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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
アフターストーリー

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カナン大祭とエル2

 ザクザクと雪道を歩きながら、エルはクランへと戻ってくる。

 定期的に雪かきをしてはいても、しんしんと降る雪はすぐに道を白く染めてしまう。

 まあ、聖都の道の清掃を仕事とする者達は忙しくて仕方ないだろうが……これもまた、冬の名物というものではあるだろう。

 見上げてみれば、屋根で雪落としをしている者達の姿もチラホラと見える。

 ああいうのも冒険者の大事な仕事であり、なにもダンジョンに潜るだけが仕事ではない。

 英雄を目指すというエルの目標も、破壊神封印という偉業が成された今では「より遠い」目標になってしまったと言える。

 あの戦いの一助を担った身として多少の評価はあるものの、結局のところアレは「カナメの戦い」だった。

 たまたま参加していたというだけで英雄ぶるほど、エルは傲慢でもないつもりだった。


「あー、寒ぃ寒ぃっと……お?」


 言いながら階段を上がっていけば、クランメンバー専用の階層からは何やらカナメの声が聞こえてくる。


「ちょ、二人とも落ち着いて……!」

「アリサさんは一歩リードしてらっしゃるんですから今回は私に譲るべきですわ……!」

「一歩だろうと二歩だろうと、距離を詰めさせる気はないんだよねえ……!」


 両側からアリサとエリーゼに腕を引っ張られているのはカナメのようだが、あれも中々災難な関係ではあるとエルは同情する。

 あの戦いの後アリサを選んだという話は聞いていたが、エリーゼの方が全く諦めていないらしい。

 まあ、確かに結婚に至るまでは……場合によっては結婚に至った後も「最愛の人」がすげ変わる話は珍しくもない。

 英雄王のように複数の嫁を娶った話もあるし、確か愛の神カナンも星の数のように多くの男女からの愛を受け、あるいは愛を注いでいたともいう。

 カナメのような生真面目男がどういう結末に至るのかは知らないが……まあご愁傷様といったところだろう。

 とりあえず、エルに出来るのは巻き込まれないようにさっさと通り過ぎる事だけだ。

 そーっと壁際を通り「話しかけるなよ」というオーラを出して通り過ぎようとして。


「あ、エル! ちょっと助けて……!」

「げっ、てめえ! 話しかけるなオーラ出してただろうが!」


 だがそんなものを完全無視して救出要請を出してきたカナメにエルは抗議の声をあげるが、次の瞬間には二人の少女に睨まれ「うえっ」と声をあげる。


「……エルさんはどっちの味方ですの」

「そうだね。この際ハッキリして貰おうか? カナメの友人としてどう思う?」

「やっべー、超めんどくさい絡まれ方されちまったよ……カナメてめえ覚えてろよ」


 思わず天を仰ぐエルだったが、こういう絡まれ方をされては「じゃ、そういうことで」と逃げるわけにもいかない。

 イリスがこの場に居れば仲裁してくれるのだろうが、町の様子を見る限りそちらに出張っているだろう。

 ダルキンは確か下に居たはずだが、あのご老体はこういう事にはわざと関わってこない。

 ルウネは……まあ、いよいよカナメが千切られそうになったらフォローに来るだろう。

 つまるところ、この状況で更なる助けは一切期待できない。

 頼れるのは自分の言葉だけなのだ。


「……あー、そうだなあ。三人仲良く回ればいいんじゃねえの?」

「三人で……?」

「おう。まさかカナメを真っ二つにするわけにもいかねえし、二人きりにもしたくねえんだろ? だったら三人で回れば安心だろ」


 対外的にもカナメがハーレム野郎と思われるだけで済むしな、とエルは心の中で追加する。

 どうせ歩く度にアリサにエリーゼ、イリスにルウネと違う女性を連れているのだからその辺りは今更だろう。


「……まあ、そうですわね。ここで決着はつきそうにありませんし」

「カナメはそれでいい?」

「あ、ああ。それでいいと思う」

「んじゃ解決だな。俺ぁ風呂に行ってくらあ」


 言いながら横を通り過ぎ、両脇を抱えられたまま部屋に戻っていくカナメを「連行されてるみてえだな……」という感想を抱く。

 まあ、美少女二人に好かれる代償としては安い方だろう。世の中には、互いに顔を合わせると決闘騒ぎを起こしかねない奴だっているのだ。具体的に誰とは言わないが。


「さて、と……」


 すっかり慣れた自分の部屋に戻ると、エルは小さくなり始めた石鹸と布を袋に詰める。

 各地を流れるのが常の冒険者として「自宅」という小さい頃以来のものには戸惑った時もあったが、今となっては気楽なものだ。

 何しろ防犯面では最高、宿代はカナメが頑として受け取らない。クランメンバーとして多少面倒な仕事を割り振られる事もあるが、それもまたエルの目標には必要なものだ。

 更には下手な宿より広いし防音面でも完璧。言う事が無い。


「……ま、鎧は今日はもう要らねえな」


 大剣を外し、鎧も外して部屋の隅に置く。多少手入れをしなければならないが、それはまあ後でいいだろう。


「んじゃ、さっさと風呂行くか……」


 言いながら部屋を出て、階段を下りる。

 クランメンバーの出入り用の裏口はたまに出待ちがいるが、一般の冒険者の類と出会う事はほとんどない便利な出入り口でもある。

 その裏口の扉をガチャリと開けて。


「おお、エル! 奇遇じゃのう!」


 そこに居た少女の姿を認めると同時に、エルは開いた扉をガチャリと閉めた。



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