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日常バトル 〜闘いは突然に〜  作者: 秋乃 さんま
1/1

コンビニ編

勢いです

私は人間だった。

それは戦う者だということを意味している。

ゲーテ

[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ]

(18~19世紀ドイツの詩人・小説家・劇作家、1749~1832)の名言

人は常に闘ってきた、闘いの歴史があった

覇権争いや後継者争い、革命や重圧からの解放

そして心の葛藤から腐った社会への反逆

人は闘う、闘い生きている


たが闘いが廃れた現代

闘志を燃やさず日常をただただ過ごす

毎日毎日何気ない日々を送っている

そんな国の代名詞、日本

今ここで闘いの火蓋が切られる

それは日本の首都、東京のとある場所、とある施設

人はそこをコンビニと言う



「いらっしゃいませー」


女の店員の声が聞こえる

店員は若く学生ぐらいの年頃だ、マニュアル通りにやろうとするその言い方が見た目チャラチャラな姿にとても似合わずなんとも言えないシュールさを感じられる

時間は午前9時を過ぎた。出勤通学の嵐は過ぎ去りコンビニに昼のラッシュまでの僅かな平穏が訪れたのだ。

そんな時間だからなのだろう、ガラガラで店内は今入ったサラリーマン風の客とコンビニ店員の二人しかいない

サラリーマン風の客は菓子パン数個とミネラルウォーターを慣れた手つきで取るとそれをレジの店員の前に置く

店員はそれをレジのバーコードを機械で読み取っていた


日常の一コマ、現代の生活の1ページ

そんな平和な場所に闘いの火蓋が切って落とされる


じゃあぁぁぁぁぁぁぁん

大きな、鼓膜が張り裂けるのではないかと思うほどの銅鑼の音が何故かコンビニの店内に響く

ここで普通の人ならあたりを見渡したり呆気に取られたりするものだ

だが彼女と彼は違う

互いに向き合い睨み合ったまま動かない

銅鑼の余韻がまだ残っている

二人はそのまま動かない、バイトの子は手に読み取る機械を手にしたまま

サラリーマン風の客は財布を出そうとして鞄を抱えたまま睨み合う


時が止まったかのような空間へと変わるコンビニ

いや、二人はこの時には既に戦士として心が躍動している

己の中にある闘士を掻き立てて闘いの準備をしているのだ


じゃあぁぁぁぁぁぁぁん

大きな銅鑼がまた店内に響く

どこから鳴らしているのか?

そもそも何故銅鑼がコンビニの店内で響くのか?

そんなことは戦士たちにとってどうでも良かった

ただ目の前の敵を倒し、己が勝者となることのみしか頭になかった


サラリーマン風の客はレジから素早く下がり鞄を横に投げてバイトと距離を取る

1メートルほど下がるとそこで構えた

手を胸の前でクロスさせ腰をやや沈めたその構え、玄武の構え

カウンターを主軸とした守り重視の構え

バイトはそれを見て静かにゆっくりとレジのカウンターにのる

バイトがカウンターに乗っていいのか?なんて思ってはいけない

彼女は今戦士なのだ

右手を前に突き出し虎の爪のように指を曲げる

左手は引いてこちらも虎の爪を模した様に指を曲げる

そのまま体を半身にして右膝を深く落とし顔を狩猟対象へ向けるその構え、白虎 狩猟の構え

連続攻撃を主軸とした速さ重視の構え

互いに見合う、出方を探っているのだ

初手をどう動くかで序盤の戦況は決まる


ばっ、バイトはレジのカウンターから勢い良く飛び降りその勢いのまま入り口近くの雑誌コーナーへと走った

サラリーマン風の客は、勢い良く動いた相手の動きを見極めようと玄武の構えをもっと深くして攻撃に備えたがバイトは左に走って行ったのを見て構えを解きその後を追った

棚から出て入り口近くの雑誌コーナーを見るとバイトが数冊の雑誌を手に取りフリスビーの要領で投げてくる

雑誌手裏剣 これから攻められるとは!

この低さは確実に足や腰を狙ってきている...くっ、玄武の構えの弱点である腰から下を狙われている

そう勘付いたサラリーマン風の客は雑誌をサイドステップで躱し棚に隠れる

雑誌手裏剣ともなると迂闊に近づけない

ならばどうするべきか、棚の商品を見て打ち勝つ算段を立てようとした時、頬の辺りを何かが掠めた

一つではない、2、3ほどの何かが体の横を飛んでいた

掠めた物を目で追うとそれは漫画の単行本が回転しながら飛んでいたのだ

雑誌手裏剣の応用編、漫画手裏剣!

