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三軒慎也の場合①

 三軒慎也(さんのきしんや)は、この時病対策本部に入って5年だが、常に見習いの立場であった。


 そもそも、時使いはそうそう現れるものでなく、何億といるこの日本でも僅か50人前後しか見つかっていないのだ。普通の会社でも、新人が入らなければ、下っ端は常に1番所属年数が低いものと決まっている。それは、この部にも適応される訳で……。慎也は常日頃、早く新人が入ってこいと心の中で願っていた。


「はじめましてです! 今日付けで配属になりました、黄花蛍です! よろしくです!」


 それが、叶った慎也は、思わずガッツポーズをしてしまった。やっと……やっと見習い兼雑用係から開放される。しかも、先輩という憧れのポジション付きだ。これを喜ばすして何を喜ぶ。


「俺は三軒慎也。君の教育係を任されたからよろしく。慎也先輩って呼んでくれな!」

「よろしくです! 慎也先輩!!」

「せんぱい……!」


 じーんと体が痺れた感覚を感じ、慎也は思わず両手を握りしめた。始めての後輩。しかも可愛い女の子! テンションが上がるのは致し方ないだろう。


 が、その興奮は長くは続かなかった。


「ちょっ! それは爆発するから一緒にしちゃダメってさっきいったでしょ!!」

「時使いには、時喰いに憑かれた自然発生型ととある事情で政府によって人為的に時喰いを憑かせる人工発生型の二種類が……って! 寝るなぁぁぁぁ!!」

「なんでキングに対時喰い武器を向けてるの! って、こらこらこら! なにしてんのあんたは!!」


 とまぁ、慎也は蛍に振り回されっぱなしな訳で。まだ初日なのに、日が暮れる頃には、いつも以上にぐったりした慎也と、今だ目を輝かせている蛍がいるという物凄く変な光景が出来上がっていた。彼のデスクの一角で、時間が経つに連れて大きくなっていく、飴やらお菓子やらの山は、遠巻きに見ている先輩方からの慰めか、それとも問題児教育者という名の人柱への捧げものか。どちらにせよ、触る蛍に祟なし状態になっているのは目に見えていた。


「慎也先輩! 慎也先輩!! 私はいつ時喰いを倒しにいけるのですか?」

「まだ見習いなんだから、当分先だよ」

「え!?」

「それに、訓練なにもしてない、素人同然の君が行ったところで足で纏いになるだけだし」

「譲葉愛無の足を引っ張るのなら、物理も精神的にも大歓迎して引っ張り回しますが、他の先輩の足は引っ張りませんです!」

「何その自信」


 本当に意味が分からない。分かりたくもない。そもそも、慎也も実地模擬訓練はいやって言うほど受けているが、本物の現場に出れるようになったのは、つい最近だったりする。それは、慎也に憑いている時喰いの力がそこまで強くないという事もあったが、彼自身、あまり現場に行きたくないというのも大きな理由の一つである。


「それに、君みたいな猪突猛進型が行ったら、作戦めためたになるだけじゃなくて、何人か消死が出ちゃうだろうし」

「消死?」

「時使いは、時喰いに対抗する唯一の手段でもあり、時喰いに狙われるリスクも格段に高い。そんな時使いが、時喰いのいる記憶の空間に喰われて、存在自体この世から消えることがある。それが、消死。戦争でいえば戦死だな」

「……」

「そうなれば、遺体はおろか、その人のいた痕跡が消える。パソコンのデータも、所持物も部屋も他者の記憶からも。……俺達、時使いの記憶以外からそいつの生きた証が消えてなくなるんだ」


 数年前に体感したとある消死を思い出し、慎也は唇を噛み締めた。あんな思いをするのは、1度で充分だ。


「だから、きちんと基礎を学んで訓練を受けなきゃ、現場には行かせられない。これは、この第一部隊隊長からの命令だからな」

「なら、隊長殿に直訴しますです!」

「は!?」

「私は1日でもはやく現場で活躍して、上に行きたいです! そして、兄者の敵である譲葉愛無をこの手で倒すです! 見習いなんてちみちみやってる暇ないです!」

「お前、何言って……」

「隊長殿はどこですか!? 隊長殿を探すです!!!!」

「ちょっ……!」


 止める間もなく、部屋を出ていった蛍。暫く咄嗟に伸ばしてしまった腕をそのまま固まっていた慎也だが、その手で拳を作ると、思い切り自分のデスクに叩きつけた。

 痺れるような鈍い痛みと共に、軽く崩れるお菓子の山、先輩方から向けられる視線。それのどれもが嫌になりそうでしょうがなかった。

 そんな慎也の肩を叩く人が1人。


「大丈夫? 慎也くん」

「たい……ちょう」

「ごめんね。急遽時病が発生したとはいえ、新人さん任せっきりにしちゃって。それで、新人さんは?」

「隊長探して部屋出てきました……」

「もしかして、あの疾風の如く駆けていった子?」

「多分」


 慎也の雰囲気と蛍の行動で、なにか分かったのだろう。苦笑しながら、隊長こと瀬羅絆輝(せらひかり)はぽんぽんと慎也の髪を撫でた。


「今から一緒に飲みに行く?」

「でも、あの新人……」

「……まぁ、大丈夫でしょう。ユズ……キング見つけて飛び掛ってたし」

「あいつまた!」

「なんか、名物になりそうな勢いだったよ」

「そんな名物ここにはいらないですよ……」

「まぁまぁ。黄花さんの事はキングに任せて。あいつの事だから、適当にやるだろうし」


 まるで、その場面をわかっているような口振りに、慎也はふとある事を思い出した。そういえば……。


「キングと隊長って同期でしたっけ」

「そうそう。俺は人工発生型で、あいつは自然発生型。ほぼ同時期で時使いが発生するのは珍しいし、どっちも力が強かったから、入った当初は話題になったな」

「はぁ」

「まぁ、黄花さんは別の意味でも話題になりそうだけど」

「ですね……」


 先が思いやられる。その言葉に尽きるだろう。


「それじゃ、行こっか。場所はいつもの居酒屋でいい?」

「はい。着替えてから行きます」

「了解。それじゃまたあとで」

「はい」


 絆輝と分かれた後も、多少蛍の事を心配していた慎也だが、廊下の途中で気絶した蛍を一輪車に乗っけ、部屋に配送しているルークを見て、杞憂だったと知ったとか。


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