隊商の護衛2
ずらりと並ぶ馬車の列の横を進んでいくと、商人とは少しばかり雰囲気も装備も異なる一団を発見する。
革鎧に金属鎧、武器も剣に槍、杖にと様々だ。
「……あれかな?」
「だろうね。たぶん、あの一台が護衛用の馬車じゃないかな」
他の場所にもあるはずだけど、と言うアリサにカナメは頷く。
隊商の護衛に関しては、道中にアリサに聞いた限りではこうだ。
基本的に護衛は護衛用の馬車に乗る者と他の馬車の御者席に同乗する者、馬に乗って警戒する者に分かれる。
護衛用の馬車は前・中央・後方に存在し、何処から襲われても対応できるようにするのが基本だが、そこまで人数が居ない場合は道を塞がれた時の為に前に位置するのが基本であるらしい。
男女別ではなく一緒である為、結構ギスギスすることもある……らしい。
馬と御者席は交代制だが、手当てが少し増えるので意外と取り合いになるという事も聞いている。
まあ、カナメは馬に乗ったこともないし自信もないので取り合いをする気はないのだが。
ともかく、護衛の冒険者達らしき一団は集まって何かを話し合っているようだった。
その話し合いが終わるのを待つのではなく、そこに参加するのが正しいあり方なのは当然で、しかし誰に話しかけるのが一番適当であるかは今判断がつくことではない。
だから、カナメは適当に一人の男を選び近づいていく。
真っ赤なマントの下でガチャリと金属鎧の音を響かせる剣士らしき金髪の男はいかにも機嫌よさそうに笑っており、まあ話しかけやすいタイミングかもしれないと考えたのだ。
「こんにちは」
近づいたカナメがそう声をかけると、男は振り返らずに剣を抜いて振り抜き……カナメの首元に届く寸前に、差し入れられたイリスの指によってつまむように止められる。
所謂真剣白刃取りのような優雅な止め方ではなく、文字通り無造作に掴み止めたイリスに振り向いた男はぎょっとした顔をして……そのまま、剣を掴む腕を曲げてはいけない方向に曲げられ始めた痛みに慌てて剣を離す。
それで剣が地面に落ちるということは勿論なく。剣の刃を指で掴んでいたイリスはそれを空中に放り投げてキャッチし、そのまま地面に深々と突き刺す。
「……な、え……って、げえっ! その服……レクスオール神殿の神官騎士!?」
「分かっていらっしゃるなら話は早いですね。近くの町のルヴェルレヴェルの神殿まで殴り飛ばしてあげますから、5秒以内に末期の言葉を考えなさい。1、2、3」
「ま、待った待った! イリスさん、ちょっと待って!」
慌てたカナメがイリスに抱き着くようにして止めると、イリスは「なんで止めるんですか」と不満そうな顔をする。
「な、なんでって。殺しちゃダメだろ!?」
「殺すなんて言ってませんよ。罪の痛みと鳥の気分を味わってもらうだけです。運が良ければレヴェルにも会えるかもしれませんね」
「死んでるじゃないかそれ!」
絶対させるものかとカナメがイリスを身体でぐいぐいと押すと、イリスは深い溜息をつく。
「あー、もう……冗談に決まってるじゃないですか。いくらなんでも隣町までは飛びませんよ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「そ、そうだ! いくらなんでも度胸試しで殺される謂れはねえぞ!」
「あ、やっぱりそうだったんだ」
「は?」
カナメの納得したような言葉に男はあっけにとられたような表情を浮かべ……しかしカナメは頷き続ける。
「殺気みたいなのは今まで何度もぶつけられたけど、そういうのが一切なかったから「あれ?」って思ったんだよなあ」
「殺気って、お前……」
男は呆けた表情のまま、首の後ろを掻き……その瞬間、カナメは男に弓を突きつける。
「……おおっと。どうやらマジみてえだな」
男の手からは隠していたらしいナイフがポロリと落ち、カナメはそれに笑顔で答える。
「出来れば、仲間にはこういうのやらないで頂けると助かります」
「ハハッ、やらねえよ。さっきから俺をブッ殺しそうな目で見てるしな」
まあ、それは確かにカナメも感じている。
殺気……と言ったが、実際には魔力による圧力のようなものだ。
本当に「殺気」を感じているのかは分からないし、狙われている場所がピリッとくるというのが一番表現としては近いだろうか。
ぼんやりとした感覚だったソレは、日を追うごとに段々と鋭敏になってきている。
恐らくは魔力の扱いに慣れてきているからなのだろうが……男の反応を見る限り、これが「普通」のことなのかはカナメには分からない。
「さて、悪かったな。英雄とか呼ばれる奴が来るっつーから、どの程度のもんか見てみたくてよ」
「いえ。俺は……っと」
カナメをドンとアリサが身体で軽く突き飛ばし、男に手を差し出す。
「私はアリサ。ただのアリサ」
「お、おう。俺はバーツ。冒険団「カーラッツ」のリーダーやってる」
「そう。こちらこそ……よろしく」
ミシッと。かなり嫌な音を立ててアリサの靴先がバーツの股間に容赦なくめり込み、カナメを含む周囲に居た男達がひいっと声を上げる。
白目をむいて泡を吹きながら崩れ落ちるバーツにアリサは冷たい視線を向けると、「何カッコつけてんのさバーカ」と吐き捨てる。
「こういうアホには怒っていいよ。カナメのことだから通過儀礼とかとでも思ってたのかもしれないけど、そんな風習はないから。冒険者はナメられたら負けだから、たまにこういうアホが出るんだよ、アホがさ。カッコいいと思ってんのかね?」
「あ、あー……うちのリーダーが申し訳ない」
「こんなのリーダーにするんじゃないよ。迷惑でしょうが」
「うっ」
とりなすつもりで近寄ってきた別の男をアリサは睨み付け、その視線に気おされて男は一歩下がる。
「おやおや。ずいぶんと荒れておりますな」
そんな険悪な空気に水を差したのは、こちらに近づいてくる一人の老人と……その後ろを歩く少年と少女の三人組だった。
とりあえずの和を重視した日本人的思考のカナメと、そうではないアリサの思考の差。
どちらが正しいかは難しいところです。




