呪いの逆槍6
「ギイッ……!?」
誰よりも驚いたのは邪妖精達だ。
いきなり女が鎧をぶちまけたかと思えば、それが突然意思を持ったかのように組みあがったのだ。
金と銀。そして赤。そんな派手な色で構成された鎧は無視できない威圧感を持っており……その姿に、邪妖精達はどうするべきかと迷い始める。
アレは堅そうだ。でも、奪って着れば強そうだ。
そうだ、中身のない鎧なんて何程のものか。
そんな事を考えて、僅かに足を踏み出して。
「邪妖精くらい……すぐにやっつけてあげるわ!」
オウカの命令と同時に凄まじい速度で飛び出した魔操騎士の足が、その邪妖精を思い切り蹴り砕く。
「ギゲッ……ゴアッ!?」
「ギアアアッ!」
「ゲブッ!」
一瞬のうちに数体の仲間を倒され、その混乱の中で唯一残っていた邪妖精が魔動騎士に斧を叩きつけるが……傷一つつけることは出来ずに斧ごと拳で地面に叩きつけられる。
そして、それが終わると同時に魔操騎士は直立状態に戻り……それを見てオウカは溜息をつく。
「まあ、やってることが魔動人形程度で申し訳ないけど。一応、この子が私が此処にいる「理由」よ。これ使えば、弓を使う貴方の壁くらいにはなるでしょ?」
「あ、ああ。なんか凄いな。堅いし……キラキラしてるし」
「魔力銀と魔力金。あとは詳細不明の金属も使ってるわ」
そんな事を言いながらオウカは先頭を魔操騎士に歩かせる。
「詳細不明って……」
「不明なんだもの。仕方ないでしょ」
魔力銀も魔力金も、金属の中では相当に高級な部類に入る。
そんなものを使っているというだけで信じられないくらいの高級品なことが分かるのだが、カナメの関心はそんなところにはない。
「さっき聖鎧兵の話が出てたけど……オウカが目指してるのって、アレとかさっきの俺のやつみたいなのとは違うのか?」
「あれも一つの魔動人形の理想形ね。自分で判断して動くんだもの」
そう言うと、オウカはカナメへと振り向き……その途端、先頭を歩いていた魔操騎士がピタリと停止する。
「あれ?」
「止まったでしょ? 普通の魔動人形ってのはああいうものなの」
魔法の大原則として「人は目に見える範囲の魔力しか制御できない」というものがある。
魔動人形の場合は、視界にある間は操作できるが視界から外れた場合は操作できないというわけだ。
これを解決するため予め決まった動きを仕込んでおく魔動人形が最近の主流だが、これはこれで融通がきかない。何しろ、予め決められたパターン以外だと反応しないのだ。
「魔動鎧はその点違うわ。パターンが膨大だって言う奴もいるけど、絶対違う。あれは何か「別物」よ」
「それって自己判断能力の話だよな、たぶん。でもさっきのオウカの口ぶりだとそれとは違うみたいな感じだったけど」
「あら、分かるの?」
「なんとなくだけど。で、オウカは結局どうしたいんだ?」
「魔動鎧を構成してる素材と……身体の一部が欲しいの。この子の完成には必要なことよ」
放たれたオウカの言葉にカナメは思わず「へっ?」と間抜けな声をあげてしまう。
オウカの言っている事は鹵獲依頼に近いが、それはそれとして問題がある。
「ダンジョンモンスターって、倒したら消えちゃうだろ?」
「放置すればね。でも、素材を剥ぐとかしてる間は消えないわよ。どういう理屈か知らないけど、便利よね」
「あー、そうなのか……」
エルはそんな事言ってなかったな……などと思いながら、カナメは頷く。実のところ、それをやると消えた後に残るものがなかったりするので、余程素材に有用なものがあるモンスター以外は素材の剥ぎ取りなどしなかったりするのが常識であったりするのだが、そこはカナメの学習漏れである。
「15階層まで行くって言ってたけど、そこまで行けば魔動鎧の10や20くらい出るでしょ?」
「いや、知らないけど」
「出るわよ、絶対。さっきの矢で粉々にするとかやめてよね?」
「あー、まあ。努力はするよ。でも手に入れても、出来るのって結局……」
言いかけたカナメを、オウカが睨み付ける。
「言っておくけど、私が知りたいのは魔動鎧が自分の身体をスムーズに動かしてる理論よ。それさえ分かれば、私の魔操騎士に流用できるもの」
「ん、んんー……ふーん?」
「分かってないでしょ」
「はは……」
曖昧に笑って誤魔化すカナメを睨むと、オウカは魔操騎士へと向き直り……すると魔操騎士は再び歩き出す。
「つまりね。私は「自分で考えて動く」ものを作りたいんじゃないのよ。「自分が思った通りに動く」ものを作りたいの。魔操巨人っていうのは、そういうものだったはずだから」




