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異空のレクスオール  作者: 天野ハザマ
本編

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ミーズ市街戦2

 ギイン、という金属と金属のぶつかり合う音が響く。

 充分すぎるほどに勢いのついたアリサの剣をナイフで受け止めたアロゼムテトゥラは、その勢いを殺しきれずに地面に跡をつけながら後ろへと押し込まれ……それでも、なんとか防ぎきっていた。


「へえ、これを防いじゃうんだ」

「なんて女……まだ私が喋っていたでしょう!?」


 アロゼムテトゥラが距離を取るべく後ろへ跳ぶと、アリサはそれを鼻で笑う。


「何言ってんの? 町に奇襲かけといて騎士道精神にでも期待しようっての?」


 そもそも私は騎士じゃないけどね、などと言うアリサをアロゼムテトゥラは睨み付け「フラム」と唱える。

 すると空中に現れた火球がアリサへと飛翔し……しかし、アリサの跳ね上げた小石に当たった火球はその小石を焼いて消える。

 地面に落ちる小石をアロゼムテトゥラは驚愕の顔で見つめ「何をやったの」と呟く。


「何って防御。火なんか当たったら危ないじゃない」

「なんで小石なんかで防御できるのよ! 有り得ないわよ!」

「世間知らずだねえ。教える義理もないよ」


 言いながら、アリサは再び距離を詰めてアロゼムテトゥラに斬りかかる。

 アリサのやった防御法は、実はさほど珍しいものでもない。

 アロゼムテトゥラの放った魔法は「当たった場所を燃やす」魔法であり、人類の魔法でいえば「飛火(ファイア)」という魔法にあたる。

 この手の魔法は放てば直進するのが特徴であり、それ故に迎撃しやすいとも言える。

 実際にはそこまで簡単ではないのだが……この町に来る前にアリサがやったように盾を投げて犠牲にしたりというのは冒険者としてのテクニックの一つだ。

 そして今やった小石をぶつけるのは、そのテクニックの究極とも言える。魔法が「ぶつかった」と認識する大きさのものをぶつけなければ意味がないし、正面から盾をぶつけるのと比べれば難易度は跳ね上がる。もっと言えば命がけの大道芸のようなものであって「理論上可能」でも誰も挑戦しようとは思わない。

 だが、それ故に軽くやってみせたアリサがアロゼムテトゥラには理解できない何かに見えただろう。


「くっ……なんなのよ、貴女!」

「何って。ただの冒険者だけど」


 アリサの攻撃をナイフでいなすアロゼムテトゥラの技量も、並ではない。

 並ではないが……アリサを圧倒するようなものでもない。

 単純に力でいえばアロゼムテトゥラに軍配が上がる。

 当てさえすれば、アロゼムテトゥラのナイフはアリサの命を刈り取るのも容易いだろう。

 だが、接近戦の技量はアリサの方が格段に上だ。確実に自分を追い詰めていく攻撃の嵐に、アロゼムテトゥラは全力でアリサの剣を弾いて更に後ろへと下がる。


「……ただの冒険者?」

「そだよ?」


 油断しないようにアリサの一挙一動を観察しながら、アロゼムテトゥラは「それなら」とアリサに呼びかける。


「……それなら、たっぷりの金貨をくれてやるから何処かに消えなさい。別にこの町に義理も契約もあるわけではないのでしょう?」

「無いけど私、別に拝金主義ってわけでもないんだよね。いや、お金は好きだけどさ。ちょっと最近、そういう誘惑をキッパリと跳ね除けなきゃいけない事情もあるし」


 何やらいまいちハッキリしない断り方をするアリサに、アロゼムテトゥラは「残念ね」と言って笑う。

 その直後、アリサのいる場所を直撃した氷弾が氷漬けにし……だが、そこにはもうアリサは居ない。


「あっぶなー……そうだった、魔法使える奴いたんだっけ」

「アロゼムテトゥラ様! ゴブジデスカ!」


 後ろに下がったアリサとアロゼムテトゥラの間に入るように立ち塞がったローブ姿の大きめの邪妖精(イヴィルズ)と、鎧や斧で武装した二体の邪妖精(イヴィルズ)にアリサは舌打ちする。

 奇襲ならともかく、正面からこの構成の連中と戦うのは少々骨が折れる。

 というか、比喩ではなく本気で骨を折る覚悟をしなければどうにかできそうにもない。

 何しろアロゼムテトゥラは力だけならアリサより上なことは先程の攻撃で充分すぎる程に理解できているし、人数差という要素が加わると技量でどうにかするのにも限度がある。

 せめて虎の子の氷撃の杖(アスルガンド)があれば手もあったのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 逃げるのは簡単だが……敵の大将を目の前にしてそれもシャクだし、こんな戦いはさっさと終わらせたいのが本音だ。

 どうするかアリサが必死で考えながら対峙していたその時……突如、森の方角から激しい音が響いた。


「あれは……クラートテルラン!? そんな……!」


 何が起こったのか、アリサからは見えない。見る気もない。

 大切なのは今この場所であり、それ以外は後からどうにでもなることだ。

 だからこそ、アロゼムテトゥラ達の視線が何処かへと向いたその瞬間を狙ってアリサは跳躍(ジャンプ)の魔法で跳び、勢いのままにローブの邪妖精(イヴィルズ)の首を刎ねる。

 驚愕の顔で振り向いた二体を回転するように切り裂きながら、アリサはアロゼムテトゥラへと剣を振り……だが、剣はアロゼムテトゥラを斬る事無く砕けるようにへし折れる。

 そこには、怒りに満ちた顔でナイフを握るアロゼムテトゥラの姿があり……どうやら単純に力で剣が折られたようだとアリサは推測する。


「よくもクラートテルランを……」

「クラートって……ああ、もう一人? てことはカナメ達、やったのかな?」

「許さない……殺してやガアッ!?」


 叫ぶアロゼムテトゥラの背中に、火球がぶつかり弾ける。

 振り返るアロゼムテトゥラの視線の先にはその火球を放ったらしい騎士の姿があり……アロゼムテトゥラは怒りのままに騎士へ斬りかかろうとして。

 だが、その致命的な隙に斧を拾ったアリサによって深く斬り裂かれ倒れる。

 倒れる刹那、何かを言おうとしたアロゼムテトゥラの口はしかし、何かを紡ぐ事はなく……近寄ってきた騎士が、その死体とアリサを見比べる。


「決闘中という雰囲気にも見えんので介入した。まあ、決闘中でもこの状況であれば介入せざるを得ないがね。見たところモンスター共の指揮官にも見えるが……この手柄に関して私が証言すると約束しよう」


 つまり、勝利に導いた自分についても証言してくれという話なのだろうが……アリサは肩をすくめると、愛想笑いを浮かべる。


「ええ、勿論です騎士殿。私はアリサ。ただのアリサです。お名前を教えていただけますか?」


 先程のアロゼムテトゥラの様子からするに、もう一人の指揮官のクラートテルランとかいう奴は倒されたのだろう。

 ならば、この戦いの終焉も近い。そんな事を考えながら、アリサは見よう見まねの一礼をしてみせた。

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