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プロローグ

新連載です。どうぞよろしくお願いいたします

 落ちる。落ちていく。

 深く、深く。けれど、不思議と恐怖は無い。

 それはすでに恐怖を通り越してしまったからなのか、それとも別の何かなのか。

 ひょっとすると……現実とは思えない周りの光景が、要に死後の世界を連想させているからかもしれない。

 穴の中とは思えないような煌き、輝き。

 例えるなら常に変わり続ける万華鏡の中の世界のような、そんな光景。

 落ちていく要の目に映るそれらは、何処かの風景のようで。

 しかし、何処の風景かも分からない風景であった。

 なにやら五月蝿くノイズのように響く音は、何語かすらも分からない。


 だから、何も分からない。

 自分がすでに死んでいるのか……それとも落ちているという事自体が夢で、自分は今ベッドの中にでもいるのか。

 夢ならばもう少し。あと少しだけこの状況を楽しんでも良いだろうかと要は落ちていく身体から力を抜いて。

 張っていた気をすうっと落ち着けていく。

 そうすると、ノイズのようだった音が少しずつクリアになっていく。

 クリアになり……やがて、それは要の身体を侵食するような重低音の「声」となって響き始める。


「助けてェ……っ!」

「誰か、誰かぁあ!」

「ああ、神様っ! 我等がレクスオールよ! どうか、どうか……!」


 それは、悲鳴。

 無数の悲鳴がカナメの身体を貫き、抉り、通り抜けていく。

 その瞬間になって、要は気付いた。

 この周りの万華鏡のような光景が全て……正体不明の化け物達に蹂躙される人達の光景に変わっていることに。


「やめて、やめ……ぎあっ」

「うああああん! うあああ……あっ」


 身体は、動かない。

 耳に手は届かず、瞼は閉じることを許されない。

 ただ落下していくだけの要には、何も出来ない。

 響く悲鳴と、移り変わる悲劇の光景。

 大人も、子供も、老人も。

 誰もが等しく化け物達に引き裂かれていく。

 子を守ろうとした父が。

 死んだ母にすがる子が。

 全て、全て。

 燃える赤と、ほとばしる赤。


「やめろよ……」


 知らずのうちに乾いた喉から、そんな声が漏れる。

 こんなものを見せて、聞かせてどうしようというのか。

 手すらも出せない光景の数々を見せて、どうしろというのか。


「やめろぉぉおおおお!」


 叫ぶ。喉が張り裂けんばかりの要の叫び声と同時に、悲鳴も阿鼻叫喚の光景も消えて失せる。


「……大丈夫だよ」


 代わりに響いたのは、そんな声。

 要の視界に映るのは、たった一つの光景。

 

 赤い壁のように燃え盛る火の海と……真っ赤な鱗のドラゴン。

 そして……そのドラゴンに向かい合う、ボロボロの革の鎧を来た誰か。

 丁度背中を向けたその姿からは誰であるか判別は出来ないが……肩まで伸ばした真っ赤な髪が、恐らく少女であろうと推測させる。

 その少女が握っているのは、一振りの長剣。

 ゲームで言うのであれば如何にも安物の「鉄の剣」といった感じで、あんな恐ろしげなドラゴンに勝てそうな武器ではない。

 だがそれでも、少女は剣を握りドラゴンへと対峙している。

 ……まるで背中にいる「誰か」を守るかのように、精一杯に大地を踏みしめて。


「カナメのことは、私が守ってあげる」

「え……?」


 自分の名前を呼ばれて、要は驚きに声をあげる。

「此処ではない何処か」にいるのであろう少女が、何故要の名を呼ぶのか。

 それとも、要ではない別の「カナメ」なのか。

 振り返る少女の赤い瞳に浮かぶのは、どうしようもない程の恐怖。

 だから、要にも分かってしまう。

 この少女は勝てないと分かっているのだと。

「カナメ」とやらを逃がす為に、あのドラゴンに立ち向かっているのだと。


「……だから、カナメ。早く逃げて。後から私も、絶対に行くから」


 カナメ、カナメ。

 なんと不甲斐ない奴なのか。

 あんな女の子に戦わせて、何処へ逃げようというのか?

 自分がその「カナメ」であるならば、絶対に。


「アルハザールの加護よあれ! うわああああああああ!」


 少女がドラゴンへと立ち向かっていく。

 ドラゴンの巨体からすれば爪楊枝にも等しいであろう剣一本で、果敢に。


 ……そして、全てが「赤」に染まって。

 要の意識は、静かに遠のいていく。

 暗くなっていく視界の中で最後に見たモノは……「赤」を砕き輝く、歪に欠けた月のような何か。


 ああ、あれは弓だ……と。

 そんな思考を最後に、要の意識は完全に途切れた。

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