現れたものは
明るい二階層を、三人は無言で歩く。
二階層の探索が始まってからしばらくがたったが……今のところ、釣果上々とは言い難い結果だ。
邪妖精、木人形、ヴーン……先程ヴーンの群れを倒してからも散発的にモンスターを倒してはきたし、宝箱も開けてきた。
しかし、結果としてはイマイチとしか言いようがない。
普通の宝石がついた指輪に、装飾のされた普通の短剣、体力回復に有用な薬草を粉にしたものが一包。
戦利品としては、木人形の持っていた長剣が二本。
邪妖精の持っていた武器はなんか臭かったので捨ててきているが、それはさておき。
どれも値はつくがそこまでではない……というものばかりだ。
「うーん、もう誰かが回収しちまったかな?」
あれから強いモンスターが出てきていないところをみると「状況が終わった」と判断しても不思議ではない。
となると、この二階層にいる理由も無くなってくるのだが……。
「でも、まだ半分くらいだろ?」
「まあな。一つの階層を完全に探索しようと思ったら、それだけで結構な時間かかるしよ」
言いながら、エルは地図を覗き込む。
タフィーの持っていた地図は七階層までの情報が書き込まれた束だが、これが今のところ最新であり最高額のものであるらしい。
「この先に広間があるな……そこで一端休憩するか」
広間といっても、宮殿や屋敷の広間のような心安らぐ場ではない。
ただ広い場所というだけの広間であり、しかし死角が出来にくく休みやすい事から冒険者の休息場所や情報交換場所として使われる事が多い。
場合によっては、他のパーティと協力し仮眠をとる光景も見られたりする場所でもある。
「何か情報も得られるかもな」
「だといいけどな。これだけ変な状況なら、広間に多少パーティが溜まってるかもしれねえ」
言いながら三人は広間に向かって歩き……やがて、広い空間に辿り着く。
ダンジョン内の構造がどうなっているのか分からないが、通路よりも高い天井のある広い部屋はガランとしていて……しかし、その中央に宝箱と、それを椅子代わりに座る全身鎧の姿があるのが分かる。
その手にあるのは、抜身の長剣だが……柄に青い宝石の嵌った高そうな剣だ。
立てかけた盾も獅子を思わせる装飾の施されたものであり、やはり高そうだ。
肝心の全身鎧の顔は兜に隠されて見えないが、見ているだけで圧力の伝わってきそうな「強さ」をカナメは感じていた。
「……」
全身鎧はカナメ達に気付いたように顔を向けると、盾を持ちゆっくりと立ち上がる。
背中の赤いマントが翻り、カチャリと剣が音を鳴らす。
その姿を見て……エルは全力で叫ぶ。
「カナメ、やれえ!」
「えっ……矢作成・豪風の矢!」
何が何だか分からないままにカナメは豪風の矢を放ち、全身鎧は後方へと吹き飛ばされる。
「魔動鎧どころの話じゃねえ……ありゃ噂に聞く魔動騎士かもしれねえ!」
「ご、魔動騎士って……そんなの、十階層でも目撃情報ないですよ!?」
「当ったり前だ! アレがマジで魔動騎士なら、下級巨人くらいなら一方的に刻むバケモンだぞ! 何しろ剣術を会得してやが……うお、もう来やがった!」
態勢を立て直して走ってくる魔動騎士に、今度はカナメの黒光の矢が放たれる。
一撃で倒さなければ拙い。そう判断できたが故のカナメの行動であったが……放たれた黒光の矢の描く黒線の先に、魔動騎士は居ない。
「んなっ……!」
撃たれてから避けたのでは間に合うはずがない。
つまり、カナメの弓が狙う軌道を読んで回避できる動きをとっていたのだ。
「ならもう一回吹っ飛べ……矢作成・豪風の矢!」
カナメの作り出した豪風の矢を見て、魔動騎士は「フッ」と馬鹿にしたような声をあげる。
それに構わずカナメは豪風の矢を放ち……しかし巻き起こる豪風を、魔動騎士は上に跳んで回避する。
確かに、豪風の矢の巻き起こす風の範囲さえ分かっていればそれは可能だ。
可能だが……即座に対応できるような事でもない。
「矢作成・豪風の矢!」
「ぬっ……!」
だが、上に跳んでしまえばそこから大きな動きをするのは羽でも無ければ不可能。
魔動騎士の体は吹き飛ばされ天井に叩き付けられると、そのまま落下する。
「よし……!」
カナメは心の中でガッツポーズをしながら、次の矢を用意するべく「光」を掴む。
アレが黒光の矢を避けてしまうとしても、光獄の矢ならば避けられまい。
そう考え、矢作成と唱えようとして。
「……やるな、人間。技を破られた後に同じ技で押し通してみせるとは、中々に豪胆。称賛に値する」
立ち上がり剣を床に突き刺すようにしてそう話しかけてきた魔動騎士に……カナメの、いや……全員の動きが、止まった。




