ダンジョン前にて2
火。いや、炎。まるで人の形にも似たソレはダンジョンの中から現れ……突如巻き起こった爆発に呑まれ四散する。
「えっ」
炎のあった場所からはガラガラと崩れ落ちるように白い何かが零れ落ち、ダンジョンの入り口に積み重なる。
それは人のようで人ではない何かの骨であるようで、ダリアが「邪妖精の骨……」と呟く。
「骨……って、誰かが邪妖精を燃やしたってことか? じゃあ、さっきのは追撃?」
「いいえ」
カナメの横に立つクシェルが、そう答える。
「私には、骨が邪妖精の形の炎を纏っているように見えました。初めて見るタイプの敵でしたので、少々先制攻撃を仕掛けさせていただきました」
先程の爆発はそれです、と答えるクシェルにカナメが口を開く前にダリアが「邪妖精の形の炎?」と声をあげる。
たとえば骨が動くモンスターといえば魔力体と呼ばれる可視化された魔力の塊が憑りついて動く骨人形がある。
これは骨を基本にして足りない部分を魔力で補い動くという実に冒涜的なモンスターだが……それとて「炎を纏う」などという特性はない。
とはいえ「火を纏っていた」以上は骨人形に似た何かの可能性はある。
「……そんなモンスターの報告は聞いたことないわ。何処から出てきたのかしら」
「見間違いではないとしたら、まさか他にもダンジョンが……?」
言いながらも、ルドガーはその可能性が限りなく低いことは理解している。
周囲の探索をしたのは自分達だし、その際に見つけたのはこのダンジョンだけだ。
森の中のモンスターも「残存」とか「取りこぼし」と呼ぶのが正しいようなものばかり。
だが、それならば何故。
「……もっと見ないと分からないわね」
そう呟いたダリアは、カナメが何かに反応したように弓を取り出すのに気付く。
一体何事かと聞きかけ……しかし、一瞬遅れてダリアもそれに気付く。
「囲まれてる」
「……そうね。いつの間に」
「ここはダンジョンの入り口ですから。ダンジョンの放つ魔力で感覚が乱されます」
カナメとダリアにクシェルはそう答え、ルドガーも盾を構える。
周囲はいつの間にか明るくなっていて、そこには邪妖精の形をした炎がずらりっとカナメ達を囲むように並んでいる。
「いくら感覚が乱されるっていったって、あんなのを見逃すとも思えないんだけど……どういう理屈かしらね」
「不明です。しかしやることは変わりません」
不意打ちにまでは至らなかったが、囲まれていることによる焦りは大きい。
こちらの戦力はダリアにルドガー、カナメ……そしてカナメの竜鱗騎士四体。
「メイドナイト。貴方武器は? さっきの魔法か何かだけってわけでもないんでしょう?」
「当然です」
唯一無手のクシェルにダリアがそう問えば、ダリアは何処かからナイフを一本取り出してみせる。
「魔法装具・起動」
クシェルの発動の言葉に答えるようにナイフの刀身はするすると伸び、一本の長剣程の長さになる。
「ロングソードになるナイフ……? なんか地味ね。まあ、いいわ。此処がこうなった原因はたぶんアレ。蹴散らして私の仲間の捜索に移るわよ」
「了解!」
「ああ!」
唯一クシェルのみが返事をしないが、ダリアは気にせず剣を構える。
見たところ敵は「邪妖精の形をした炎」で、先程の様子から見るに邪妖精の骨が何らかの核になっている可能性がある。
そして敵は……武装したダリアの仲間達二人を最低でも撤退に追い込んでいる。
「ルドガー! いつでも全力を出せるようにしておきなさい!」
叫びながら、ダリアは剣を下段に構え精神を集中する。
イメージするのは斬撃。敵を切り裂く一撃を頭の中に描き、剣へと魔力を集中させる。
ダリアの剣は緑の輝きを放つ魔力を纏い、うっすらと輝き始める。カタカタと震える刀身は放たれる魔力の前兆であり……ダリアはそれを一気に振りかぶる。
「風の……遠撃剣!!」
解放された魔力はダリアの斬撃の形をなぞる様に弧を描き、風の刃となって放たれる。
炭化した草を巻き上げ、ゴウと空気を切り裂く音を立てながら進む風の刃はぼうっと突っ立っていた邪妖精の形をした炎の幾つかを蹴散らし背後の木々をも切り倒す。
一瞬遅れて炎の消えた邪妖精の形をした炎から骨がガラガラと崩れ落ち、それでも他の炎の邪妖精達は動かない。
「……様子見? いえ、何かおかしい……」
そこだけ包囲が崩れているのに、他の炎の邪妖精達は突っ立ったままだ。
一体何故。あまりにもあからさますぎる隙に、ダリアは不気味さを覚える。
「とにかくチャンスです……畳みかけましょう! 風撃!」
「ああ! 矢作成……風撃の矢!」
カナメの手の中に半透明の矢が生まれ、放たれると同時に暴風と化してルドガーの魔法と共に数体の炎の邪妖精を吹き飛ばす。
そして更に、そのカナメの動きに連動するかのように竜鱗騎士達が掌から電撃を放ち炎の邪妖精達を打ち倒していく。
囲んでいた炎の邪妖精達はそうやってアッサリと骨に戻り……シンとした静寂だけがそこに残る。
「えーと……」
カナメが言い辛そうに何かを言いかけるが、「何を言いたいのか」はダリア達自身よく分かっている。
「……弱すぎる。幾ら何でもこれは……」
そうダリアは呟き、現状を再確認する。
気味の悪い存在であった炎の邪妖精達は、想像以上に弱かった。
そして行動が不可解でもあった。
わざわざ包囲していながら、その利点を全く活かせていないのだ。
攻撃する気がないなら、何故姿を晒して包囲したのか。
考えるダリア達の前で……骨に戻っていたはずの炎の邪妖精達が、再びその身体に炎を纏い立ち上がった。




