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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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143/521

夜、酒場にて4

「あ、それはちょっと……お断りします」


 ダリアの誘いに、カナメは迷わずそう答える。

 今までどうにも煮え切らない答えばかりを返していたカナメのスッパリとした答えにダリアだけではなく、ルドガーとハロまでもが驚いたような顔をする。


「……理由は、聞かせてもらえるのよね」

「このお誘いにのるってことは……たぶん、そっちの指揮下に入るってことですよね」

「そうとは限らないけど、そうなる可能性は高いわね」


 そう、帝国の人間であるダリアの「一緒に来ないか」という誘いにのることは、それすなわち帝国の者として働くと宣言するのとほぼ同じだ。

 ほぼ、というのは断る、あるいは断られるなどでそうならない可能性もあるからだが……高い確率でそんな事態にはならない。

 少しでも戦力を確保しておきたいのが各国の事情であり、「使えるかもしれない」というだけで自国の戦力として何らかの枷をつけておきたいのが正直なところだ。

 エリーゼがカナメに声をかけたのも、ハロがこうしてカナメを気にかけているのも「そうした事情」が全く絡んでいないなどとはいえない。

 その是非はともかく……カナメとしては今はまだ、そういう誘いにのりたくはない。


「まだ、自由でいたいから……ですかね?」

「……確かに、国家という枠は窮屈なものかもしれないけど」


 カナメの答えを受けて、ダリアは真剣な表情のままそう返す。

 その顔にあるのは言葉で惑わそうというものではなく、カナメという人間に向き合った真剣そのものな感情だ。


「いずれ、貴方は何処かの枠に囲われる。これは確定事項よ。自由なんていうものは、そうなるまでの猶予期間みたいなものね」

「それ、は」

「こっちに来る事をお勧めするわ。今回は無理強いしないけど、その気になったらいつでも来ればいい」


 そう言うとダリアはカナメに手を出すように言い……言われるままに手を差し出したカナメに、懐からバッジのようなものを取り出して握らせる。

 手を開いたカナメの手の平にあるものは、羽根を広げた鴉のような黒い鳥と、その鳥が抱えた銀色の杖が描かれた盾形のバッジ……のようなものだ。

 ようなもの、というのはひっくり返しても着ける為の金具がないからで、「これはなんだ」と聞かれたとしてもカナメは「さあ」と答えるしかないような代物だ。

 このバッジのような何かは何でできているのかは分からないが、触っていると微妙に魔力を持っているのがわかる。

 アリサに教わった聖国金貨に似た何かを感じるので、恐らくは似たような作り方をしているのだろうとカナメは予想をつける。

 問題は、結局この「バッジのようなもの」が何を示しているのかということだが……。


「帝国の紋章、ね。それも一部にしか所持を許されない高位紋章。貴女使者とか言ってたけど、結構大物だったのね?」


 ハロがカナメの手の中のモノの正体を素早く看破してダリアに視線を向けると、ダリアは軽く肩をすくめて見せる。


「大物なんて言ったら、本当の大物に失礼よ。私はただ、中央に近いというだけ。あくまで一介の騎士だもの」


 冒険者という設定はもう捨てたのか、ダリアはそう言ってハロの視線を正面から受け止める。


「なるほど、特務騎士というわけね。そういう遊撃隊みたいな連中がいるのは知っていたけど、見るのは初めてよ」


 否定も肯定もせずジョッキをダリアは傾け……カナメは何となくだがダリアの正体を理解する。

 特務だの遊撃隊だのという言葉を聞くに、ダリアは普通の騎士とは違うエリート部隊なのだろう。

 恐らくはここぞという現場に投入され、あちこちを回るような……そういう役割なのだ。


「それと私の名前があれば帝国内なら、ある程度は融通がきく。そういう便利グッズだからなくしたり売ったりしたら駄目よ」

「……これ使ったら自動的にそっちの所属と見做されるとか……」

「ないから。単純に「こいつに目をつけてるから便宜を図ってあげなよ」っていう印みたいなものよ」


 要は優待券のようなものなのだろう。カナメが「ありがとうございます」などと答えていると、横からハロが「まあ、使えば間違いなく連絡が飛ぶけどね」と呟く。


「当然でしょ。目を付けた奴の居所が分からないとどうしようもないし」

「……なるほど」


 しかしまあ、貰っておいても損はなさそうだとカナメはそれを懐に仕舞う。

 使い方については……あとでアリサにでも相談しようなどと考えたりもしている。


「余計な事吹き込まれる前に言っておくけど、うちは完全な実力主義よ。貴方が本物なら、いずれ私を指揮する立場にだってなるかもしれない」

「別に、偉くなりたいわけじゃないですよ」

「ふーん。でもまあ……王国じゃ貴方、絶対に芽吹かないわ。此処は自称「もっとも歴史のある国」だしね」

「言ってくれるじゃない」

「歴史的事実でしょ?」


 また睨みあおうとするハロとダリアの間にルドガーが手を差し込み、パタパタと振る。


「はいはい、そのくらいにしましょう。此処は楽しく飲む場所、でしょう?」


 ルドガーの仲裁に二人は睨みあうのをやめ、ジョッキを手に取る。

 しかしどうにも険悪な雰囲気はそのままで……カナメは居心地の悪い気分のまま、縮こまっていた。

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