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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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宿場町からの出発

「やあ、おはようございます!」


 カナメ達が約束の場所に行くと、そこには緑色のマントを纏ったシュルトが立っていた。

 何が嬉しいのか元気に手を振っているシュルトだが……カナメはその姿に違和感を覚え「あれ?」と口にする。

 格好は同じなのだが……何か足りない気がするのだ。


「荷物袋がないね」

「あ、確かに」


 そう、シュルトは旅に必須の荷物袋を持っていない。

 何処かに置いてあるのかとカナメが辺りを見回していると、エリーゼがカナメのマントをくいと引っ張る。


「カナメ様、ひょっとしてあれ……」


 宿場町の出口付近に停車している一台の馬車。 

 立派という程ではないが、頑丈そうな木製の馬車の付近には数人の騎士が立っているのが見える。

 その騎士達の視線は間違いなくカナメ達に向けられており……その近辺には数頭の馬が繋がれている。

 優雅な馬車の旅。そんな言葉がカナメの中に浮かぶが、馬車付き騎士付きの旅では「護衛」とは言い難いような気がしないでもない。

 騎士達の視線をちくちく感じながらシュルトの側へと行くと、アリサは営業スマイルを浮かべる。


「おはようございます、シュルトさん。今日もよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ。騎士の皆様方が同行されますが、依頼料はきちんと払いますのでご心配なく」

「お気遣いありがとうございます。ところで、あの馬車は……」


 アリサの質問にシュルトが答えようとすると、馬車の近くに居た騎士達のうちの一人がガシャガシャと音を立てて近づいてくる。


「お前等がシュルト神官殿の護衛の冒険者共か」

「はい、私は」

「ああ、自己紹介ならいらん! お前等の名前を覚えたところで何の役にもたたん!」


 自己紹介をしかけたアリサの言葉を遮ると、騎士はそう言ってバタバタと手を振る。

 まさに傲慢極まれりといったところだが……騎士は大体こんなものである。


「故にお前達も私達の名前を覚える必要はないが……この隊を指揮するルード・ローデリヒトだ。足を引っ張ることのないようにな」

「……努力します」

「そうしろ」


 フンと鼻を鳴らすと、ルードは首を動かして馬車を顎で示す。


「シュルト神官殿を馬車の中に。御者席にお前達冒険者だ。我々は馬車の周りを固める」


 要は、基本的に警戒と護衛は騎士団がやるから冒険者はおとなしく馬車の運転でもしていろ……ということなのだが、同じ冒険者がアリサ相手にこのセリフを言ったならば、すでに鼻に拳を叩きこまれていてもおかしくない「ナメた」セリフである。

 ……が、騎士であれば許される。

 騎士は国の認めた権限をもって治安維持にあたる者達であり、その言葉は文字通りに上位者からの言葉であるからだ。

 だからこそ、アリサは愛想笑いを浮かべたまま表面上は逆らわない。


「了解しました」

「ああ」


 ルードは頷くと、「出発準備を始めろ!」と他の騎士達に叫び……それに合わせて他の騎士達も一斉に動き出す。

 騎士の数はルードを含めて四人。馬車の前後に二騎ずつ、といったところのようだ。

 シュルトも早速騎士に案内されて馬車に向かっているが、そんな彼等の様子を見てカナメが疑問符を浮かべる。


「あれ? 四人いるから前後左右かと思ったけど」

「二人一組でフォローできるようにしてるんだよ。高威力の魔法でも撃たない限り、馬車は多少もつように作ってあるだろうしね」


 それにあくまで盗賊対策のやり方ではあるが、崩れやすい一方向を作るよりは崩れにくい二方向に絞った方が壊滅はしにくい。

 もっとも、それは「護衛」のやり方というよりは進軍のやり方であり、壁になることを主とする護衛としては穴がある。

 それに気づいていないはずもないので、その穴の分は仕事をしろというメッセージであるのは間違いない。

 まあ、エリーゼの索敵魔法を活かすにはその方が色々と便利ではあるのだが……。


「じゃ、私達も行こうか」

「え、行くのはいいけど……俺、馬車運転したことないぞ?」

「私がやるから大丈夫」


 スタスタと馬車に向かっていくアリサの背を見て、カナメは肩を落とす。

 こういう時にスッと前に出られる男というのになってみたくはあるが、出来ないものは仕方がない。

 運転を期待されてもできないのは確かだし、それで失望されるのも傷つくのだが……最初から期待されていないというのも、それなりに傷つく。

 そんな複雑な男心に悩むカナメの背中をエリーゼがポンと叩き「大丈夫ですわ、カナメ様。すぐに覚えられますわよ」などと言ってくるのが嬉しくも悲しい。


「ん、ああ。ありがとうエリーゼ」

「どういたしまして。私達も行きましょう?」


 エリーゼに手を引かれてカナメも馬車へと走り、御者台にのぼる。

 運転の為に真ん中に座っているアリサの左にカナメが。

 少し不満そうな顔をしながらも、アリサの右にエリーゼが乗る。

 左だと森が近いため、いざという時に襲撃を受けやすい方角なのだが……まあ、この辺りはカナメの男の意地だ。


「お、盾が置いてある……なんか重そうだな」

「防御用だね。矢を防ぐ程度の役には立つんじゃない?」


 御者台に乗っている鉄の盾をカナメが触っていると、ルードの「出発!」という声が響く。

 同時に先導するようにルードともう一人の騎士の乗った馬がゆっくりと進みだし……それに合わせてアリサも馬車を進ませる。

 馬の蹄の音と、馬車の車輪がゴトゴトと揺れながら進む音。

 カナメの初めての馬車旅は、こうして開始したのだった。

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