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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
アフターストーリー

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513/521

カナメ、クリスマスについて思い出す

メリークリスマス、皆様。

完結した後も読んでくださる皆様がいて、嬉しい限りです。


なので、ちょっとした外伝といいますかアフターストーリーです。

どうぞお楽しみくださいませ。

「クリスマス?」

「ああ。そういう風習があったなあ……ってのを何となく思い出してさ」


 カナメの言い出した「クリスマス」なる単語に、アリサは訝しげな顔をした。

 冬が訪れ雪が降り始めるようになったが、クランマスター室は暖炉のおかげで暖かい。

 というかクラン全体が暖房設備のおかげで暖かいのだが……そのせいか、1階は寒さを凌ぎ駄弁っている冒険者が多いようだ。

 

「で、そのクリスマスって何?」

「うーん……俺も元の世界の事はうろ覚えだからアレなんだけど。なんか丁度この時期辺りのお祭り、みたいな……ものだった気がする?」

「胡乱だねえ」


 正直、言っているカナメもほとんど覚えていないし分からない。元の世界の記憶はほとんど消えてしまっているから、こうして思い出すことも珍しいのだ。思い出しても断片的だから、何かに役立つような事もほとんどない。


「お祭りねえ。てことは、何かを祀る日だったり記念日だったりするのかな」

「ん……どうかな。なんかこう、子供にプレゼントあげたりする日だったり、木を飾ってキラキラにしてたりするのは覚えてるんだけど」

「子供に贈り物して、木をキラキラに飾る……?」


 言われてアリサは「キラキラに飾った木」とやらを思い浮かべる。

 キラキラというからには、何らかの宝石か金属類だろう。

 しかしそんなモノを飾れば盗まれてしまいそうな気もするのだが……ここで「子供にプレゼント」というキーワードがアリサの中で連結される。

 何故子供限定なのかは分からないが、ひょっとすると何か施しの日であるのかもしれない。

 外を見れば雪が降っているし、外に出ればかなり寒い。

 となると、子供にあげるプレゼントとやらの正体も見えてくる。


「……なるほど。防寒具を贈る事で子供の死亡率を下げるわけだね。木を宝飾品で飾るのは、それを売って暖かいものを食べろってことかな? となると、為政者による人気取りのイベントか……」

「えーっと……なんか違うような気もする……」


 違う気がしても、何処が違うのかはカナメにはサッパリ分からない。

 しかしアリサはすでに納得してしまったようで、何度も頷いている。


「カナメの元居た世界はたぶん、良い統治がされてたんだね。そのクリスマス? っていうイベントも、夢があっていいと思うよ」

「あー、うん。でも何か違う気がするんだ」

「そうなの? 何処が?」

「何処がって言われると、分からないけどさ……」


 その辺りは、やはりサッパリ思い出せない。


「なら、私の言ったヤツでいいんじゃない?」

「そうかなあ……」

「そうだよ。まあ、木を宝飾品で飾るのはちょっと色々問題もありそうだけど」


 主に警備上の問題で、とアリサは言うが……まあ、実際その通りだろう。

 一日中警備の騎士を張り付けているわけにもいかないし、その騎士に一個ずつ配らせるのであれば最初から配布の方が速い。


「でもまあ、防寒具の配布に関しては面白いと思う。なんだかんだで高いしね」


 聖都は宗教都市であるせいで一般的な家庭というものはほとんど無いが、それでも住人とその家族が居ないわけではない。

 農業地域では従事者の子供が居る事もあり、彼等相手に防寒具というものは確かに需要がある。


「となると、そのクリスマスっていうの早速検討したほうがいいかもね」

「はい。各神殿に話を通すです」


 何処からかやって来ていたルウネがそう言って頭を下げると、カナメが止める間もないままに消えていく。


「あっ……あー……まあ、いいか」

「そういえばさ、なんでクリスマスっていうの?」

「え? なんでだっけな。えーと……」


 思い出そうとしてみるが、やはり思い出せない。

 クリスマスさんのお祭りだったからだろうか? 違う気もする。


「……なんでかな。分からないな」

「ふーん? じゃあ名前も変えた方がいいかもね」

「そうかもな。やっぱり何か違う気がするし」


 思い出そうとしてもやっぱり思い出せないのだが……悩んだ末に、ようやくカナメは一つ思い出す。


「あ、そういえば」

「ん?」

「恋人同士の日でもあった……気が、する」


 そうカナメが言うと、アリサはキョトンとしたような顔をした後……その顔を悪戯っぽい笑顔に変える。


「ふーん? 恋人同士の日、ねえ?」

「あ、あとはほら。家族で一緒にテーブル囲んでちょっと贅沢な食事したり、とか?」

「なるほどなるほど。つまりさっきの施しとかも含めて、愛の日ってわけだ」


 そうである気もするし、やっぱり違う気もする。

 しかし、カナメの居る机に向って歩いてくるアリサの楽しそうな顔を見ていると的確な反論の言葉も浮かんでは来ない。

 それに、なんかこう。なんだかんだでロマンチックな日だったような気も、するのだ。


「じゃあさ。カナメはその日、私と一緒に過ごす?」

「え、えーと……」


 アリサと両思いになったとはいえ、然程関係は進んではいない。

 距離は今までよりグッと近くなってはいるのだが……その辺りは、今の関係を結構心地良いと思うカナメのヘタレっぷりの為せる技ではある。


「ちょーっと待った……ですわ!」


 だが、そこに扉を勢いよく開けたエリーゼが乱入してくる。


「アリサさん……! クリスマスとかいう祭事の話は聞きましてよ。カナメ様とそんなイベントにかこつけて二人きりになろうとしても、そうはいきませんわよ……!」

「別にかこつけてないし。ていうか恋人同士の話に割り込むのはどうかと思うなー」

「婚約するまで勝負は決まってませんわよ……!」


 火花を散らすアリサとエリーゼ。此処で割って入っても「カナメは黙ってて」と言われるのは目に見えているので何もできないまま、カナメはそっと窓の外に視線を向ける。

 外では今日もエルが例の二人に追われているが、今のカナメには頑張れと静かにエールを送るくらいしか出来はしない。

 

 ……ちなみにだが、クリスマスは「カナン大祭」という名称の愛の祭典として、聖都から広まっていくことになる。

 貴方にもカナンの愛を、というキャッチコピーも同時に広まり、一つの冬の楽しみとなったのである。

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