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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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状況説明4

「えーと……それで、この町の騎士団が何か問題があるって話でしたっけ」

「正確には、この町の詰所に元から居た騎士達……ですね。騎士団という程の規模ではございません」


 騎士団には幾つか規模がある。大規模なものから本部、副本部、支部、詰所となる。

 詰所は「隊長」をトップとした五人規模の一番小さなものであり、その規模故に不正の温床となる事も多い。

 今このミーズの町は元々居た詰所の騎士だけではなく近隣の町の支部からも応援の騎士達が来ているわけだが……詰所の騎士は支部の騎士にエリートがどうのといったコンプレックスがあったりするので、一緒の現場に置いた場合の温度差自体は珍しいことではない。


「問題は、私が伝えた「この町を狙った大規模な「侵攻」の可能性」についての温度差です」


 ハインツの伝えたその情報に、騎士達のうち応援で来ていた騎士達は即座に「どう対応するか」の意見を交わし始めた。

 これは「何が起こってもおかしくない」のと「森の中にあるプシェル村と道で繋がっている」事から導き出される当然の危機管理対応だが……詰所の騎士達は「過去の事例を見てもそんな可能性は低い」だの、「モンスターに統率力はない」だのと、もっともらしい理屈を並べたあげくにハインツ自体に疑いの目を向けたのだという。


「うーん。まあ、災害対応としては過去の経験に基づくっていうのは間違ってないんでしょうけど」

「そうですね。あくまで理屈では間違っていません。しかし、口で語る以上に態度は真実を語るものです」


 そしてこれはカナメには言えないが、あれ以上ハインツが何かしようと思えばエリーゼの……王家の威光によって無理矢理どうにかさせるしかなかっただろう。

 だが、もし詰所の騎士達が裏切り行為を働いていた場合……それを逆手にとった別の作戦をとられる可能性もある。

 となると、あまり強制もできない。王家の我儘で失敗したなどと吹聴されては面倒な事になるからだ。


「……じゃあ、騎士団はあまりあてにならないと考えた方がいいんだろうなあ」

「詰所の騎士達に関してはそうでしょうね。ただ、詰所の騎士よりも応援の騎士の方が多数です。いざという時に騎士団が動かないという事態だけはないでしょう」


 つまり……この町の自警団と騎士団合わせてどの程度の数なのかはカナメには分からないが、一応の防備態勢は整っているといえる。


「なら、俺達は森に潜入して大暴れ……いや、こういう場合は指揮官の二人を倒して離脱とか?」

「それは止した方がよろしゅうございますね」


 ハインツはそう言って首を横に振ると、カナメとエリーゼを順に指し示す。


「私達の中で最大の攻撃力をお持ちなのはお嬢様とカナメ様ですが……お二人とも、接近戦は苦手でいらっしゃいます」

「うっ……まあ、確かに……」

「それに加え、場所です。森は天然の砦という例えがございますが、実際に森は防御側に有利な場所です。少数精鋭で圧倒的多数の潜む森を攻めるのは、最も不利な状況であると言えるでしょう」


 更に言えば、今回の相手は通常の軍隊や盗賊などではない。

 確かに強力なリーダーに統率されてはいるが、それを倒して止まるかと言えば疑問の余地がある。

 結局与えられた命令通りに動くかもしれないし、統率を失って予想もつかない暴れ方をするかもしれない。

 それは、考えられる中でもかなり悪いパターンだ。


「ということは……防衛戦ですか? でもそうなると、すぐに何か」

「いえ。敵も今夜すぐには動かないでしょう。今日はカナメ様達の活躍で、予想外の消耗を強いられていますから……そうですね、最低でも魔力の回復する明日以降。そのあたりでしょうね」

「つまり、こちらも今夜は準備ができる……」


 カナメとハインツは頷きあい、そこでカナメは咳払いすると「あー」と声をあげる。


「えっと……その、二人とも。もうちょっと離れてくれると」

「私は座ってるだけです」

「私だってそうですわ」


 ベッドに座るカナメの両隣にぴったりとくっつくように座っているイリスとエリーゼだが、くっつかれているカナメとしては「嬉しい」よりも「なんか怖い」が先に立つ。

 何しろ、自分ごしに何やら視線がぶつかり合っているのだ。

 たまに抑えきれない魔力が飛んでいるのか、本当に火花が散っているのが実に恐怖を煽る。


「大体なんですの? カナメ様にそんなにくっついて、はしたないんじゃありませんの?」

「言われたくありません。それに私にはカナメさんを見極める役目がありますから」

「えーと」


 カナメは離れた場所で椅子に座っているアリサに助けを求めるが、アリサは肩をすくめるだけで助けてくれる様子はない。

 ハインツはといえば……視線を向ければニッコリと微笑むだけである。

 どうしたものかとカナメは弓に目を向けてみるが、弓は何も答えはしない。

 

