迷路のエリーゼ2
「な、ななな……」
「ナナだか菜っ葉だか知らねーが、お前魔法は考えて使えよ。もうちょっと見た目に優しい魔法とかあったろうがよ」
「なんで喋ってるんですのよ!」
叫ぶエリーゼに、魔操騎士は人間でいえばちょうど耳にあたるであろう部分にエリーゼを掴んでいない手をあててみせる。
「おう、うるせー。こういう時耳を塞げないのは、この身体の弱点だな」
「答えなさい! 貴方まさか、モンスターな……いたっ!?」
「失礼な事言うんじゃねーよ」
エリーゼを振り向かせ軽く指で額を弾いた魔操騎士はそう言うと、肩を軽くすくめる。
「あのエタロリが言ってただろうが。魔操巨人は魔人の魂を宿したものだってな」
「え。で、ではまさか貴方、本物の……いえ、それにしては小さすぎますわね。あとエタロリってなんですの?」
「俺は正確には、どっか魔操巨人の一部だろうな。記憶にかなり欠落がある。まあ、魂がどうのってのはかなりアヤフヤな領域だしな……ルヴェルだって全部知ってたかどうか怪しいと思うぜ」
「……疑問は色々ありますわ。貴方の理屈なら他の部位が勝手に喋ってもおかしくないはずですもの。でもまあ、それは置いておきますわ。雑談にふける時間はないですもの」
「単純に人間の魂が人間と同じ形じゃねーと体と認識しないって説もあるけどよ。まあ、同意だ。さっさとレヴェルか、あのカナメとかいう男と合流する必要がある」
そう言う魔操騎士に、エリーゼは疑問符を浮かべる。
「カナメ様は分かりますけど、どうしてレヴェルが……?」
「知らねーのか? レヴェルは触れざるものに関しては絶対的って言えるほどの能力を持ってる。もしイルムルイの野郎が身体を捨てて魔力体になったなら、そこにレヴェルが居れば確実に仕留められる」
「……レヴェルの、鎌」
「それだけでもねえけどな。だがイルムルイが警戒したいのは、カナメとレヴェルの二人が揃う事のはずだ。だからどっちかと合流できりゃ、それだけで勝機はある」
「分かりましたわ」
優先順位は決まった。
カナメか、レヴェル。できればカナメ。
何処にいるかは分からないが、エリーゼは二人を探して再び歩き出し、その後ろを魔操騎士もガチャンガチャンと音を立てて付いてくる。
「……そういえば貴方、どうして突然動く気になったんですの? オウカを見る限り、あの人は貴方に自意識があることを知りませんわよね?」
「教えてどうするよ。あの子は妄執に憑りつかれてた。ああ見えて毎夜、自分の家族の仇への呪いを寝言で吐いてる。俺の真実を伝えた所で事態が好転したとは思えねえな」
「本物のエグゾードの事を教えてあげればよかったではありませんの。遺跡の場所にも見当はつくのでしょう?」
「それこそ教えてどうする、だ。あの子一人で辿り着けるとも思えんし、万が一そこに動かせる人造巨人があった時、復讐に走らんと誰が保証できる」
「それは……」
「お嬢ちゃんを助けたのは、単純にイルムルイの野郎が気に入らなかったからだ。あとはまあ……潮時ってやつだな。俺が全部隠してどうにかなる時期は、もう過ぎた」
……確かに、オウカのこだわっていた「魔操巨人の完成」については彼女自身が断念した可能性もある。
だが、新たに人造巨人の可能性が示された。それについてオウカがどう動くかは……未知数だろう。
だが、それは。
「……それなりに長く一緒にいたんでしょう? 信用してないんですのね」
「信用はしてるさ。あの子は自分を隠すのが物凄く上手い。寝言ですら、近くに誰かがいるとコントロールするくらいに徹底してる。だからこそ分かる。あの子はまだ復讐したがっていて、それでも殺すのが悪だと自制している」
だからこそ、魔操巨人の技術を復活させ聖国のような「奪えない」国に渡そうと画策していた。
どうだ、お前等のやったことは無駄だっただろう。ざまあみろ。
そう言ってやる事が、何よりの復讐であると信じていたのだろう。
「……貴方の想像ですわよね?」
「ああ、想像さ。だが真実じゃないと付き合いの浅いお嬢ちゃんに言えるか?」
ガチャン、と。魔操騎士の足が止まる。
エリーゼの背後から伸ばした腕の指差す先には……微妙に輝きの違う床。
「……ジェリー、ですのね。どうしてジェリーばかり……」
「たぶん人を溶かさず捕縛できる種類なんだろなあ。よかったな、致命的な傷を負うことはなさそうだぜ?」
「全く安心できませんわよ……火撃!」
エリーゼの放った火魔法に床に偽装していたジェリーが叫び声をあげながら盛り上がり、エリーゼの再度の火撃に焼かれ蒸発する。
「そう言わず安心しろよ。この身体じゃロクに魔法も使えやしねーが、盾にしちゃ上等な部類だろ?」
「……相手がジェリーでは無ければ、そうかもしれませんわね」
「ハハハ、そりゃそうだ! ああ、俺は生きてた頃はクラークって名前だった気がする。そう呼んでくれや」
言いながら魔操騎士……クラークは、エリーゼを奇襲から守るように背後を歩く。
こうして出来た即席のコンビは賑やかに迷路を進む。
ゴールなど分かるはずもないが……たった一人の寂しさだけは、そこにはなかった。
エターナルごふんげふん