雑誌手裏剣は大きく威力がある反面、狙いをつけ辛く小回りが利かない

だが漫画手裏剣は角度による狙いを付けやすく射程距離も長い、さらに携帯しやすい

雑誌手裏剣と漫画手裏剣による遠距離攻撃に中々手が出せないサラリーマン風の客は目の前の棚のパンコーナーの商品を救いを求める様に手に取っていく

その中にあった逆転の一手、闘志燃え尽きぬまで闘おうとするその姿を闘いの女神は見放さなかった

そのパンの包装紙を乱暴に開けて装備する

さぁ、反撃の時だ


漫画手裏剣の手ごたえがないことを悟ったバイトは雑誌と漫画を左腕で抱えながら少しずつ近付く

あの男の反射神経、並々ならぬものだ

玄武の構えはやや俊敏性において他の構えには劣る

しかしそれを感じさせないサイドステップ、敵ながら見事だ

彼女は相手を心の中で戦士として賞賛し、雑誌を一つ右手に装備して慎重に男のいる棚の前の棚に来た

気配はする、しかし動く様子はない

待ち伏せているのか?ならば迂闊には攻撃できない

不意打ちを恐れ歩む足を止めて立ち止まるバイト

しかしその瞬間それを合図に棚に隠れていたサラリーマン風の客が現れた

一気に倒さんと彼女に素早く接近する、その姿は電光石火の如く

しかしそれを頭に入れていたバイト、力強くバックステップし後ろに逃げながら雑誌手裏剣をサラリーマン風の客に照準を定めて放つ

詰め寄ってくるサラリーマン風の客は自ら的になってしまった

やけくそになったわけではない、戦士は今勝機を見出していたのだ

飛んできた数冊の雑誌を装備していたフランスパンで叩き落す

谷川フード製造 大きなフランスパン

別商品の 谷川のフランスパン の1.5倍の大きさが特徴のパン

硬さは噛みごたえのあるちょうどいい硬さで味も小麦本来の素朴な、しっとりとした美味しさ

お値段も138円(税抜き)とリーズナブル

主に運動部の学生やサラリーマンのランチとして活躍している

そんな頼れる谷川フードの大きなフランスパンを両手に装備して雑誌を叩き落す勢い、鬼神の如し

フランスパンから伝わる勝利への気迫が雑誌を落としているようだ

バイトはそれを感じ取ったのだろう

今のまま雑誌手裏剣を投げていても無駄と考え雑誌を捨て店の奥に走り出す

上半身玄武の構えのままバイトに詰め寄る、ここが勝機と判断し得意のカウンターを決めた戦士サラリーマン風の客

彼にとって谷川フードのフランスパンは鬼に金棒

硬さは守りに使え、得意のカウンターにも繋げられる攻撃力

店の奥へとバイトを追いかける


バイトは頬から冷や汗が滑り落ちるのを感じた

フランスパンによる隙のない防御、そして攻撃

今の彼をどう攻略すれば良いのだ

同じフランスパンで対抗するという策を思いついたが扱いの差で負けてしまうだろう

男はあの手の武器を握られせば強敵だ、それは今感じてきたことだ

それに男がフランスパンをこちらに握らせてくれる猶予を与えてはくれないだろう

あの男を突破してフランスパンを手に入れれば勝てる、なんていう保証はない

フランスパン、どう突破するか....フランスパン?フランスパン....!

彼女もまた戦士だった、闘いの中で己の知識をフルに使い戦況をひっくり返す打開策を考えつく頭の速さ

腕力だけが闘いを決めるのではない

目の前の物をweapon(武器)として生かしてやるのも戦士の素質だ

バイトの目の前の棚は紙パックのドリンクコーナー

ペットボトルになくて紙パックである飲料、それを手に取り口を開けて迎え撃つのだ、あのフランスパンの鬼神を

力で全てを制するわけではない、思い知らせてやる


サラリーマン風の客が彼女に追いついた時

入り口とは反対方向に位置する角でバイトは仁王立ちしていた

どうやらここで迎え撃つようだ、その証拠に自信気のある顔

落ち着くんだ自分、俺には谷川の大きなフランスパンがある

過信はいけないが適度な自信は身を励まし己を奮い立たせる

カウンターを決めれば勝てる、玄武の構えのまま一直線に接近する

5、4、3mと近づいていく、しかし何もしてこない

右手は背中に隠れて何か見えない、あれで迎え撃つのか

2、1m、そしてフランスパンの圏内に入った

バイトは右手に隠していた物をサラリーマン風の客の前にぶつかるように差し出した

やられるか、反射的にサラリーマン風の客はそれをフランスパンで薙ぎ払った

腕力だけが闘いを制するのでない

彼女の思惑通りだった

その有り余った腕力も方向を間違えれば脅威でもない

右手に出した物は若者に人気の午前の紅茶 ドラゴンスターティーだった、そう囮だ

本命は左!左の紙パックなのだ!

右にばかり気を取られていたサラリーマン風の客は左への注意がおろそかになっていた

右をわざとらしく隠すことによって右手に気を引いていたのだ

左の紙パックの中身をサラリーマン風の客めがけてぶち撒けた

白い液体が黒のスーツにかかってしまう、そしてフランスパンにも

しまった、そう思ってももう遅い

既にその液体によりフランスパンは使い物にならなくなった!

その液体の正体は牛乳

給食などでパンを早く口に詰め込んで詰まった時牛乳で溶かした経験はないだろうか?彼女はその経験を生かしフランスパンの無力化を図ったのだ

そして彼女の思惑通りフランスパンは牛乳によりその硬さを失いへなへなのパンへと弱体化してしまった



やるな、後ろに下がりながらへなへなになったフランスパンを捨てて好敵手の顔を見る

無力化できた喜びではなく次の一手を模索しているような顔をしている

戦士だ、まさしく闘いに生きる戦士だ、強い.....勝敗は簡単にはつかない、だから良いのだ

サラリーマン風の客はバイトを褒め称え、闘いを褒め称えた

ごめんなさい

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