隊商の護衛4
そうしてカナメ達を加えた護衛の冒険者達は再び集まり話し合いを始める。
バーツは邪魔だからと馬車の中に投げ込んであるが、後で暴れないようにバーツの仲間の戦士が側に付き添っている状態だ。
……まあ、哀れな彼の事はさておき決める事は単純だ。
すなわち場所・時間・役割だ。
護衛用の馬車は前列・中列・後列にそれぞれあるから、誰が何処に乗るのか。
それが決まった後に、馬に乗る者や御者席に乗る者などを決めていけばいい。
「まあ、基本的には冒険団単位で振り分けたほうがいいだろうな」
そう言った角刈りの男冒険者の意見に反対する者はいない。
ここでいう「冒険団」というのはパーティのことだが、冒険者ギルドで登録したり名乗ったりする時用の名前であり、冒険者がパーティという言葉の代わりにに好んで使用するものであったりする。
特に名乗る事で何らかの直接的な利益があるわけではないが、有名になることでやがて家名として賜る機会もあるかもしれないし、冒険団名を聞いた誰かから依頼の指名が来るかもしれない。
そんな夢のあるものなわけだが……どうやら参加するパーティはソロのエルを除けば十組。
戦士だけの冒険団「カーラッツ」。
戦士と魔法士、罠士の混合の冒険団「シュベルト」。
この二つが一番人数の多い八人編成であり、あとは五人、四人とバラバラだ。
冒険団名などないカナメ達と、冒険者ですらないらしいダルキンとルウネ。ソロであるらしいエルを加えたこれ等を分けるには、まず最大人数であるカーラッツとシュベルトをどうするかの話し合いになる。
「カーラッツは後方がいいんじゃないか? 後方から襲われた時に確実に迎撃できる者が要る」
「構わない。ならシュベルトは前方か? 罠士がいるんなら、万が一の時に役立つかもしれん」
積極的に意見を交わす冒険者達だが、その視線はチラチラとカナメ達に向いている。
……だがまあ、仕方のない事ではあるだろう。
人数は五人と普通だが、その中身が普通ではない。
まず一番目を引くのは凶暴と有名なレクスオール神殿の神官騎士。
次に目を引くのは「どう見ても執事」な男。
更には先程カーラッツの股間を減り込むほど強く蹴り抜いた女に、黄金の弓を背負う噂の男。
この中にあっては魔法士の少女が普通に見えるが、動きのそこかしこに育ちの良さが透けて見えている。
どういう出会いがあればこんな奇妙な構成になるのか気になるところではあるのだが、時間もおしているのでチーム分けが先であり……それ故に、カナメ達がどういう希望を出すのかは注目されていた。
噂の黄金弓の男が何か発言するのかと注目を受けてはいるものの、その噂の男なカナメは「どう発言するのが正しいのか」など分かるはずもなく、なんとなく分かった風に頷きながら必死に勉強中である。
そして、そんな空気とカナメの状態がアリサに分からないはずもない。
手を上げて「いいかな」と言えば、全員が一斉に黙ってアリサに注目する。
「私達は、中列を希望したいな」
「……理由を聞いても?」
長剣を腰にさげた女剣士の質問に、アリサは「どうとでも動けるからだよ」と答える。
「私達はカナメとエリーゼを中心に遠距離攻撃に長けてる。私は近距離専門だけど、他のメンバーは全員そうだからね。前列と後列で何かがあっても対応できる中列が一番いいと思う」
つまり、サポート的な役割を希望しているということだ。
実際、弓士に分類されるカナメと魔法士のエリーゼに加えてバトラーナイトのハインツと神官騎士のイリスも人並み以上に魔法に長けている。
アリサとて跳躍の魔法を使えば、その高機動性によって自由自在に動ける。
「あ、はーい。それならソロで剣士の俺と、こっちの爺さん達も中列だよな。三人とも近距離だし、バランス的にはいいんじゃねえ?」
「まあ、私は異存はありませんな」
「……」
エルの意見にダルキンがそう答えると、冒険者達は顔を見合わせる。
噂の連中と話をしてみたい気持ちはあるにはあるが、アリサの言う事もエルの言う事も正論だ。
それにダルキン達二人は「冒険者ではない」と言っていたし、そうなると実力があるだろうカナメ達と一緒の場所に組み込むのが一番いい。
「……まあ、異論はないな」
「うちもだ」
「それでいいんじゃないか?」
基本的には前列と後列を分厚くしたいので、中列に遠距離攻撃に長けたパーティがいるというのは実際に悪くはない。
こうして前列は八人のシュベルト、五人のオフィラル、四人のアシュラル、五人のヴォーダングの四チーム二十二人。
中列はカナメ達五人にダルキンとルウネ、エルを加えた二チームプラス一人の八人。
後列は八人のカーラッツ、四人のゼネラルト、五人のローゼン、グレイタスの五人……この四チーム二十一人。
最終的にこういうチーム分けとなったが、馬での警戒の役目を中列分も前列と後列で請け負った為、中列組の役目は本当に支援中心になっている。
同時に中列は前列と後列の中継基地のような役目も果たすことになり、余裕のある馬車に馬での警戒役の交代員が乗り込んだり……という作戦もプラスされた。
まあ、簡単に言えば「君等、もう名声はいらないだろ? 全部前列と後列でこなすから、こっちに活躍させてよね」という意味も込めていたりする。
「よし、ではこれで始めよう。各自、持ち場へ向かおう!」
シュベルトのリーダーの剣士の男がそう言って手を叩くと、全員が持ち場に散っていく。
ようやく復活したらしいバーツも物言いたげな視線を向けていたが……それも一瞬のことで、すぐに後方へと走っていった。




