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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
アフターストーリー

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カナン大祭とエル4

 共同浴場に辿り着くと、エルはそこで意外な人物に巡り合う。


「お、エルじゃねえか」


 暖かそうな湯気を発しながら浴場から出てきたのは、クラークだった。


「……いや、意外過ぎんだろ。なんでアンタ風呂入ってんだ」


 中身が空っぽの鎧である魔操騎士(ゴーレムナイト)のクラークにエルが思わず脱力しながら聞くと、クラークは意外そうな顔をする。


「何言ってんだ、俺が風呂入って何が悪いってんだ」

「何って。鎧だろアンタ。怒られねーの?」

「ちゃんと埃流してから入ってるからな。それに俺ぁ鉄でも銅でもねえから、変なもんも出ないし変色とかもしないしな」


 金も払ってるし、と言うクラークにそういう問題じゃねーよ、という言葉をエルは飲み込む。

 すっかり聖都の名物となったクラークではあるが、本来はオウカの護衛……のようなものだったはずだ。

 まあ、オウカの護衛をしている姿などここ最近は見ていなかった気もするが、それはさておき。


「風呂っつーのはあれだ。健康とか身体綺麗にするために入るもんでよ。その身体の何処健康にするってんだよ」

「知ってるよ、んなこたあ。こっちゃ元魔人だぞ」

「あー、いや。その話は聞いたけどよ」


 確かクラークは「かつての戦い」の折に魔操巨人(エグゾード)に魂を宿した人物……の欠片だとか、そんな話であったはずだ。

 ならば風呂に入ってもおかしくないのかもしれないが、それでも鎧は鎧だ。


「風呂ってのはさ、情報の宝庫だろ?」

「ん? まあな」


 確度の低い噂話ではあるが、その程度のものでよければ共同浴場では情報がたくさん手に入る。

 その中には意外と役に立つものもあったりするのだが……。


「意外と興味をそそられるんだよな。本一冊読む時間を風呂に費やしても、中々濃いもんが得られる。人間だった頃も思い出すし、中々いいもんだぜ」

「あー……」


 確かクラークがクラークのままでいるには「そういうもの」も必要だと話していた事をエルは思い出す。

 普通に人間として生きているエルには、その重みは想像する事しか出来ないものだ。


「ちと無神経だったな。すまねえ」

「何がだよ。俺ぁ何にも気にしてねえぜ。俺だって鎧が風呂に浸かってたら何事かと思うしな」

「あ、やっぱ浸かってんだな」

「おう。そういや風呂で会ったことねえな」

「だな」


 互いにひとしきり笑い合うと、クラークは「そんじゃな」と手を振って去っていく。

 その様子を見送り、エルは軽く頭を掻く。


「……会ったことねえ、てことは定期的に入ってんだな」


 どんな光景か素直に興味あんな、などと呟きながらエルは共同浴場の中へと入っていく。

 聖国らしく神像が飾られた浴場は綺麗に掃除され、聖都の中でも指折りの清潔な空間に保たれている。

 この辺りは生と死の双子神ルヴェルレヴェルの神殿の指導らしいが、エルが試しにレヴェルに聞いてみたところ「お風呂の作法なんか指導したことないわよ。バカじゃないの?」との素敵な答えが返ってきた事がある。


「いらっしゃいませ! ああ、エルさん!」

「おう。今日は石鹸も一つくれるか?」

「はい。合わせて銅貨3枚です!」


 聖国では風呂は福祉という側面が他国よりも強く、非常に値段が安い。

 石鹸ですら信じられないくらいの安値で手に入るが、エルのような綺麗好きにしてみれば非常に有難い。

 たとえば、これが王国であれば石鹸一つで最低でも銀貨はとられるはずだ。


「んじゃ、ほいっと……」

「ありがとうございます! ふふ、さっきまでクラークさんが来てたんですよ?」

「ああ、そこで会ったよ」


 受付の少女にそう答えると、少女も「そうだったんですか」と返してくる。


「最初は結構な騒動だったんですよ? ほら、だって」

「全身鎧だもんなあ……」

「ええ、でも今はもうすっかり常連さんです!」


 そんな少女に苦笑を返すと、エルは手を振って脱衣場へと入っていく。

 すると今度は荷物番の少年達が我先に近寄ってくる。

 彼等にとってみればエルは払いはそこそこだが、いちゃもんをつけてこない上客なのだ。


「こんにちは、エルさん! 今日は僕が担当しても?」

「ん? ああ、頼むぜ。今日は何か面白い話とかあるか?」


 言いながら銀貨を渡すと、少年はエルの耳に口を寄せてくる。

 荷物番の彼等は手軽な情報屋でもあり、噂話程度の話を蒸留して「まともな形」にしてくれる。

 本格的に情報屋から買う程ではない話なら、彼等から安値で買えるのだ。


「治安が多少悪化の傾向があります。カナン大祭に出店する商人の護衛で質の悪い方々も結構な数聖都に入ってきてるみたいでして。ここのところ連日で「夜の店」の辺りが荒れてます。今夜あたり、羽目を外す人も大幅に増えるかもしれませんね」

「ああ、なるほどな。そういやクランにも結構そういうのが来てんな」


 やけにガラが悪いのが多いと思ったが、そういう理由であったらしいとエルは納得する。


「それとエルさん関連ですが、カエデさんが最近服飾店の前で結構な時間悩んでたみたいですけど」

「そりゃ確かに面白い話だけどよ」


 いつもキモノとかいう特殊な服を着てるから、それの替えだろうか……などとエルは考えて。


「ん、中々面白かったぜ」

「はい。「預かる」ものなどあればなんでも申し付けてください」


 これは伝言サービスの営業だが、今のところ特にはない。


「おう、とりあえず荷物はしっかり頼むわ」

「全力で取り組みます」


 頭を下げる少年にエルは頷いて。

 その後、しっかりと身体を洗って湯に浸かり……「あの二人ケンカしてねえといいなあ」などと、そんな事を考えていたのだった。

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