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でもずっと一緒

 看護師さんたちが、午前終了の札をかけたり、掃除をしたりしているのを横目に、僕は昼の検査や処置の準備に入る。12時から16時は病院の昼休みで、飼い主さんには長く休んでいると思われているけれど、午前中に来て預かった動物たちの検査や、手術をする時間で中では色々忙しいのだ。

 今日の昼の処置は、ホワイトボートに書いてある。前日のうちに今日の予定が書き込んであり、追加のものが入れば、随時書き加えられていく。今日は、手術はなし、午前中に預かった宮本マルちゃんの心臓の超音波検査とレントゲン検査、怪我をした猫の傷の処置、血尿が出ている犬の血液検査とレントゲン検査、とバリエーション豊富だ。人だったら、循環器科と外科と泌尿器科の分野だけれど、獣医師は基本的に全分野をカバーする。

 午前最後の診察を終えた、篠原先生も2階へ上がってくる。この病院は、敷地が小さい分、4階建てになっていて、主に1階が診察と、入院舎、2階は検査室と手術室、3階に在庫とスタッフルーム、4階は院長の自宅が併設され、鎮座つかまつっている。

「水野先生は、フクちゃんの処置とチョコちゃんの検査お願いします」

 と申し付け、篠原先生と、関口さんが超音波室へ消えていく。僕はというと、申し付けられた検査に向かうかと言えば、まずは一緒に処置をしてくれる看護師さんを探さないとならない。動物の医療では、動物がじっとしてくれないので、必ず、保定者と言って、動物を抑えてくれる人とペアにならないと仕事が始まらない。ふんわりした関口さんと組むと癒されるけれど、篠原先生と検査に入ってしまったので、僕はもう一人の看護師、長田さんに頼まざるを得ない。まだ1階にいる、長田さんを呼びに階段を下りる。要件は内線でも事足りるが、何しろ、長田さんは年齢こそ僕より下だけれど、もう勤務8年のベテラン看護師だから何となく萎縮してしまう。

「すみません。処置の保定お願いできますか」

 受付で、午前の会計を合わせていた長田さんがこちらを見る。まずい、不機嫌そうだ。午前の会計が合わなかったか、何か伝達ミスがあって受付が混乱したか。

「ちょっと、みずせん」

 長田さんは僕のことをこう呼ぶ。水野先生を略してミズセンなのだろう。気に入っているわけでは無いが、きっと彼女なりに親しみを込めていると信じ、そのまま呼ばれている。

「なんでしょう」

 既に腰が引け気味の僕。何かミスったのか。

「今日、坂田さんのクッキーちゃんのこと、ミルクちゃんって呼んだでしょ。坂田さんは、ミルクちゃんのこと覚えていてくれてうれしいって言ってたけど、あんなことがあったばっかりなんだから、気を付けてくださいね」

 それを聞いて、顔から血の気が引くのを感じる。坂田さんのミルクちゃんは、僕が勤務を始めて半年経ったころ亡くなったダックスフントだ。もちろん僕が診ていたのではなく、院長の診察の補助で、亡くなる前2週間の闘病を一緒に追ったのだ。ミルクちゃんが亡くなって2年、やっと新しい子を迎えましたと来てくれた坂田さんのクッキーちゃんのワクチンを担当して、無意識にミルクちゃんと呼んでしまったらしい。坂田さんは幸い好意的に受け取ってくれたようだけれど、これは痛恨のミスだ。動物病院はゆりかごから墓場まで、動物の死についてはもちろんデリケートな問題だ。

「すみませんでした。次からは注意します」

 と言いながら、石井さんの顔が浮かぶ。うちの子死んでいませんからという声、散らばる花束。

「わかればよろしい。じゃ、検査はじめよう」

 僕を気遣ってくれたのか、いつもよりやや優しいような気がする長田さんの声に促されて2階に戻った。



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