「ああ、そういえば」


 だが、そんな状況に話題という助け船を出してくれたのはハインツである。


「カナメ様の矢ですが、その場で作って撃っているようでしたが……あれは予め作って保管しておくことは出来ないのですか?」

「あ、えーと……たぶん出来ると思いますけど。一つ一つが結構強いから、万が一奪われたらとか暴発したらとか考えると怖くて」

「ま、確かにね。転んだ拍子に発動してカナメの身体に大穴空いたら笑えないし」

「怖い事言うなよ……」


 同意するアリサの台詞にカナメは想像してしまいブルッと震える。

 たぶん……恐らく、きっと……そういうことはないはずなのだが、やはり怖いものは怖い。

 リスクは最小限にしておきたいというのは、カナメの持つ小市民的思考なのかもしれない。


「でも確かに、保管しておけるならば強みですわね。特に「あの矢」を大量に作っておければ……」


 エリーゼが言っている「あの矢」とは……つまり弓神の矢(レクスオールアロー)であろうと理解したカナメも「そうだな」と頷く。


「でも、あれは結構魔力使うんだよなあ。今晩で何本作れるかな」

「魔力薬の用意ならございます」

「大盤振る舞いだねえ」

「人命がかかっておりますから」


 即座にそう返してくるハインツにアリサは「そうだね」とだけ返す。

 魔力薬は本当に小さな小瓶でも金貨を要求してくる超高価な薬で、用途としては魔力の使い過ぎによる気絶を防ぐ為の気付け藥的な使い方が一般的である。

 少なくとも安酒をラッパ飲みするように摂取するものではないし、そんな事をすれば部屋いっぱいの金貨も簡単に消えてなくなる。

 まあ、そんな事を口にすればカナメは妙に遠慮しかねないのでアリサは言わないが……「没落貴族の商人」としては少々ズレた思考だとアリサは思う。

 まあ、どちらにせよ今言う事ではないとアリサは口をつぐむ。


「ああ、それとカナメ様達の向かったプシェル村にドラゴンの骨や鱗があったと伺いましたので」

「はあ」

「こういったものも回収してまいりました。残念ながら、加工するほどの時間的余裕はございませんが」


 言いながらハインツが取り出したのは、一枚の赤く小さな板のようなものだ。

 

「それって……まさかドラゴンの鱗……?」

「えっ」

「ハインツ……また貴方そういう事を……」

「貴重な商材でございますので。まだまだたくさんございますよ」


 そう、それはプシェル村に散乱していたレッドドラゴンの鱗だ。

 如何にも硬くて強そうな鱗は、それ自体に小さな魔力すら感じられた。

 たとえばこれで防具でも作れたら相当心強かったのだろうが……間に合わないものは仕方がない。


「どうぞ」

「あ、はい」


 ハインツにレッドドラゴンの鱗を渡されたカナメは鱗をじっと覗き込む。

 流石に鱗単体ではどうしようもないだろうと考えていると、両脇にいたエリーゼとイリスも横から鱗を覗き込む。


「数があるのなら盾か、鎧か……どちらにせよ時間と職人が必要ですわね」

「モンスター素材の防具なんて野蛮ですよ。そんなものに頼らなくても、いい素材は一杯あります」

「あー、うん……」


 真っ向から対立する意見に曖昧な回答をしつつ、カナメはドラゴンの鱗をひっくり返したりする。

 これが何かの役に立てばいいのに。

 そんな事を考えながら鱗を弄り回していると……突然、カナメの中に一つの単語が浮かんでくる。


「おや? 今、カナメ様の弓が光ったような」

「そう? ごめん、見てなかった」


 ハインツの言葉にアリサはそう言ってとぼけるが、確かにカナメの弓は一瞬「自分から」光ったようにアリサにも見えた。

 だが、それが何を意味するかはアリサには分からなかったのだが……ちらりとカナメに視線を向けてみれば、先程よりも鱗を真剣な顔で凝視するカナメの姿がそこにあった。


「……ハインツさん」

「はい」


 カナメは言葉の端を震えさせながら、ハインツへと視線を向ける。


「これ、たくさんあるって言ってましたよね」

「ええ」

「それ……俺に全部貰えませんか?」

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