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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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夜明け前3

 暴虐王トゥーロ。

 あるいは、英雄王トゥーロ。

 一言で説明すればロータス連合国……通称「連合」の初代王であり、建国者でもある。


「……まあ、その説明も語弊がありますわね」

「そうなのか?」

「ええ、トゥーロ王が建国したのはあくまで「連合国」になる前の国ですもの。名前は知りませんけど、確か王国だったはずですわ」


 エリーゼの言葉にハインツは「そうですね」と頷きながら説明を続ける。


「その辺りの歴史には失われた部分も多いのですが、とにかくトゥーロ王は現在「連合」となっている地域を一つの国として纏め上げた王でした」


 その詳細については省くが、彼はやがて彼が首都と定める場所で発生していた超大規模なダンジョン決壊を抑え込んだ男だとして伝えられている。

 世界を崩壊させると言われたその事件を解決した功績は大きく、トゥーロ王が国々を纏める大きな要因となったが……実は彼こそが戦いの神アルハザールの化身であったと連合ではよく語られる。

 その真実はさておきトゥーロ自身が無限回廊を通ったと語ったというエピソードなども連合に残っているというから、確かに現在の自分と重なる部分はあると要は思った。


「……その人は、無限回廊で何を見たんだ?」

「知りませんわ。建国神話も消失して久しいと聞きますし。無限回廊で何を見たかについても話が増え続けておりますから、どれが真実やら」


 歴史は脚色される……を地でいっているらしいと分かって、要はガックリと肩を落とす。

 どうやら、そこから要の今後を決めることは難しそうだ。


「でも、だからこそ私はカナメ様を見てレクスオール様かと思ったんですわよ?」

「うっ……なるほど」


 レクスオールの放つ「始まりの矢」。確かに要のやったことも、そのトゥーロという王様のやったことと似ている。

 だが……要が見たのは、本当にアリサのことだけだ。


「でも……俺は本当に何も分からないんだ。俺が見たのは、アリサとレッドドラゴンの事だけだったから」

「ふうん?」

「なにさ」


 じっと興味深そうにアリサを見るエリーゼと、それを睨み返すアリサ。

 やがてエリーゼの方から視線をそらすと、その視線は再び要へと向けられる。


「……なら私の夫になります? カナメ様」

「えっ」

「悪い選択肢ではないと思いましてよ。生活に不自由はしませんし、カナメ様の事を誤魔化しきれる知識も有しておりますもの」

「いや、その」

「ちょっと、カナメをからかわないでくれる?」


 要の頭をぐいと押して下げさせると、要越しにアリサが抗議の声をあげる。


「もうバレてるから言うけど、カナメは「来た」ばっかりなの。そんな矢継ぎ早に話して押し流すのは卑怯じゃない?」

「あら、そうかしら。「来た」ばかりであるなら、そこに道筋を示すのもまた務めではなくて?」

「決められた道に乗せる必要なんか無いよ。カナメは、カナメの望むように生きるべきなんだから」


 そうして再び睨みあう二人を見て、要は困ったようにハインツへ視線を向けるが、ハインツは笑顔を返してくるだけだ。

 要が解決しろということなのだろうが……どうしたものかと要は二人の視線に挟まれながら悩む。

 エリーゼの……結婚はともかく、宝石商の仲間として旅をするというのは確かに便利そうではある。

 普通では入れないところも入れるかもしれないし、その中で要がこの世界に来た理由も見つかるかもしれない。

 だがそうなると、アリサとは此処で別れる事になるかもしれない。

 まだアリサには教わりたい事がいっぱいあるし、なんとなく離れがたいという思いもある。

 

「……あのさ」

「はい?」

「結婚……はともかく、四人で旅をするっていうのはダメ、なのか?」

「えー?」

「あら」


 不満そうなアリサとは対照的に、エリーゼは面白そうだと言いたげな顔をする。


「それは素敵なお誘いですわね」

「だろ?」

「ええ。でもダメですわ」


 笑顔でそう告げるエリーゼに、要は思わず「な、なんでだよ!?」と声をあげてしまう。


「だって、私は冒険者ではなく宝石商ですもの。私達の専属護衛という形で動くならともかく、そんな事はアリサも望んでませんわ」

「……まあね」


 アリサの返答にエリーゼは頷き、ベッドから立ち上がる。


「カナメ様。カナメ様は今「旅をする」という選択肢を選ばれました。ならきっと、今はそれが正しい目標なのですわ」

「旅、が?」

「ええ。色々な場所に行って、色々なものを見るとよろしいですわ。そうする中で定まるものもあるでしょう」


 そう言ってドアの方へと向かうエリーゼにハインツが先んじて部屋のドアの前に立つ。


「目的は違いますが、私達もあちらこちらを巡る身。その中で何度でもお会いするでしょう……し? あら?」


 ドアを開けようとしたエリーゼだが、ハインツにひょいと抱えられ……そのまま、ハインツの手によって要の腕の中に下ろされる。


「あ、あの……ハインツさん?」

「カナメ様。お嬢様の事をしばらくお任せいたします」

「え」

「ちょ……ちょっとハイン!?」


 抗議の声をあげるエリーゼの前に跪くと、ハインは「余裕ぶってる場合ではございませんよ」と小さく囁く。


「……カナメ様にすると決められたのでしょう? 私が万事上手くやっておきます故に、今は離れてはなりません」

「え、でも……」

「アリサ様は意外に強敵でございますよ。卵から生まれたばかりの雛鳥の話を思い出してくださいませ」


 ぼそぼそにも至らない極小の声で囁くハインツの言葉は聞こえないまでも、何か自分の事を話しているんだろうな……くらいはチラチラと自分に向いているエリーゼの視線からカナメは悟っていた。

 アリサも隣でそれをじっと見ていたが……やがて小さく溜息をつく。


「……というわけでカナメ様、アリサ様。レイシェルト商会の総意として、提案がございます」

「……提案って、何?」


 アリサがそう言うと、ハインツは笑顔で革袋を一つ取り出す。


「商人からの提案と言えば一つ。取引でございます」


 取引の内容は、酷く簡単だ。

 今後、要とアリサが手に入れた「魔法の品」の優先取引先をレイシェルト商会にしてほしい……ということである。


「いいけど。エリーゼがその度に買うの?」

「いいえ。私共レイシェルト商会の仲間があちこちに散っておりますので。お嬢様が居れば、彼等から都度接触がございます」

「ふーん……分かった」


 頷くアリサにハインツは微笑むと「では、契約金です」と言ってアリサの膝元に革袋を置く。

 手早くアリサが開けた革袋の中には輝く金貨が入っていたが……それを見て、アリサはハインツを見上げる。


「いいの? 私達なんかにお嬢様を預けて」

「カナメ様のお人柄を信用しております」

「……なるほど、それなら安心だね」


 アリサとハインツは何かを分かり合ったかのように頷きあい、その二人の視線は自然と要へと向く。


「責任重大だよ、カナメ」

「よろしくお願いいたします、カナメ様」

「え、ええ……?」


 自分で決めるとかいうのは何処へ行ってしまったのか。

 早速流された要は、そんな困惑した声をもらすことしか出来なかった。

エリーゼ、加入。

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