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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
アフターストーリー

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514/521

カナン大祭とエル

アフターストーリー第二弾。今度は本編では出番が少なかったエル関連です。

 カナン大祭。

 今や現代に蘇ったレクスオールだと称えられるカナメ・ヴィルレクスの提案によって急遽決まったその祭は、聖都にいつも以上の活気をもたらしていた。


「……こりゃすげえな」


 ダンジョンから出てきたエルは、そう呟き周囲を見回す。

 ほんの数日地上から離れていた間に随分と変わったものだと思う。

 カナメが何かそれっぽい事を言っていたのは覚えているのだが、まさかここまで派手な事になるとは思っていなかったのだ。


「えーと、確か……」

「カナン大祭だ」


 いきなり湧いて出てきた……女の子に使う言葉ではないが、本当にそう表現するしかない……そんな登場の仕方をしたカエデに、エルは思わず飛び退くようにその場から離れる。


「愛の祭だそうだが……エル殿はまたダンジョンか?」

「え? お、おう。なんだかんだでダンジョンはまだ生きてるみたいだしな」


 地上に蘇った破壊神ゼルフェクトがカナメに封印されたことによって、ダンジョンも当然その機能を失うと思われていた。

 だが実際蓋を開けてみればダンジョン内でのモンスター発生現象は……その頻度を落としはしていたがまた続いており、まだしばらくは現状が継続するのではないかと考えられていた。

 あるいは、まだゼルフェクトの力の一部が地の底に残っているのかもしれないが……その辺りは分からない。

 とにかく分かる事はダンジョンという稼ぎ口が無くなる事はまだしばらく無いということであり、各国には今まで同様にしっかりとしたダンジョンの管理が求められるということだった。


「うむ。素晴らしい事だと思うぞ。かの破壊神の討滅により世界存亡の最大の危機は無くなったが、未だダンジョンは在り続けている。それ即ち、未だ世界の危機も在り続けているということに他ならん。気を引き締めねばな」

「まあな。カナメがあれだけ気張ってくれたっつーのにダンジョン決壊でどうにかなったってんじゃ、あまりにも情けねえしな」


 そう言ってエルが笑えば、「違いない」とカエデも笑う。

 連合から来たサムライナイトの少女、カエデ。出会った頃はピリピリしていた彼女も、ここ最近は大分柔らかくなったとエルは思う。

 ひょっとすると、今までが気を張りすぎていただけでコレが素なのかもしれないが……まあ、抜身の刃のような性格よりはマシだろうとは思う。

 本人が結構な美少女であるだけに、性格が柔らかくなった最近は密かに人気が出てきているらしくパーティ勧誘する者も出てきているとは聞くが、今のところ了承したという話は聞いていない。


「で、エル殿。今日はもうお休みになられるのか?」

「ん? ああ。ダンジョン帰りはひとっ風呂浴びて寝るに限る」


 汗臭ぇしな、と笑うエルだが……そんなエルにカエデは音もなく近づき首元へと鼻を寄せる。


「ふんふん……別に臭くはないぞ。立派な「もののふ」の匂いだ」

「か、嗅ぐんじゃねえよ! つーか、のののふってなんだよ!?」

「もののふ、だ。かの英雄王が伝えた言葉らしいが……確か「戦う男」のことだったか?」

「ほんとかよ……カナメが英雄王の伝えた文化はなんか微妙に怪しい気がするって言ってたぞ……」

「さあ。某達は伝え聞いたに過ぎぬ」

「そりゃそうだろうけどよ……って嗅ぐなって」


 カエデから微妙に距離をとると、エルは溜息をつく。恐らくは技量でいえばエルの数段上をいくだろうこの少女は、何故か最近エルに妙に付き纏っている。

 恋話が展開するような事をした記憶はないので「そういう勘違い」をすることはないが、おかげで最近男共の視線が怖い事がある。

 カナメですら「よかったね」と言わんばかりの顔をしてくるのだ。

 とはいえ、卵から孵った雛と同じで友人感覚なのだろうとエルは理解している。


 まあ……恋話が云々といえば、もう一人の婚約を迫ってくる系少女の方も自分の何が気に入ったのかエルはサッパリ分からないのだが……理想を言えば、もっと同い年くらいの癒し系少女がエルとしては希望だ。

 年下が悪いとは言わないが、性癖を疑われる可能性のある婚約はお呼びではないのだ。

 しかも婚約すれば漏れなく王家の名簿に配偶者として仲間入りである。色んな意味で冗談ではない。


「エル殿、よかったら某と一緒にカナン大祭を回らないか?」

「へ? 俺と?」

「ああ。エル殿は良縁を求めているのだろう? ならばこれを機にカナン神殿に参るのも悪い手ではないと思うが」

「まあ、なあ……」


 理想のパーティメンバーを求めてやってきた聖都ではあるが、いろんな意味で問題のある少女二人と出会った以外には特に収穫もない。

 というか、その二人と出会ったせいで色んな縁が逃げて行っている気もする。

 この辺りで神頼みくらいはしてもいいのかもしれない。


「まだ色々準備中だが、夕方には始まるらしい。風呂に行っても間に合うと思う」

「んー……」


 考えて、エルは「そうだな」と頷く。別に断る理由もない。


「別にいいぜ。じゃあクランで待ち合わせるか?」

「! いいのか!?」


 前のめりになって顔を輝かせるカエデに、エルは思わず引きつった笑顔で「お、おう」と答える。

 たかが遊びの約束にそこまで嬉しそうにする必要もないだろうにとは思う。

 他の男であればデートか何かの誘いと勘違いしたんだろうなあ……などと考えながら、エルは「また後でな」と言って手を振ったのだった。

次回に続くんじゃよ。

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