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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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224/521

下級灰色巨人との戦い

「へっ、バーカ! デカブツ! ざまあみろ!」


 言いながらエルは走り、追おうとした下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)をカナメの豪風の矢(ボレアスアロー)が妨害する。


「エル、早く!」

「分かってる……っと!」


 カナメの背後へと走り抜けたエルは少女を下ろし、ニッと笑う。


「ちょっと待っててくれよ。すぐにアレぶっ倒すからよ」

「あ、あああ、あの」

「大丈夫。任せろ」


 そう言ってエルは少女の頭に手を置き……振り返り大剣を構える。


「カナメ、一応聞くけどジェリーの時のすげえ矢は使えるか!?」

「たぶんいけるけど、アレに効くのかは分からない!」

「よし、じゃあ効かないって前提でいく! とりあえず今の足止め連続でやってくれ!」


 言いながらエルは走り出し、その背中にカナメは叫ぶ。


「おい、足止めって……どうすんだよ!」

「任せとけ、俺は女の子の前では最強だ!」

「……ああ、もう! 矢作成(クレスタ)豪風の矢(ボレアスアロー)!」


 言いたい事はあるが、もうエルは突っ込んでしまっている。

 カナメは豪風の矢(ボレアスアロー)を放ち、下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)を足止めし……それでも、下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)は突っ込んでくるエルを叩き潰すべく棍棒を振るう。


「当たるかバーカ!」


 だが、カナメの豪風の矢(ボレアスアロー)の生み出す風に煽られながらでは、まともに狙いをつけられるはずもない。

 ふらつく棍棒はエルとは離れた床を叩くだけに終わり、それでも凄まじい轟音を立てカナメの背後に座り込んだままの少女に小さな悲鳴をあげさせる。

 そうしている間に、エルは下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)の足元に潜り込み……それに気づいた下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)はエルを踏みつぶそうと足を動かして。

 しかし突然顔面を襲った火球に視界を塞がれ、火傷の熱さにもがく。


「……そっか。ああいう矢か。矢作成(クレスタ)豪風の矢(ボレアスアロー)


 そう、今の矢はカナメの放った火球の矢(ファイアボールアロー)

 文字通り火球を発生させる矢であったらしいソレは下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)の意識からエルを外し……エルは、下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)の足元で魔力を集中させる。


「……強化(パワード)


 全身を魔力が覆い、エルの身体能力が強化される。効果としてはそれ程大きいわけではない、が……エルの詠唱は続く。


剛力(アームド)


 腕を更に魔力が包み、腕の力が強化される。先程唱えた強化(パワード)に比べると強化時間は短く、およそ一行動で効果終了してしまうが……それでも、一瞬の爆発力がエルの腕に宿る。


「グッ……グオオオオオ!」

「遅ぇええええ! 跳躍(ジャンプ)!!」


 大剣を頭の上に水平に構え、エルは跳ぶ。

 下から上へ。その単純な動きはしかし跳躍(ジャンプ)で強化され、エルに気付いた下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)が反応したその瞬間には届いている。

 そして、下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)の筋肉で覆われた身体の防御を強化(パワード)剛力(アームド)の重ねがけにより底上げされた力が無理矢理突破し、勢いと反動で崩れそうになる身体を強化(パワード)によって上がった身体能力が支える。


「おおおらああああああああ!!」

「ギアアアアアアアアアアア!?」


 下から上へ。天井まで届かんというエルの大ジャンプ斬りは下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)を深く切り裂き……そのまま後方へとエルが着地すると同時に、下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)の巨体は床に大きな音をたてて倒れ込む。

 放すまいとしていた棍棒はそれでも離さず、しかし下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)が立ち上がることはない。

 深く……とても深く切り裂かれた傷はどう見ても致命傷であり、体力自慢の巨人といえど立ち上がる事などできない。

 下級灰色巨人(デルム・グレイゼルト)の身体は他のモンスター同様に溶けるように消えていき……エルはそれを確認して会心の笑みを浮かべる。


「名付けて飛翔斬……ってな」


 言いながらエルは振り向き、カナメに親指を一本立ててみせる。


「ナイスフォローだったぜ、カナメ」

「いや……凄い必殺技だったよ、エル」

「だっろお!? ハハッ、ざまあみろってんだ巨人(ゼルト)の野郎!」


 そう言ってガッツポーズをとると、エルは少女へも笑みを向け歩み寄る。

 少女の眼前でしゃがみ、エルは少女と同じ視線で笑いかける。


「さ、もう安心だぜ。巨人(ゼルト)の野郎はブッ殺してやったからよ」


 呆けたような顔でエルを見ていた少女はその言葉にポロポロと涙を流し始めると、唸るような声で泣き始める。


「う、うう……うううっ……ううー!」

「ああ、うん。怖かったよな。もう大丈夫だ」


 少女を軽く抱きしめるようにしてエルが背中をポンポンと叩いていると……少女の泣き声は、号泣へと変わっていく。


「みんな……皆死んじゃった! 死んじゃったの! 私も、私もあんな風に……!」

「ならねえよ。俺達が倒した。お前は生きてるだろ」

「でも、でも! 私だけ、私だけ……ひぐっ」

「いいんだ。生きててもいいんだ。生きてなきゃ、次はねえ。俺達はそういう商売なんだ」


 エルは諭すように、安心させるように少女の背中を叩いて。

 少女はエルにしがみついたまま、小さな声で泣き続ける。

 その姿を、カナメは静かに見つめ……少し、目を逸らす。


 自分なら、こうは出来なかった。

 きっと、オロオロするだけだったかもしれない。

 その事実がカナメを僅かに苛み……しかし、目指すべき理想形を、また一つ固めた。

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