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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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事情聴取2

 そう、それは偶然とも思えるようなものだった。

 ちょっとした巡回ルートの一時変更の申し送りが時間や日を変えて複数ルートから届き、「たった一つの日」に重なる。

 一つ一つは怪しいものでも意図的に空白を作るようなものでもなく、散発的に発生する小さな事件の連続が巡回ルートについて深く考える余裕を失わせる。

 たとえその空白で何事も無く終わったとしても、注意深くなければ「巡回ルートに一部穴があった」などとは気づかないような、そんな自然さ。

 しかし、暗殺未遂と……こうして人払いまでされていた事実を組み合わせると、それは一気にきな臭いものへと変わる。

 偶然の穴から、意図的に作られた穴ではないかという考えに変わるのは当然の事だ。


「その人払いをした者が犯人か、その手先で間違いないのでは?」

「今調べているが、住人達は皆夜の間には帰ってきていた。聴取できている範囲では、様々な神殿の神官に見える者達が急な神事などの知らせに訪れているようだ」


 ディオス神殿、レクスオール神殿、アルハザール神殿、と色々だが……その神官服を着た「神官に見える者達」が訪れているらしいことは、徹夜での聖騎士達の調べにより分かっている。

 夜遅い時間ということもあって、再度聖騎士達が聴取に走り回っている最中だが……今のところ、「急な神事への協力要請」という形で呼び出しているパターンが多い。

 

 この聖都に住んでいる住人は神殿関係者も多いし、そうでなければ敬虔な信者や神殿に頭の上がらない商人や職人達だ。神殿からの要請とあらば断わるはずもなく……しかし、行ってみれば「そんなものはない」と言われるパターンだったようだ。


「まだ全容は掴めていないが、相当に手間がかかっている。当然、相応のリターンが無ければこんな計画は成り立たん」


 何しろ、一度使えば警戒されるような手だ。長い期間で考えれば分からないが……短い期間での二度目はほぼ不可能と言っていい。


「だが、そこまでして何故レクスオール神殿の神官騎士を殺したがったのか。そこまでしたというのに、撤退が早すぎるのは何故か」

「そんなもの、俺達が分かるはずないですよ」

「そうだな。だが、俺はこうも考える。たとえば、これがレクスオール神殿内部での盛大な自作自演騒ぎだとしたらどうだろう……とな」


 そう、今聖都では「レクスオールの弓の偽物を持った男」の噂が流れている……というよりは、レクスオール神殿の神官がその話を大々的に流した。

 しかし……その偽物とされていた弓を持った男が大々的に事件を解決したとしたらどうだろう。

 さながら英雄譚の如く「おお、私達の目が曇っておりました。それこそレクスオールの弓!」というような展開に持っていくことだって可能ではないだろうか?


「馬鹿な。それならば「偽物」と判じた神官を救わねば意味はありません」

「ああ。だが、聖騎士という第三者を目撃者として挟めば事情も変わるだろう? 「再評価」の良い言い訳になるというものだ」

「そんなことをして、レクスオール神殿に何の得がありますか? 偽の神具を祭り上げたところで、他の神殿からの査察の目を免れるはずがありません」


 そう、神具が見つかったとなれば「本当に本物であるか」は聖国のプライドに関わる問題だ。

 偽の神具を祭り上げるなど許すはずもなく、本気の査察が行われることになっており……査察をされる側はそれを拒否できないと聖国の法で定められている。

 そこで偽物と判定されれば、判定された側は相応の反証を出来ない限り無能の集まりと蔑まれるのは免れ得ない。

 故に、偽物を自作自演騒ぎを起こしてまで祭り上げるのは後から掻く恥を更なる恥で盛大にデコレーションするようなものだ。何一つ得をしない。


「なるほど、その通りだな。だとすると、こういうのはどうだ」

「エリオットさん。今日は聴取に来たんでしょう? いい加減にしてください」

「しているだろう。事実は現場で集めているしくだらん前後を聞いたところで何も掴めそうにはない。ならば可能性を一つ一つ潰していくのが一番有意義だ」

「さっきから犯人扱いしかしてないじゃないですか!」


 机をバンと叩いて立ち上がったイルゲアスは「あ、すみません」と謝りながら座りなおすが……それにエリオットは咳払いで返す。


「何を言っている。犯人扱いするんだったら、わざわざ隠蔽のチャンスを与えるような事をするものか。わざわざ聞かずに証拠探しから始める。思っていないから、こうして「犯人の可能性」を潰している」


 捕縛しているならばともかく、カナメもイリスも聴取が終われば自由に動ける立場だ。

 わざわざ「こういう理由で犯人だと考えているぞ」と教えるなど、その後証拠消しに走る犯人を追いかける捜査だというのでもなければやりはしない。


「だとしても、不快です。貴方はこういう仕事には向いていませんね」

「充分理解している。俺は犯人を追いかけて斬り殺す方が得意だ」


 悪びれもしないエリオットの様子にカナメの聖騎士への好感度がゴリゴリと下がっていく。

 ダンジョンにいた聖騎士は良い人達ばかりだったのに、こういうのもいるのは……まあ、組織であれば当然だろうか。


「とにかく、俺達は犯人じゃありませんから」

「ああ、それについてはもう充分だ。だから単刀直入に聞く。狙われる心当たりはあるか」

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