親友
ウィナと別れてから暫く進んでみた。
すると、街の中心なのか、かなり広い通りに出た。そこには中心に置かれた噴水と、向かいになかなか大きな駅があるだけだ。
この駅はこの街の象徴とも言える。確か、これができた理由は 「人を殺す兵器を造るくらいなら、人の為となる道具を造れ」
という、街の領主の発言だったか。
まぁ、魔物の出現が多くなり、結局は魔導兵器開発と導入するはめになったわけだが。
「さて」
噴水の近くに行き、黒いロングコートを身に纏った人物と向き合う。
相も変わらず周囲は炎に包まれており、風が頬を撫でる度に炎が意思を持ったかのように踊り出す。
「よう……あんたが噂の集団か」
「……」
返事はない。
「一体何が目的で、こんなことをした?」
無性に腹が立つ。罪のない人が多く失われたことにたいして。
「ふっ……」
今まで無言だったのがいきなり鼻で笑った。
「貴様……何がおかしい!!」
「久しぶりだな……デュマ……」
視界から消えると目の前に現れ、逆手で握られた刀を振るう。
「ぐっぅっ!?」
一瞬、脳裏に親友の顔が浮かぶ。
呆気にとられ慌てて剣を構え受け止めるも、凄まじい衝撃が腕にかかる。余裕がなく踏ん張るのに必死な俺。姿勢が無自覚に前屈みになる。それに比べて、あいつは随分と余裕な雰囲気。
片手で支えられていた刀を横薙ぎに振るい、俺を後方へと弾き飛ばす。
空中で受け身をとっていると一つの疑問が浮かぶ。勿論そんな状況じゃないし、そんな余裕もないことはわかりきっている。……気になって頭から離れない。
なぜさっき、あいつが浮かんだんだ。それにあの声……。
地面に着地をする。
「はぁ……」
深呼吸をして気持ちを落ち着けるが、それがなかなかうまくいかない。むしろ心の底に焦り、不安そういうものが渦巻いているのがわかる。
嫌な予感がする。手には変な汗をかいてるし、落ち着こうとすると落ち着けなくなる。
腕と刀を横に伸ばし、ゆっくりと歩みを進める。そこには言い様のない不気味さを感じる。
俺に向かってまた一歩、また一歩と進む。その度に、灰色のオーラが刀身を薄く包み込んで、金属の反響音のような音が耳を劈く。
俺は剣を握り直し胸の奥底で蟠っているものを飲み込むと、立ち上がりあいつに向かって走り出す。
距離が縮まると魔力をオーラ状に放出し身体強化を行う。剣を構えて薙ぐと、あいつは刀で弾き一太刀浴びせる。それを避けるも横腹を切り刻まれ、服と地面を紅く染める。
っぐっくぅ!!そういうことかよ……。一太刀であって無数の見えない斬撃ってか……。そうかそうか……お前はやはり……あいつなんだな……。
一瞬意識が飛ぶ。
……傷が深すぎるな。本来見えたらいけない、白いもんも見えてるし……しくじったな。
傷の痛みを押し殺し地面を蹴る。同時に、あいつも地面を蹴って迎え撃つ。
最初の一撃はあいつの横薙ぎ。それを上に回避し、後ろに回る。 案の定、横薙ぎと無数の斬撃により、さっきまで後ろにあった燃える家が、切り刻まれ崩れ落ちる。
身体強化をしていなければと思うとゾッとする。
後ろに着地すると剣を水平に振り斬撃を飛ばし、あいつは抜刀で切り裂く。2つの獲物が互いを受け止め、周囲の炎と家を軽く吹き飛ばす。二人の立つ場所は抉れ7mの円が出来上がる。
まだ余波が残っているなか、俺は後方へ距離を取り、あいつはそのまま距離を詰める。
俺の剣が空を切ると、そこへすかさずあいつの刀が襲う。剣と刀が交わる度に、火花を散らし衝撃波をうむ。お互いがお互い、家の壁を足場とし、飛び回りながら切り結ぶ。
そんな攻防をしていると、先に俺の限界がくる。
離脱し地面に着地すると、再び意識が飛びかけ膝をつける。勿論そんな隙を見逃すほどあいつはお人好しじゃない。
何とか2回回避するも、途中足がふらつき前屈みになる。蹴り飛ばされると横腹に鋭い痛みがはしる。あいつの刀が俺の体を突き刺し、そのまま持ち上げる。
「そういえば、俺のことが気になっていたな」
そういうと、ゆっくりと仮面を取り外す。
仮面の下にはやはりというか、昔の親友がいた。
眩む視界。だんだん意識が遠退いていく。
いきなりウィナ達がいる方で爆音がし、その衝撃波がこちらまで届く。並んでいたは家々は跡形もなく消滅し、燃え盛っていた炎も消える。
歩く足音が次第に大きくなり消える。代わりに聞き覚えのある声がする。
「こっちは終わった。そっちは……まだか。」
何も、見えないけど……多分……彼女かな……。
「もう終わる。それより、準備の方は?」
暗い闇のなかに意識が埋もれていった。
最後に聞こえたのは、
「始め……う……だ……い……ぼの……せん……うを」