詰めして放置されており……」


 電話が鳴った。通話ボタンを押す。Nからだ。


「おいニュース見たか」


 慌てた口調で話すN、今見ているニュースの事を言っているのだろう。


「あれはA子だ、A子が……」


 ああ、バラバラ死体の被害者がA子なんだろ? それで右足が見つかってないんだろ?

 興奮して要領を得ないNの説明だったが、俺の予想とほぼ同じ内容の話だった。

 B子とNは無事のようだが果たしてA子だけですむのだろうか……



 さらに一週間が過ぎた。今日はよく眠れない。今は午前二時、横殴りの雨が窓をコツコツと叩く。

 不意に玄関の方でドサッと音がした。何かを投げ捨てたような音。目を凝らす。

 薄明かりの下見えるのは人の足。A子の右足だ。


「これ、私の足じゃない……」


 耳元で聞こえるあの女の声。

 そうか駄目だったか、ノコギリでばらばらにするの結構大変だったんだけどな。


 しかし困った、他人の足じゃ駄目となると……


 窓を見ると女が俺の背後に映っていた。

 振り返るがやはり誰もいない。

 再び窓を見ると、今までぼんやりしてた女の輪郭がやけにハッキリと見える。

 部屋の中に入って来ている……


 右足の無い女が部屋の中で佇む。俺の足を取ろうってか? 嫌だね。貴様なんぞにくれてやるか。

 とは言っても、足……足か。目の前の青白い顔で片足・・で立つ女を見る。


「なんだ、そこに一本あるじゃねえか」

 

 ギコギコと倉庫に響くノコギリの音。

 首を絞められぐったりする片足の女。もうすぐ残った足も切り落とされる。

 やっぱり切り取った足を与えるのはやめだ。

 こいつは冷凍庫に保管しておこう。明日の晩はどんな姿で来てくれるのか楽しみだ。


 足が無くなって手だけで這って来るだろうか? それなら次は手を切り落としてやろう。 何処まで無くなれば来れなくなるのだろうか? 考えただけでもワクワクする。

 ああ明日が早く来ないだろうか。



 ギコギコと倉庫に響くノコギリの音。

 俺は去年結婚した。猛アタックの末、B子をものにしたのだ。

 今、B子の左手には結婚指輪がはまっている。

 また耳元で声がした。


「私の足……」


 わかってるよ食事できたんだろ、今いくよ。

 B子を怒らせると怖いからな。


 B子と一緒にいるのは楽しい、でもあの部屋寒いんだよな。腐らないからいいんだけどさ。

 

果たして、片足の幽霊とは実在したのでしょうか?

彼は本当にB子と結婚したのでしょうか?

彼の言う妻の声とは幽霊の声がそう聞こえていただけなのでしょうか?

腐るのを気にするという事はB子は既に……


様々な解釈があるとは思いますが、一番怖いのは人の狂気だというお話でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかまじ呪われそうなのでブクマしませんでした、、 狂気と呪い(幽霊)が入り交じって結局どうなのかがわからない、ってのが怖すぎ
[良い点] 心霊ホラーだと思って読み進めてたら、違った狂気で驚きました。
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