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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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ハイロジア王女との会談3

 クシェルに案内された宿の一階はロビーなのか、広々としており……高そうな家具とテーブルがあちこちに置かれている。

 カナメ達は丁度人数分用意された椅子に腰掛け、待たされている状況だった。


「なんか……色々違うな」


 着替える為にハイロジアが一旦退席している今のうちにと周囲をキョロキョロしていたカナメは、そんな感想を漏らす。

 カナメ達の泊まっている銀狐の眉毛亭は一階は食堂になっていたし、前の街の宿屋でも規模こそ違えど食事処になっていた。

 しかし、此処はどちらかというと……高級な喫茶店やバーのような佇まいだ。


「泊り客を限定し、その分良いサービスを提供することを目的にしているのでしょうね。王都でもみられる形式ですわ……まあ、こんな辺境では珍しいですけど」

「差別化ってやつだろ? 別にいいんじゃない?」


 エリーゼの説明にカナメはそう言って首を傾げる。

 誰もが同じようなサービスを提供する中で、あえて富裕層を狙った一つランクの違うサービスを提供する。

 それはダンピング合戦に巻き込まれず、不毛な消耗戦から離脱する賢い行いに思えるのだが……アリサは「需要がねえ」と呟く。


「狙いはいいんだけど、高級宿に泊まる客層はこんな何もない辺境には普通来ないし。まあ、これからは違うのかもしれないけど」


 行商人も銅貨一枚でも経費を切り詰めたい連中ばっかりだから、こういう宿には泊まらないんだよ……というアリサの説明にカナメはうーむと唸る。

 まあ、理解はできる。確かに行商人は儲けに来ているのだから、宿に余計なお金を払うつもりはないだろう。

 最低限の防犯さえ出来ていればいいと思うだろうし、安い宿でも内側に頑丈なカンヌキがついている。

 部屋にこもってしまえば、火でもつけられない限り安心だ。

 逆に高級宿にお金を払って泊まろうとする状況は何か、と考え……カナメは「そうか」と手を叩く。


「いい宿に泊まろうって人は、それこそ来る事自体が目的の人なんだ。観光とか、長期滞在とか……そういう快適じゃないと辛いっていう状況でないと、ってことだよな?」

「そういうこと。それも「富裕層の」っていう条件がつくね。で、富裕層は普通は何もない辺境には来ない」

「そっか……」


 これからは違うかもしれないとアリサが言っているのは、ダンジョンの事を示しているのだろうとカナメは考える。

 ダンジョンが貴重なアイテムを生み出す鉱山のような扱いであるのならば、それを手に入れようとする富裕層も来る。

エリーゼ達から聞いた話も合わせれば、新しいダンジョンに強力な魔法装具(マギノギア)の可能性を求めてやってくる貴族なども来るかもしれない。


「ということは、これからはこういう宿が増えるかもしれないってことかな?」

「そうでもないわ」


 言いながら現れたのは、着替えてきたハイロジアだ。白い布の上着と濃い青のロングスカート。

 先程の活動的な装いとは随分違う大人しい服だが……そのギャップにカナメは目を丸くする。

 あまりお姫様っぽい服装でこそないのだが、庶民臭さのようなものは一切ない。

 それでいて、近寄りがたい服装でもない……そんな、なんとも距離感に迷う印象というのが今のカナメの心境だろうか。

 ハイロジアはそのままカナメの向かい側の椅子に腰かけ、クシェルがテーブルに素早く人数分のお茶を用意する。


「ダンジョンが発見されたことで、この町の……というより、この地域の重要性は一気に高まったわ。けれど、それが高級宿の追い風になるとは限らないのよ」

「えっと……それって」

「まず第一に、貴族は直接こんな場所には来ない。遣いを寄越すわ。そして遣いに良い宿に泊まる金など与えない。そして大商人はケチだから大商人と呼ばれる域まで金を溜め込めた。つまりはそういうことね」


 ……ということは、結局は基本的に冒険者や高い宿を利用しない層が中心ということになるのだろう。


「ま、努力次第ではあるかしら。お金をかけて泊まりたいと思わせる価値を提供できなければ、高級路線なんて自己満足よ。そこだけは、自然に天から降ってくるものではないもの」

「……なるほど」


 カナメが真面目に頷くと、ハイロジアはクスリと笑う。


「面白いわね。別に貴方がこの宿の主人というわけでもないでしょうに、こんな雑談に凄く真面目だわ?」

「あ、あはは……そ、そうですかね」

「そうよ。でも嫌いじゃないわ、そういうのは。聞いているフリをして中身のない賛辞のチャンスを伺っている連中よりは余程好感が持てるもの」


 エリーゼが頷いているところを見ると、貴族のご機嫌とりとかそういうのなんだろうな……などとカナメは想像する。

 何処の世界でもそういうものは変わらないのだろうが……ある意味で当然の世渡り術であろう「それ」は、彼女達には響いていないようだった。


「さて、では場も程良く緩んだところで本題を始めましょうか?」

「それですわ。気軽な場とお姉様は仰いましたけど……私達全員をお呼びになられたのはどういう理由ですの?」

「顔合わせをしておきたかったのもあるわね。場合によってはモノにしようとも思っていたし」


 一気に警戒の色を強めるエリーゼに、ハイロジアは軽く手を振って気のない様子をみせる。


「そんな顔しなくていいわよ。いい子だとは思うけど、エリーゼと奪い合うほど魅力があるわけでもないしね」

「カナメ様はとても魅力的ですわっ!」


 大声をあげるエリーゼにハイロジアは「あら、そう」と返すと……興奮したエリーゼをそのままにカナメへと視線を向ける。


「なら、その魅力的なカナメに私の悩みを聞いてもらおうかしら?」

「え、あ、はい。さっきの本題ってやつですよね」

「そうよ。話の早い人は好きよ」


 そう言って笑みを浮かべたハイロジアはしかし、一瞬で表情を引き締める。


「……今回の決壊と侵攻の原因となったダンジョン。私の悩みは、まさにそれよ」

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