広間にて
「しゃ、喋った……いや、そういえばさっきも」
「魔動騎士が喋る……? そんなの、聞いた事も」
動揺するカナメとタフィーをそのままに、エルは油断なく大剣を構え魔動騎士を見つめる。
エルの知っている限りでは、魔動騎士が喋ることなどない。
魔動騎士は魔動鎧の上位種とされており、一時期は中級魔動鎧とも呼ばれていた存在だ。
やがて別種であると認定され魔動騎士と呼ばれるようになったが……「共通語を話した」などという情報を耳にしたことはない。
それに……あのマントを含む格好。絵姿があるわけではないので何とも言えないが、あそこまで豪奢だという情報は無かった気がする。
しかし、だとすると……アレは何なのか。
「お前達が欲しいのは、この箱に入っている物なのだろう? 私の一撃を二度も防いだのは驚嘆に値する。持っていけ」
言いながら魔動騎士は歩き、宝箱の前に辿り着くと思い切り蹴とばす。
蹴られて舞い上がり、重たい音を立てて転がった宝箱にチラリと視線を向けながらも、エルは警戒を解かない。
意思疎通が出来ればモンスターとも仲良くなれると信じるほど、エルは夢見がちではない。
一体目の前のモンスターが何を考えているのか。それを警戒し、エルはごくりと唾を飲み込む。
それはタフィーも同様で、いつでも魔法を放てるように杖を構えて。
「持っていけ、はいいけど。これで戦いは終わりって言いたいのか?」
そして、カナメは果敢にも魔動騎士へとそう呼びかける。
その様子に魔動騎士は小さく笑うと「そうだ」と答える。
「この二階層の変調は、その宝箱の中身によるものだ。本来出現するべきではない物が出現してしまった結果、それに他のモンスター共も引っ張られていた。故に、こちらとしても早めに回収して貰えると助かるというのが正直なところだ」
「……どうかな。ダンジョンの「役割」からすると、それでもいいんじゃないのか?」
カナメの言葉に魔動騎士はしばらく無言になると、小さくクフッと笑う。
「それを知っている所を見るとお前、何らかの啓示でも受けているのか? だがまあ、今はいい。答えてやろう……一切の希望のない場所に、何処の誰が夢を託す。ルール無用というのは、一番非効率的なことだ」
そう言うと、魔動騎士は身を翻して……歩み去ろうとした刹那、振り返り「そういえば」と呟く。
「私の事をしきりに魔動騎士と呼んでいたが、私はお前達がそう呼ぶモノとは違う」
「なら、お前は……」
「そうだな。お前達流に呼称するならば……魔動騎士長といったところか。喜べ、今日私に会って生きているのは……お前達が最初だ」
そう言って魔動騎士は……いや魔動騎士長は自分を睨み付けるエル達の視線に「ふむ」と頷いてみせる。
「……そういえば、私に「譲られた」のでは宝の価値も低いか? どうにもそう言いたげだな」
「なっ」
「いいだろう。ならば相応の相手と戦い勝ち取っていけ。相手は用意してやる」
そう告げると、魔動騎士長の前面に二つの魔法陣が現れ……そこから全身鎧の騎士が二体出現する。
魔動騎士長と比べると各部分が簡素だが……剣を構える姿は、実に手慣れたものを感じさせる。
「お前達の言う魔動騎士だ。精々頑張って生き残れ……期待はしていないがな」
「……矢作成・黒光の矢」
カナメの放った黒光の矢が、一体の魔動騎士を即座に鉄屑へと変える。
「……ほう? 今のは先程の……」
「……あまり俺達を馬鹿にするなよ」
カナメは弓を構え、そう告げる。
「殺気が隠せてないんだよ。何処かのタイミングで俺達を殺す気満々のくせに、口先ばっかり騎士っぽくても意味がない」
「……だな」
「ですね」
そう、結局はそこだ。濃厚な殺気をぶつけてくる癖に戦わないといったところで、何処の誰が信じるのか。
どのタイミングで襲い掛かってくるかをカナメ達は警戒し、魔動騎士長はどのタイミングで殺すのが一番いいかを探り続ける……そんな茶番劇。それが、今の流れの正体だ。
「ク、ククッ」
小さく笑った魔動騎士長の姿が次の瞬間掻き消え……一瞬見失うような加速でエルへと突っ込んでくる。
「ぐっ……!?」
「ハハハ! それはそうだろう! この手で神のお役に立つ事以上の喜びが何処にある!」
エルは魔動騎士長の一撃を大剣で防ぎ弾くが、もう一体の魔動騎士も走ってくる。
「もう少し凝った殺し方をしてやりたかったが……まあ、いい。ひょっとしたら生き残れるかもしれないという望みを抱いて死ね。それを我等が神に捧げてくれよう」




