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レクイエム  作者: 猫の祭り
序章
5/25

 見てきた世界

 燃え盛る炎、崩れ落ちる建物、生臭い血の匂い、不気味なほどに紅く照らされた今宵の空。

 

 「酷い現状だな……」

 「この街は今日の昼間までは、活気に溢れていた。穏やかに暮らしていたこの街の住人からしたら、予想もしていなかっただろうな。」


 近くに倒れている、無惨な姿に変わり果てた人のそばにしゃがむジューダス。

 

 「こいつらは、明日も穏やかな1日を過ごせると眠りについたら、たった二人にそれを奪い取れたんだからな。」

 「だからこそ、やつらを仕留めるために、俺達がここにいる。」


 無線を周囲を索敵しているウィナに繋いで、状況を聞く。


 「索敵不能です。まるで結界のように、強力なジャミングのようなものが街を覆っています。」

 「そうか。今、ジューダスをそっちに向かわせている。ジューダスと二人で目視で索敵してくれ。」

  「そうですか……」


 ん?俺の意図が伝わらなかったか?ウィナの頭の回転速度なら理解してくれると思ったが、説明が必要か。

 戦術論としてはかなり基本的なんだが……。


 「いえ、そうではなく……。分かりました。索敵しつつ、目標と遭遇次第各個撃破します。」


 うん。伝わってたみたいだが、一体なんだったんだ?



 

 ふう……。仕方ないと言えばそうなのだろうが、しかしな……。

 それはともかく、ジューダスと合流したし、始めますか。


 「ウィナは後方支援。いいな?」

 「分かってますよ……」

 「そうか」

 「……」

 「……」


 うわぁ……すごい気まずい……。

 やっぱりだよ。この人とはいろいろあったからねぇ……2年前に。 あれはちょうど、前リーダーが終息不明になる少し前か……。思い出したくないな……。


 「うわっ!!」


 先を歩いていたジューダスがいきなり立ち止まり、それにぶつかってしまった。 


 「いきなり止まらないでくださいよ」


 そう文句を言いながら前を向くと、そこには白いローブを身に纏った女性がたっていた。


 「これをやったのは、貴様だな」


 ジューダスは剣を構えながら、彼女に質問をする。


 「……」

 「なぜこのようなことを?」

 「……」

 「黙秘、ということか……。なら、」


 地面を蹴り一気に間合いを詰め剣を振る。ローブの女性は防御壁を展開して受け止める。


 「攻撃されても、文句はないな」

 「……」


 ジューダスは引き続き剣による攻撃に徹し注意を引く。彼女はジューダスの繰り出す斬撃を回避し、隙を見て反撃している。

 ジューダスの剣を水平にして突く。

 鋭い突撃からの薙ぎ払いを上半身を仰け反ることで紙一重でかわし、その勢いを利用してバク転のような動きで蹴る。


 「ぐっ、しまっ……」

 

 薙ぎ払いの動作によって避けきれず脳が揺れる。間髪いれずに膝蹴りをジューダスの鳩尾にはいる。


 「かはっ」


 鳩尾の痛みをこらえ、ジューダスが反撃に出る。勢いよく踏み出し斜めに振り下ろされた剣を蹴りで弾く。

 まるで消えたかのような速度で移動しながら彼女は蹴り、ジューダスはそれを引き付け剣で防ぐ。


 隙を作ってくれてる間に、火属性の魔法を詠唱し放つ。こんなにも5秒という詠唱時間が長く感じたのは初めてだわ。一見してジューダスが圧しているような感じではあるが、実際に圧しているのは彼女の方だったし。5秒って長いな……。

 無数に放った火属性の魔法は彼女を囲むようにホーミングして爆発。あっという間に煙に包まれる。

 

 「これで、多少はダメージを与えられたかな?」

 「……」

 

