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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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ミーズの町までの護衛2

「魔法……!」


 避けるか、あるいは簡単に弾いてしまえそうな氷の礫。

 だがアリサはそれを視認すると同時に、持っていた丸盾を氷の礫に向かって投げつける。

 響くガゴン、という衝突音。だがそれと同時に、甲高い音を立てて盾の表面が凍り付く。


「なっ……!」

氷結拘束(バインドフリーズ)!? 邪妖精(イヴィルズ)が使えるような魔法じゃありませんわよ!」

「カナメ、エリーゼ! あの森の中、撃てる!? なんでもいいからとにかく撃って!」


 半分凍り付いた盾を拾い、アリサはシュルトを庇うような位置に立つ。

 ここからでは跳躍(ジャンプ)の魔法を使っても隙が大きすぎるし、近づけば近づくほど相手の魔法の狙いはよくなるだろう。

 つまり、エリーゼか要に頼るしかない。


「なんでもいいって……そんな無茶な!」

「なんでもいいんだな!?」


 オロオロとするエリーゼとは対照的に、要は地面に手を触れ叫ぶ。


矢作成(クレスタ)叩き砕く岩の矢(ヴェガルアロー)!!」


 薄い光とともに要の手の中には濃い茶色の、つるりとした感触の矢が現れ……要はそれを弓に番え放つ。

 ガオンという轟音と共に放たれた矢は森の木に着弾すると、それを粉砕し薙ぎ倒す。

 だが、それでは止まらない。

 アリサは「とにかく撃て」と言った。だから要は再び地面に触れると「矢作成(クレスタ)」と唱え、その手の中に叩き砕く岩の矢(ヴェガルアロー)を生み出し放つ。

 そうして放たれた叩き砕く岩の矢(ヴェガルアロー)は別の木を砕き、要の手の中にはすでに別の叩き砕く岩の矢(ヴェガルアロー)が生まれている。

 放ち、放ち、放ち、また放つ。

 木々を消し飛ばす轟音の中に悲鳴が混ざり、それでも「まだだ」と思考する要の手の中には次の叩き砕く岩の矢(ヴェガルアロー)が生まれる。


「次は……」

「ギイイイイイイイイ!」


 狙いをつけようとする要の視線の先。森の中から、そんな絶叫じみた声が聞こえてくる。

 響くようなその声の先。そこに、要は矢の先を向ける。

 集中力は極限まで高まっている。今なら、そこにいるモノすらハッキリと見える気がした。


「……そこだ」


 森の中から放たれる、氷の礫。

 明らかに要を狙うそれに、しかし要は全く気付かぬかのように矢を放つ。

 いや、実際気づいてはいない。

 自分と相手。他のあらゆるものを削ぎ落とした極限の集中は、他の全てを排除してしまっている。

 要の手元を離れた叩き砕く岩の矢(ヴェガルアロー)は轟音と共に飛び……森の中に居た「何か」を鈍い悲鳴と共に粉砕する。

 だが、氷の礫もまた要に迫り……盾を投げると同時に駆け寄ったアリサに強く抱き寄せられ、要は地面にゴロゴロと転がる。

 同時に地面には凍り付いて別の何かのようになってしまった盾がゴトンと落ち……それが微妙に回転しながらユラユラと揺れるのを、要はキョトンとした顔で見る。


「あ……あれ?」


 革臭い匂いと、誰かに強く抱きしめられている感触。

 地面に転がっている事にすら、要は「今」気づいていた。


「なぁーにがあれ、だ! このバカッ!」

「え? あ、アリサ?」


 アリサに抱きしめられている事に気づき要は混乱で顔を赤くするが、アリサは要の胸倉を掴みながら起き上がる。


「エリーゼ、周囲に敵は!?」

「さ、索敵魔法には何も引っかかりませんわ」


 そう答えるエリーゼにアリサは頷くと、再び要へと向き直る。


「いい、カナメ。なんでもいいからとにかく撃てと言ったのは確かに私だよ。カナメはそれに見事に応えてくれたよね」

「あ、ああ」

「ありがとう、私の認識の甘さをカナメは見事にフォローしてくれた。感謝してる」


 そこまで言った後、アリサは「でもね」と続ける。


「私は「命と引き換えにしろ」と言った覚えはないよ」

「あ、いや、それは」


 集中しすぎていて気付かなかった。

 そんな言葉が頭に浮かんで、しかし口からは出てこない。


「あ、アリサ。そのくらいで……」

「ごめん、エリーゼは黙ってて」


 止めに入ろうとするエリーゼを一言で黙らせると、アリサは要の目を正面から覗き込む。


「カナメ。これは私からのお願い。まずは自分の命を守って。その上で、最善を尽くすの。いい?」


 命をかけても。命にかえても。ここで命尽きても。

 英雄譚では必ずといっていい程聞くフレーズであるし、「そうすべき時」もある。

 だが、現実には「そうすべき時」など中々訪れない。

 アリサ自身、要の前でそうしてしまったからあまり強くは言えないのだが……それでも、ここが「そう」でないのは確かだ。

 命を捨てられる者は、自分の命を知らずのうちに軽く見る。

 そしてそれは大抵の場合、ロクな結末をもたらさない。

 要にその傾向を見てしまったからこそ、アリサは今ここで……この場所で言わなければならないことだと感じていた。


「失敗を恐れて。命を惜しんで。妥協を悪と思わないで。そこから始めないと、カナメはいつか戻れなくなるよ」


 完璧を目指すのはいい。

 恐れず立ち向かうのもいい。

 だが、その果てには何もない。

 全てを削ぎ落としたその先に向かうのは、要はまだ早すぎる。

 だからこそ、アリサはこう言わなければならないと思った。


「私が此処にいる。エリーゼも此処にいる。足りないものは補うから、カナメはカナメらしくでいいの」

「俺、らしく」


 要らしいということ。

 いや、この世界に生きる「カナメ」らしいということ。

 その意味を考え、カナメはアリサに手をひかれるまま立ち上がる。


「ごめんなさい、シュルトさん。つまらない話を聞かせてしまいました」

「いいえ、構いませんよアリサさん。素晴らしいものを見せていただきました」


 穏やかな笑顔でそうシュルトは答え、盾を再び腕に装着する。

 再びシュルトを囲むフォーメーションで歩き出した一行を照らすのは、まだ昇りきらぬ太陽。

 そんな時間からアリサが盾を失うという被害を出しつつも、とりあえず行程は順調であった。

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