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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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ダンジョンを目指せ

「これって……もしかして、ドラゴンの鱗?」


 クシェルの差し出した袋の中に入っていたものは、ジャラジャラと音を鳴らす黄色い鱗。

 前に触れたレッドドラゴンの鱗と比べると少し細いというか……具体的に言うならば流線形であり、表面が磨かれた鏡のような輝きを持っていた。

 鱗の一つ一つからは確かに微量の魔力を感じ、それがレッドドラゴンの鱗と同質のものであることをカナメに確信させる。


「イエロードラゴンの鱗じゃない。こんなのどうしようってのよ?」

「カナメ様なら扱えると伺っております」

「ふうん? まあいいわ。とにかく行くわよ」

「あ、ああ……」


 確かにこれがあれば、飛竜騎士の矢(ドラグーンアロー)が出来るに違いない。というか、触った瞬間に出来るという確信はあった。

 だが、それをどう使うのか。森の中では自慢の翼も役に立たないようにカナメには思えた。

 だから、とりあえず袋の口を閉めようとして……カナメは「あっ」と声をあげる。


「ちょ、ちょっと待って二人とも!」

「……いい加減にしないと置いてくわよ?」

「いや、そうじゃなくて……馬車、いらないかも」

「はあ?」


 訳が分からない、という顔をするダリアの前でカナメはイエロードラゴンの鱗を袋の中から掴み取り、精神を集中する。


矢作成(クレスタ)……飛竜騎士の矢(ドラグーンアロー)!」


 詠唱と同時にカナメの手の中でイエロードラゴンの鱗は光に包まれ、一本の矢に変化する。

 それは、磨かれた鏡のような表面を持つ黄色の矢。明らかにイエロードラゴンの鱗と同じ材質に見える矢の出現にダリアは絶句し、ルドガーが「ほう」と感心したような声をあげる。


「今のは魔法ですね? 矢を作る魔法とは驚きました」

「はは……今のところ、唯一まともに使える魔法です」


 照れたように言うカナメにダリアはしかし、カナメの手の中の矢から視線を外さない。


「……そんな驚くとか謙遜するとか、そんな段階の話じゃないでしょ。魔法の品よ? これ」

「まあ、確かに高速作成には驚くべき点はありますが」

「カナメ。馬車がいらないって言ったわね? これが「そう」なの?」

「えーと……たぶん」


 カナメから矢を受け取ると、ダリアはそれをじっくりと眺め始める。

 クルリと回転させ、先端を軽く触れてみたり……そうして、カナメに「どうやって使うの」と問いかける。


「ダリア、その矢が一体なんだというのですか?」

「魔力に鈍感なのは貴方の弱点よ、ルドガー。どう見てもコレ……魔法装具(マギノギア)クラスよ?」

「なっ……!」


 注目する二人……いや、黙って控えているクシェルも含めて三人の視線が集まる中で、カナメは矢を空に向けて放つ。

 黄の矢は防衛戦で使った赤の矢と同じように空中で黄色い霧と化し、それを一気に収束させる。


「あれは……!」

魔動人形(ゴーレム)……!」


 そう、そこに現れたのは黄の竜鱗の全身鎧を纏い、ドラゴンを思わせる翼を羽ばたかせる騎士。

 赤の竜鱗騎士と違うのは手に持っている武器が無く、ガントレットに黄色く丸い宝石のようなものが嵌っている事だろうか。

 翼を羽ばたかせながら空に浮かぶ騎士を見つめる三人を他所に、カナメは続けて三本の矢を放つ。

 それも同様に黄の竜鱗騎士と化し、四体の竜鱗騎士達は一斉に地上へと舞い降りてくる。


「これに運んでもらえば、空から一気に向かえると思うんだ」

「……まあ、そう……ね?」


 ダリアは不安そうに竜鱗騎士に近づき、その胸元をゴンと叩く。

 近づいてみると分かるが、この竜鱗騎士にはかなりの魔力が込められている。

 こんなものを瞬時に四体も作り出すカナメの魔力も……いや、そもそも……そんな矢を作ってしまうカナメの「矢作成(クレスタ)」という魔法は、一体何なのか。

 目の前で見ていながら、ダリアは同じ事を出来る自信は全くなかった。

 恐らくは、見様見真似では絶対に不可能なほどに緻密かつ複雑に練られた魔法。発動があまりにも簡単だから……そして作るのが「矢」というありふれたものであるが故に、そこで思考停止すれば絶対に気づかない。

「そんな魔法もあるのか」と見逃されてしまうような……ある意味で最も理想的な魔法だ。


「ねえ、カナメ。この魔法って貴方誰から教わったの?」

「ん、んー……えっと、それは秘密ってことじゃダメかな。それに、急ぐんだろ?」


 明らかに誤魔化しに入るカナメにダリアはしかし「そうね」とアッサリ答える。

 この場でカナメが素直に返答してくれる事など期待してはいないし、急いでいるのも事実だ。

 だから、心の中でカナメの重要度を引き上げて微笑む。


「じゃあ、行くわよ。まずは道沿いに行けば廃村があるから、そこへ行くわ」


 プシェル村。

 その言葉が頭の中に浮かんで、カナメは頷く。

 今の状況では廃村だと言われても仕方ないが、そういえば村長はどうなったのだろうか。

 そんな事を考えながら、カナメは「俺達を村まで運んで!」と竜鱗騎士達へ声をかける。

 竜鱗騎士達からは返事はないが、四人の後ろへ回るとその腰を抱きしめ、一気に空へと舞い上がる。


「お、わっ……」

「ひゃっ」

「おおっ」

「……」


 四人それぞれの反応を見せながら、カナメ達は空へと舞い上がる。


「ちょっと、カナメ! こいつら「村」で本当に分かるんでしょうね!?」

「たぶん大丈夫!」


 そんな不安な台詞にダリアが文句を言うより先に竜鱗騎士達は旋回し、プシェル村へと続く道の上空へと四人を抱え飛んでいく。

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