 一回のバックステップでジューダスが戻ってきた。

 だいぶお疲れの様子ね。

 ジューダスの背後に人影が表れる。


 冗談でしょ!?いつの間に……。

 咄嗟に叫ぶ。

 

 「ジューダス!後ろ!!」


 気配の探知で私が叫ぶのと同時に避けようとする。

 

 「がはっ!!」


 が、すでに遅く蹴り飛ばされる。

 炎が踊る家の壁を破壊しながら吹き飛ぶ。

 決して油断してたわけではないだろう。単純に速度の差。ジューダスが私の近くまで来たときはまだ煙が消えていなかった。だから、目の前の煙を、その中にいる彼女を警戒していた。でも、違った。本当に警戒しなければならないのは、その背後。彼女は煙の中から瞬時に背後に回り、ジューダスを蹴っ飛ばした。

 あくまでも予想だけど。


 私は剣を手にし斬りかかる。それを蹴りで弾き、私の頭を掴む。


 「くっ…」


 頭を吹き飛ばすつもりなのか、手に魔力を貯めている。


 「万事休す、か……」


 溜めた魔力が明るく光り、再び爆発が起こる。


 「なんてな……少しヒヤッとしたけれど……」


 私には被害がない。

 爆発したのは私が詠唱した魔法。

 これで確実にダメージを与えられたはず。


 「へぇ、考えたね。あのとき放った数発の炎のうち一つを爆破せず、防御壁を解いたときに、炎ではなく魔力に変えて私にくっつける。そして、私が頭を吹き飛ばそうとしたときに爆破とはね」


 えっ……ウソ……。


 「まぁ、ピンチになったときのために、保険として用意していたのだろうが……」

 

 そいつはゆっくりと立ちながら、埃を払うようにローブを軽く叩く。


 ようやく口を開いたかと思ったら、まさかあの人が……。

 

 「ねえ、聞かせて。どうしてあなたが、こんなことをしてるの?」

 「私が何か話しても意味はないよ。」


 やっぱり……。

 否定したかったけど、


 「だって、あなたはそれを理解できないから」


 そんなことはないと、きっと他人の空似だと……

 でも、これで確信できた。

 まさか、昔の仲間と相対する日が来るなんてね。  


 「あなたはにとって私は突如姿を消し、街を滅ぼした裏切り者でしかない。あなたにとって、それが真実でしかない。」 


 確かにその通りだ。

 私にとってはそれが真実。

 けれど、あなたにはあなたなりの出来事、理由がある。

 それもまた真実。

 

 「あなたにとっての真実と、私にとっての真実は矛盾していて、まるで嘘偽りだ」


 周囲の魔力が集まり始めているのか、妙な風が吹く。


 「気を付けろ!なにか溜めていやがる!!」


 ずっと、私たちのやり取りを黙って見ていたジューダスの声が響く。

 言われなくても分かってますよ。


 「そう……」


 仮面を取ると、懐かしい見知った顔をが露になる。

 けど、あのときとは違う。

 何故かこっちが、切なくなるような、悲しくなるような。そんな表情を浮かべ、一筋の光が彼女の頬を撫でる。


 「……まるで、あなた達の住む偽りでできている世界みたいだ」


 視界で捉えれるほどの高濃度の魔力が集まり、それまで穏やかだった風が突風に変わる。


 「人によって、いや……立場によって真実は真実ではなくなる。そう、偽りになるんだ」

 「この濃度は異常だ!!ウィナ、退避しろ!!」


 出来たらとうにしているでしょ!!


 白ローブの女性、彼女を中心に魔方陣が浮かび上がり、ダークグリーンのエネルギーがドーム状に渦巻き膨らむ。


 「さて、時間も惜しいし」


 出来る限りこの場を離れる。少しでも遠くに……


 「そろそろ、幕引きの時間にしよう」


 その声と同時にドーム状のエネルギーが大爆発する。

 周囲の建物を跡形もなく吹き飛ばす。


 

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