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GRASPA  作者: F式 大熊猫改 (Lika)
第一章
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騎士

 バラス島コロシアム。中央の姫の処刑に使われた場所でオズマ・ガウルは一人佇んでいた。既にコロシアムの遺体は全て埋葬されている。


オズマは遺体の埋葬の折、奇妙な事に気が付いた。貴族達が身に付けていたであろう金品が残らず強奪されていたのである。


(姫を助けたのだ。間違いなく襲撃者はレインセルの騎士……だが騎士が金品など奪う訳が無い……)


あの現場の惨状からしてオズマは襲撃者がイリーナだと思った。ローレンスという街で奴隷の闇市が潰される事件があった。それをやったのがイリーナ。その時と状況が酷似していた。奴隷を買おうとした貴族、売ろうとした奴隷商、全て殺されていたのだ。偶然オズマもその場に居合わせた。


(イリーナかどうかはともかく……騎士は間違いなく関わっているだろう。だが貴族を殺したのは別の……)


もしイリーナが単独で動いていたとしたら誰かに助太刀を求める筈だとオズマは考える。そしてその助太刀で一番手っ取り早いのは盗賊だろう。今バラス島には腕の立つ盗賊団が賞金首に指定されていた。だが姫の処刑などのゴタゴタで放置気味だったのだ。


 そして更にコロシアムの宝物庫に保管してあった、とある宝石が持ち去られていた。これも盗賊の仕業だと思ったが、宝石以外の宝には手つかずだった。


(宝石を持ち去ったのは騎士……? だが宝石の存在をどうやって知った。騎士が偶然見つけて持ち去ろうとする訳が無い……あれは……)


宝石とは「暗唱の宝石」という物。魔術の触媒として使用される物だ。しかも一流の魔術師でなければ扱う事は出来ない。その存在自体が魔術師の中でも一部の者しか知らない貴重な触媒だ。そんな物を騎士が自分の判断で持ち去るとは考えれなかった。魔術師に依頼され持ち去った可能性も否定できないが、そうなるとレインセルは暗唱の宝石の存在を知っていた事になる。もしそうなら姫を見捨てる選択などしない筈だった。ブラグの手の内が分かっているなら、さっさと姫を助けに来る筈だ。


(あの一年間は姫が死亡している物と思いこみ諦めていたから……そう考えるのが自然だ。ならばレインセルは暗唱の宝石の存在は知らなかった筈だ……)


姫を助けたのは騎士。貴族を皆殺しにしたのは盗賊。そして更に魔術師が暗唱の宝石を持ち去った。その魔術師は宝石の存在を知る者。その時点で相当の手練れだと推測できた。


(だが魔術師が攻撃を行った形跡は無い……。貴族も護衛団も切り殺されてた。敷いて言えば観客席に残った抉られたような跡だが……)


貴族を最初に攻撃した蛇の守護霊。その顕現した跡が観客席に残っていた。だがオズマがそれを知る術は無い。


「オズマ団長」


そこに一人の騎士がオズマへと駆け寄ってきた。死体の調査、および埋葬が全て完了したとの報告だった。


「殺されたのは護衛団五十六名、処刑人三名。それで……貴族は例のブラグ高官のお気に入り貴族でした。約百三十名、やはりすべて金品が強奪されています」


オズマは黙って報告を聞いていた。静かに部下へ首だけ傾け、オズマは尋ねた。レインセルへ侵攻すべきとの声は部下から上がっているかと。


「いえ……むしろ襲撃者を……称賛する声が上がっています……」


オズマの部下は背筋を強張らせながら覚悟した。次の瞬間鉄拳が飛んでくるのでは無いかと。


だがオズマは静かに振り返りながら部下へと言い放った。


「そうか……だが我々も同罪だ。一年間姫の悲鳴を聞きながら何もしなかったのだからな……ブラグは腐りきっていたが……それでも我が主なのだ。分かるか……」


部下は思いだす。姫の悲鳴を。助けを求める悲痛な叫びを。それを聞きながら騎士達は黙視し続けた。いつの間にか部下の頬に涙が流れる。


「騎士団は待機。追って指示を出す。すまんな……全て私の責任だ。お前も体を休めておけ」


オズマは部下の肩を軽く叩くとその場を後にした。


残された部下は止めどなく涙を流す。今さら姫を助けられなかった事に後悔しながら。




 コロシアムの地下牢、姫が拷問されていた場所へと入る騎士が一人。彼は姫が拷問されていた間、地下牢の警備へと付いていた一人だった。今でも悲痛な叫び声が耳に届いてくるようだった。


騎士は床に散らばる拷問器具の内、ノコギリを手に取り眺めた。血がこべりつき、どんな拷問を施したのか考えるだけで吐き気がする。ここで一年間、姫は拷問に耐え抜いたのだ。


「もっと早く……伝えていれば……」


男はレインセルへと密告した騎士だった。姫はまだ生きていると。そして処刑当日、最も警備が薄くなるとも伝えた。オズマ率いる騎士団はレインセルへ出立する為、島の港に集結していたのだ。


「いや……私が助ければ良かったじゃないか……何が連隊だ……何が騎士だ……!」


ノコギリを床へと叩きつけ破壊する。男には騎士である誇りも自覚も既に無くなっていた。


「姫様……っ……」


男は膝を折り心の底から謝った。謝って済む問題では無いが、そうせざるを得なかった。もう騎士ではいられない。男はその日以来、騎士団から姿を消した。


まるで幽鬼のように


消えない罪を償い続ける事だけを考えた


そうする事がせめてもの罪滅ぼしと信じて

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