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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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破壊神ゼルフェクト4

「オオ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 吼える。

 ゼルフェクトが、吼える。

 古から蘇りし絶望と、新しき絶望。

 二つの破壊神が融合し、吼える。

 無限の異世界からの、無限の悪意。

 過去から現在まで繋がる、途方もない破滅の意思の群れ。

 それが吼えるだけで大地が腐る。空気が淀む。光が濁る。

 世界が、死と破滅に向かっていく。


「う、あ……っ」


 エリーゼが、ルウネが膝をつく。

 自分を蝕むゼルフェクトの力に耐えきれず、全身を寒気が襲う。

 世界に、人に……ゼルフェクトに秘められた破滅の願いが浸透していく。


「世界が死んでいく……!? こんな能力、ゼルフェクトには……!」

「……きっと、出来るようになったんだ」


 驚愕するレヴェルに、カナメは静かにそう答える。

 前のレクスオールには出来ないことが、カナメには出来る。

 ならば前のゼルフェクトが出来ないことが今のゼルフェクトに出来たって、何の不思議もない。


「進化してる。破滅を望む願いが、進化してるんだ」


 無数の破滅の願いが、世界を壊す。

 自分に関係ないところで不幸よあれ、破滅よあれと願う心が世界を壊す。

 無限の世界の破滅の祈りが、たった一つの世界に集約される。

 死すら存在しない、破壊の為だけの神。

 無限に強くなっていく、最強の神。


「でも、それでも」


 そう、それでも。

 たとえ殺せないのだとしても。

 たとえ最強であるのだとしても。

 たとえ、それがこの世界以外の全ての世界の願いなのだとしても。


「俺が、それを許さない」


 守りたいと思った。

 守りたいと願った。

 守ると誓った。

 それなら……それならば、絶対に。


「……アリサ」

「……何?」

「お願いが、あるんだ」


 空間に満ちる破滅の力の中で、レクスオールであるカナメと、レヴェル……そしてアルハザールの力を継いだアリサだけは何とか立っている。

 もう、立っていられるのはこの三人だけ。

 だから、カナメはアリサに黄金の弓を手渡した。


「何のつもり? これはカナメの武器でしょ」

「今から、アイツに通じる矢を作る」

「集中するから持ってろってこと?」


 それなら……と答えるアリサにカナメは黙って首を横に振る。


「俺はそれを撃てない。たぶん、他の人でも無理だ。でも、アリサなら撃てる」


 レクスオールの親友、アルハザール。あらゆる武具の達人であり、誰よりも剛き神。

 アリサ。その力を受け継ぎ、どんな武器でも大抵は扱える万能の冒険者。

 そして……カナメと最も、心を繋いだ少女。


「カナメに撃てないって、それは……」


 言いかけたアリサは、気付く。

 カナメが、自分の胸元に手を当てていることに。

 レヴェルも気付く。

 ゼルフェクトに通じるという矢の、その正体を。


「カナメ……!?」

「貴方、それは……!」

矢作成(クレスタ)


 カナメの身体が、光る。

 カナメ自身の魔力がカナメの中を駆け巡り、変化させていく。

 レクスオールの魔力がカナメの中を駆け巡り、望む形を創り出していく。


「ダメだよ、それは! そんなのは……!」

「アリサ」


 カナメの身体が、光の中に溶けていく。

 カナメの身体が、変わっていく。


「俺は、君の事が……好きだ」


 光が、広がって。


「……異空の弓神の矢(ヴィルレクスアロー)!」


 巨大な光の柱が、天を貫き弾ける。

 その光は、世界に満ちていたはずのゼルフェクトの破滅の魔力を一瞬だけ消し飛ばしながら一本の矢をそこに顕現させる。


 それは、深い森のような緑色の矢。

 細身で何処か頼りなく、しかし強烈な力を感じさせる矢。

 飾りっ気のないシンプルなその形は、その元となったカナメを思わせるようで。


「……馬鹿。こうなるって、分かってたのに」


 アリサは、その矢を手に掴む。


「カナメがこう出来ちゃう奴だって、知ってたのに!」


 結局、自分は何もできていない。

 あの赤い夜から、カナメを守るつもりで守られるだけで。

 どっちつかずの関係を続けて、理屈で武装して。

 神の力なんてものを得ても、何も変わらなかった。

 それでも、せめて。自分もカナメに、言えていたのなら。


「カナメ……」


 異空の弓神の矢(ヴィルレクスアロー)を、黄金の弓に番える。

 これを撃てば、カナメはもう戻ってこないのかもしれない。

 これを撃つことが、カナメとの永遠の別れになるのかもしれない。

 これを撃たなければ、あるいは世界の終りまではカナメと一緒に居られるのかもしれない。

 でも、それでも。

 カナメに、託されたから。


「私も……」


 ゼルフェクトの目が、アリサを捉える。

 そこに集まる強大な力に怯えるように、全ての触手を。全てのモンスターを。全ての攻撃をアリサへと放つ。

 そしてアリサは、ゼルフェクトへ向けて弦を引き絞る。

 全ての想いを込めるように強く、強く。


「カナメの事が……好きだよ」


 矢が、放たれる。

 輝く緑の光を纏い、異空の弓神の矢(ヴィルレクスアロー)が飛んでいく。

 向かい来る触手を、モンスターを、攻撃を。

 その全てを矢に変えながら異空の弓神の矢(ヴィルレクスアロー)は飛ぶ。

 異空の弓神の矢(ヴィルレクスアロー)

 カナメ自身を材料とするその矢の能力は……矢作成(クレスタ)

 触れる全てを、触れてもいない全てを。

 ゼルフェクトに関わるその全てを矢に変えながら、異空の弓神の矢(ヴィルレクスアロー)はゼルフェクトへと迫る。


「オ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 破壊神ゼルフェクト。

 決して死なぬ、無限の欠片に分割されても生き続ける不死身の神。

 けれど、それでもその身が無限の願いの集合体であるならば。


「ガアアアアアアアア!?」


 その無限の願いは個の願いという形で矢に変えられていく。

 無限が無数に。

 無数が個に。

 ゼルフェクトが、崩れるようにして矢に変わっていく。

 ザラザラと降り注ぐ矢は大地に溢れ……いや、落下していく矢の群れはその過程で矢作成(クレスタ)され融合し、更に別の矢へと変わっていく。

 ……そうして破壊神ゼルフェクトは……五本の矢となって、聖都の大地にカツンという小さな音を立てて落ちた。

 その生み出したモンスター達も、その全てが矢となって。

 ただ、その創り主だけが居ないまま……戦いは、幕を閉じたのだった。

次回更新は明日、11/3の朝7時。次回で最終回です。

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