でもずっと一緒
次の日、また裏口から瀬川先生が現れた。今日は関口さんに最新ジェラートのお土産を渡して、頬を赤らめさせている。
「先日は、お疲れ様でした」
と一応声をかける。どうやら篠原先生と親しいのは本当のようだし、悪い人ではないのは確かだ。
「やあ、君何もしなかったけどね。僕のマタタビがほとんど仕事しただけで」
爽やかで一見嫌味ということに気が付かないくらいだ。南田さん家の猫たちは、案の定飼育状態が劣悪になりつつあったので、あの時南田さんの腕にすり寄ったタマちゃんだけ残して、いくつかの保護団体が数匹ずつ引き取ってくれたと教えてくれた。南田さんも、ようやく自分の精神状態を受け入れて、心療内科に通院を始めたそうだ。
「保護団体の手配をしてくれたのは、君のうちの院長だよ。なんだかんだ面白い人だよね山田先生って」
当院の院長は、院長ながら病院にいないことが多い。何をしているのか、僕にはまだはっきりわからないが、顔は広いらしい。瀬川先生は何しに来たんだろう。もしかしたらことの顛末をわざわざ伝えに来てくれたのかもしれない。
「そうそう」
と裏口が再度開いて、瀬川先生があらわれた。ビックリする僕を可笑しそうにみて
「篠原先生って、私服いまいちだよね。少しは親しみ持てたでしょ。あの人、ああ見えて、けっこうギャップの人だから、色々探してみてよ」
いたずらっぽく微笑むと、現実では初めて見る男のウインクを決めて今度こそ帰って行った。
2階に上がると、篠原先生は顕微鏡をのぞきこんでいた。確かに、あの私服はいまいちだったなぁ、と思いながら、それでもどんな服もそれなりに着こなせてしまう、それゆえ冷たくさえ感じてしまう整った横顔をそっとの盗み見る。
いつも言葉少なで、正論を手短にしか伝えてくれない、時に僕や患者さんとの間に壁を作っているとさえ感じることがある。でも本当は、南田さんの秘密を見抜くほどに、真摯に患者さんに向き合う熱い気持ちがあることを知った。
他にどんなギャップがあるのだろう。小柄な白衣の後姿をみながら、この人のことをもっと知りたいと思っている自分に気が付いた。
長編というものを書いてみようと思ったのですが、この長さで限界でした。10万文字とか書くとき、自分が何を書いたか、どうして覚えていられるのでしょう。
こういう事例は経験していませんが、ペットロスにならずに、幸せなペットとの最期を迎えられるように願っています。動物たちは、きっとつらい最期でなく、楽しかった日々を思い出してほしいはず。